36 陛下(ジョン視点)
私は、陛下と久し振りにお会いした。
陛下とは学生時代の友人だった。
今でもやり取りが続いている。
陛下は学園のダンスパーティー当日、ふらりと私の研究室にやってきた。
「おお、懐かしいな」
そう言って室内を見回しながら楽しそうに微笑んでいる。
「今日はダンスパーティーに出席するんですか?」
「そのことなんだけどな…」
陛下はこっそりと、息子と娘の様子を見学したいと言う。
変化したいらしいのだ。
ここにもお忍びでやってきた。
「これなんてどうかな?」
持ってきたいくつかの宝石の中から、黒い石のついた指輪を手に取る。
これで変化の指輪を作って欲しいようだ。
「どんな人に変装するのですか?」
「若くて、生徒風で、目立たなくて、
できればダンスに参加したい」
「ご自分の姿で普通に参加なさればいいじゃないですか」
「国王が来たりしたら、みんな緊張して楽しくないだろう?
公式行事でもないのだし。楽しい方がいいじゃないか」
陛下…そういう人だよな。
「そういえばさっき…」
私は気が緩んでいた。
これは口外すべきではないと気づいた時には陛下の目が光っていた。
「なんだ?言ってみろ」
こういう時の陛下は達が悪い。
大体諦めない。
根は悪い人ではないから、そんな悪いことにはならないと思うが。
私は、コリン・フォレストの姿になった。
瞳は紫色のままだが。
「コリン・フォレスト。さっここにいた生徒です。
彼なら確実に参加しませんよ。目立つタイプでもないです。
その彼の婚約者が貴方の息子さんと踊るそうですから。
女性に変化して出かけていきました」
「ん?息子はレベッカと踊るのではないのか?そう聞いていたが」
「それを阻止するために出かけたんですよ、コリン・フォレストは」
「……。よくわからんな」
そう。言っている自分も混乱する。
わかりにくい。
「エド王子と踊るはずだった女性は現在、男性のコリン・フォレストになっています。
彼は変化で女性になって出かけました。
レベッカ嬢は本来のレベッカ嬢です。心が男性のね。
エド王子がどちらの女性を選ぶのか見ものですね」
「ああ、思い出した。
レベッカが選んだ例の婚約者の事だな。
そういえば息子もレベッカと婚約すると言っていた事があったが…。
その時の彼女の心が、実はフォレスト伯爵家の令息のものだったというわけか。
つまり、息子とレベッカはライバル同士…ということになるな。これは面白い。
…では決まりだな」
こうして、陛下はコリン・フォレストに変化することとなったのだ。
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「ちょっとその顔は違いますね…もっと眉の所がこう……
髪の色はもうちょっと薄く……そんなにお腹は出ていませんよ!」
「そんなに怒らなくてもいいだろう?」
ああでもない、こうでもないと、微調整が行われて、
変化の指輪が作られた。
私はコリン・フォレストを、さっき会った一度しか見たことがない。
陛下も数ヶ月前に一度会っただけだという。
どうも印象としてボヤけるのは致し方ない。
我々の年齢による記憶力の低下も影響しているかもしれない。
後は、瞳の色が問題だ。
陛下の瞳の色は濃い青。
このコリンは、本人と見た目が微妙に違う気がするので、
誰かに気づかれたとしても、かえってごまかしが効いていいのかもしれない。
何か問題が出た時、よく似た他人だと言い切ればいいのだ。
後日聞いた話によれば、
陛下は、このコリン・フォレスト風の変化で
エド王子に振られていたレベッカ嬢に近づき、
彼女に借りたメガネをかけ、彼女と一緒にダンスを踊っていたそうだ。
第2王子のライバルはレベッカ嬢。
その足止めをしたのだな。
強力な足止めだ。最強だろう。
陛下は息子にチャンスを与えることに成功したのだ。
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ダンスパーティーの2日後、本物の方のコリン…
前世の名前は風子と言ったか。
彼女がレベッカの身体に戻り、研究室にやってきた。
『変化中に男女の仲になったらどうなるのか』
という事を真面目に聞いてきた。
心配だったのだろう。
…ということは、彼女は第2王子と何かあったということだ。
私の失言が引き起こしたことかもしれない。
いつか埋め合わせはしようと決意したのだった。




