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敵国ベルツの戦乙女③

 無事暖かい飯にありつけた俺たちは、しばらく惰眠を貪った。戦争がはじまって兵士になってからは決められた時間に寝て、決められた時間に起きる生活だったから、ここまでのんびり過ごしたのは久しぶりだ。


 眠りから目覚めたあと、ふと部屋の片隅に目を向けると、なにやら古い楽器のようなものが目に入った。それは埃を被っているバイオリンだった。弦は全て切れていて完全に壊れてしまっている。


 彼女はベッドから起き上がったあと、まぶたを眠そうに擦りながら、その壊れたバイオリンに近づいた。


「ノドル語で書いてある、これはノドル製のバイオリンだね」


 ノドルは俺の母国の名前だった。戦争が始まってからは一度も帰っていない。家に残した母親と妹は元気にしているだろうか。


「レーナ、気になったんだがどうしてノドル語を話せるんだ?」


「プライマリスクールのときに2年くらいいたんだよ」


 レーナは長く伸びた前髪を指で何回か伸ばしたりしながら言った。


「それは随分と長期間だな? どこにいたんだ?」


「首都近くのハイスローだよ」


「ハイスロー!? 嘘だろ? 俺の地元だ。プライマリスクールってことは何年前だ?」


「5年前…かな? 戦争がはじまる直前。ノアもいたの? 凄い偶然だね」


「そのときは俺も地元で働いていたはずだ……、ハイスローのどこにいたんだ?」


「6丁目の音学学校だよ」


「アメージング…嘘だろ!? 俺は6丁目の青果店で働いていたのさ」


「ええ、私。果物が大好きだから何度か買いにいったかも」


 クスクスと笑う彼女。細い睫毛が揺れていた。もしかしたら昔、彼女を相手に接客したことがあるのかもしれない。


「音楽学校ってことは、音楽留学か?」


「うん。ベルツの国内音楽大会で優勝して、ハイスローへの音楽留学の権利をもらったんだ。ハイスローは音楽の聖地でもあるからね」


 レーナはバイオリンの才能があったらしく、幼いながらも音楽学校で学ぶことを認められていたらしい。しかし、ベルツが世界から孤立し、戦争がはじまる直前に帰国させられたのだ。


「6丁目には楽器店があってね、そこでみた楽器が忘れられないんだ」


「へえ、どんな楽器だ?」


「凄く新しい楽器だったな、見たこともなかった。見た目はバイオリンに似てるんだけど、腰から下げて演奏するの。それでスピーカーから雷みたいな面白い音がするんだよ! 確か…うーん…あ、エレキギター!」


 ふんふんと鼻息を荒くして、テンション高く語る少女。エレキギターなんて聞いたことがない。しかし、音楽の才能のあるレーナのことだ、きっと面白い楽器なのだろう。


「…あの楽器、一度でいいから触ってみたかったな。無理を言ってでも触らせて貰えばよかった。あの楽器から奏でる音楽を聴いてみたい」


「触ればいいじゃないか」


 戦争が終わったら、という次に出かけた言葉を飲み込んだ。ふとした瞬間で俺と彼女が敵同士であり、どうしようもない隔たりがあることを思い出させてしまう。


「そうだね、そんな日がくるといいね」


 小さく呟いた彼女の顔を見てみると、頬に一筋の涙が溢れているのに気がついた。


「ノア、お願い。今だけ、今だけでいいから近くに行かせて。そばに行ってもいい?」


 レーナはふらりと近づいてきて、そのまま俺に身体を預けてきた。肩を小さく震わせて泣いている。彼女の体重を感じる。軽いけれど確かな質量を感じるその身体。


 俺は戸惑いながらもその身体を抱きしめてしまった。


「ごめんなさい。私はズルイの。私の戦争の中での『罪』を知ったら、ノアは今すぐにでも私を突き飛ばすと思う。これがその証拠」


 レーナは胸元の鉄十字を差し出した。ベルツから授与される勲章だった。


 罪という言葉。例え戦争で勝ったならばいくら人を殺しても罪にはならないのかもしれない。しかし戦争に負けたならば、その行為は……罪なのかもしれない。


「罪が全くない人間なんてほとんどいないさ。ただこの場だけは、俺の行為もレーナの行為もお互い語らないように……した方がよさそうだ」


 ズルイのはどちらだ。と俺は自分の心を戒めた。

次は1月上旬を予定してます。

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