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伯爵令息転生女子  作者: くるみ
第1章
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1 前世の記憶



どこかの異世界の伯爵令息(次男)に生まれ変わった私。

前世の自分は何故死んだのか考えてみた。

そこは思い出せなかった。


最後の方の記憶は20代半ばぐらいだった。

私は昔から無口で引っ込み思案で、何をやってもどんくさい少女であり、

学生時代もパッとせず、結局二十歳過ぎても彼氏がおらず。

20代半ばになると、親が持ってきたお見合いを数件こなした。

自分のお見合い史上、一番嫌だなと思った男性の回で父親が言った。

「俺は断れない」


ーーーはぁっ?

娘が可愛くないんだなと感じた。

娘の幸せより、自分の対外的な評価を気にするんだなと。

母に後から聞いたら、父の知り合いの紹介のため、断るのが気まずかったという理由だった。


その母も私にとっては似たような感じだった。

学生時代は恋愛してはいけないという雰囲気だったのに、

大人になったら彼氏もいないのかと言ってきたのだ。


ダメだこの人たちは。

自分たちはお見合い結婚したのに、自動的に娘に彼氏ができるわけない。

恋愛には反対して。

適齢期には好みに1ミリも掠らない人を宛てがう。


こうなれば自分でなんとかするしかない。

実は多少努力してはいたけど、うまくいっていなかった。

でもこのお見合いを断らなかったら後悔すると思う。


きっと親も心配で言ってくれていると思う。

でも親があの相手と替わりに結婚してくれるわけじゃない。

そりゃあいろいろ思っちゃいましたけど。

相手にも断る権利はあると思いますけど。こんな性格悪い女もどうかと思うし。


大人しくしているから、優しそうに見えるからといって、中身もそうとは限らない。

何も考えていないなんて思われたくない。悔しい。

それが自分。ややこしい限りだけど。


よく考えてみれば、あのお見合い相手の人の何が一番嫌なのかといえば、

自分を理解してくれなさそうだったからだと思う。

それは彼だけが原因ではない。

自分にも原因はある。


普通に考えて、そこらになかなかいなさそう。こんな私に合わせられる人間なんて。

ネガティブすぎてほとんど人と関われない、喋るネタも思いつかない無口な女。

誰がいいと思うのだろう。誰が選びたいと思う?

たぶん若いからとりあえず断られはしなかっただけ。

自分が男だったら自分を選ばないだろう。

自分の何かを変えるしかない。


お互い全然好きじゃない結婚なんて不幸の元だ。

母だって、結婚を勧めてくる割には父の文句を言わない日はない。


なんだか怒りの気持ちが湧いてきた自分は、このお見合いは断る替わりに

自分で納得する相手を見つけようと決意したのだった。

人に決められた結婚で不幸になるぐらいなら、自分で決めた相手と結婚して不幸になった方が良い。

相当変な人でなければ反対されないだろう。

決めた。自力で頑張って無理そうなら諦める。


もともと大した取り柄のない自分なのだ。不器用なのだ。

最初からうまくいくわけがない。

無口な父も言っていたんだ。失敗は成功のもとだって。


若い時頑張ってなんらかのコツを掴めればそれでいい。

こういうのは年齢を重ねてからの方がもっともっと難しくなるだろう。

今やれないことを5年後、10年後にやれるわけない。

今取り組むべき問題だ。

こんな感じで婚活魂に火が付いたのであった。



ここまでが前世の記憶だった。

よっしゃ、これからやるぞー、って思ったところで途切れてる。


お見合い相手と結婚するのが嫌で死んだのだろうかとも思ったが、それはないと思う。

私には3つ年上の姉がいた。

勉強も、運動もでき、見た目も良い。明るく社交的な姉だった。

人望があり、完璧で、何でも持ってる人。

少なくとも私にはそう思えている存在だった。


そんな姉は、私が19歳の時に病死してしまった。

私は、家族にはいろいろ不満やコンプレックスがあったけれど。

悲しかった。人生で一番。

だから出来の悪い妹で悪いと思ってる。出来の悪い娘で悪いと思ってるけれど。

自殺は選ばない。選ぶことはできない。

姉ほどの価値は自分にはないと痛感しているけど、いないよりマシだろうって思うから。


だけど20代半ばからの人生を思い出せないということは、

きっと若いうちに死んでしまったんだろう。



何ということになってしまったのか。

私までいなくなったら、親はどれだけ悲しんだことだろう。

不出来な娘とはいえ。

姉がいなくなって、自分も死んでいたら。


前世の私は、自分だけ死んでて姉だけ生きてたらというのも何回も想像してた。

出来の悪い自分の方がいなくなったら都合が良かったのに。

でも、親にとってはきっとそうではない。

そういうことを言われたことなんてないから。

平等に育てようとしてくれていたと思う。

自分がひねくれてただけだ。


そういうことも含めて、考えていると涙が止まらなくなってしまった。

辛かった。悲しかった。

何故姉がいなくなったんだろうという気持ちがずっと消えなかった。



その時、ノックの音がして扉が開いた。クロウだった。

「お食事をお持ちしました…坊ちゃん?」


私は顔を見られたくなくて、顔を背ける。

でも心配したクロウは余計に覗き込んできた。

前世の自分、泣き虫だったなと、冷静な自分がどこかで見ている。

涙は止まらない。泣き始めるといつもそうだったな。


結局、クロウに抱きついたまましばらく泣き続けてしまったのだった。

黒髪の美形な上に、優しいんだな。クロウは。

何も言わないでくれた。

そして美しい男性にしがみついてる、そこそこ美少年の自分。

この構図怪しくない?と思ったけど。



泣き止んだ後に、食事は美味しくいただきました。

お腹空いてたんだよね。



次の日、クロウに

「コリン様。王女様と何かあったんですか?俺で良ければ話聞きますよ」

って言われた。

失恋したと思われてる?

違うしー。そうじゃない、誤解だ。

言いたいけど、本当のことは言えない(面倒だし)ので放置してしまった。



でもそう思われる心当たりがある。

コリン・フォレストは王女のことが好きだった。

何故前世の記憶が戻ってしまったのかな。

戻らない方がきっと幸せだったのではなかろうか。


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