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敵国ベルツの戦乙女①

 気を失っていたらしい。

 意識を取り戻してまず目に入ったのは、見知らぬレンガ造りの天井と、隣のベッドで寝息をたてる銀髪の少女だった。


 少女は軍服を着ていた。

 黒を基調したジャケット。灰色のシャツに緋色のリボンタイ。ダークな色合いのそれは、敵国ベルツの軍人であることを意味している。階級章には銀色の線が数本、少女であるのにも関わらず士官のようだった。


「若い娘……にも関わらずこの階級。ベルツの戦乙女(ヴァルキュリア)か?」


 俺の声で気がついたのか、少女はベッドからゆっくりと起き上がり小さな欠伸をしたあとこちらを見た。蒼い瞳は透き通っていてとても綺麗だった。とても、『血塗られた』戦乙女の姿とは思えない。幼気な表情。


「……おはよ」


 少女が話しかけてきた。ベルツ語ではなくこちらの言葉だった。


 俺は近くにあった鉄片を手に取るとそれを彼女に向ける。戦乙女の魔力をもってすれば、俺一人を葬ることなど容易い。


「そこを動くな! 戦乙女とはいえ、この距離感なら殺すこともできる!」


 少女は驚いたのかグッと顎を引くと、小さく両手を上げてみせる。抵抗する気はなさそうだ。

 そもそも、俺を殺す気だったら気を失っている間にどうにかできただろう。この状況も馬鹿馬鹿しくなり、俺は手に持っていた鉄片を足元に捨てた。


「……申し訳ない。恐らく助けて貰ったんだろうが。なにより戦乙女にはいい記憶がなくてな」


 少女はふるふると小さく顔を横に振った。


「ここはどこだ?」


「分からないけど。恐らく、グライフィル近郊……」


「グライフィル近郊? ベルツ国境から100キロメートル南の場所じゃないか! そんなところまで流されてしまったのか!?」


 俺が気が付いた場所は民家のようだった。窓から風景を見ると、田園風景が広がっている。ぽつりぽつりと古くはないが家々が建つ。周りに人の姿もない。どうやら戦争の中で打ち捨てられた廃村なのかもしれない。


 俺はベルツ国境付近を偵察任務のため単独飛行をしていたが、どこからか飛んできた対空砲火によって撃墜されてしまったのだ。

 必死に操縦桿を握ったが空しくどんどん高度は下がり、もう駄目だと思いパラシュートを起動させたところまでは記憶に残っている。


 それにしても、想定外の場所まで流されてしまった。

 通信機もない今、司令部に連絡を取ることも不可能だろう。


「あなたは、私の近くに落ちていた。だから連れてきたの」


「連れてきた? 君も撃墜されたところか」


 少女は小さく頷く。

 戦乙女は我々の言葉で『ウィッチクラフトアーマー』という専用の鎧を身に着けて戦う。生まれ持った才能を持った少女達が魔力を原動力として戦い、通称「戦乙女」と呼ばれる。

 彼女達は戦車よりも強く、飛行機よりも早く飛び、各激戦区で切り札として戦線に投入され戦果を挙げてきた。事実、敵国ベルツの戦乙女によって同胞の飛行機乗りは次々と帰らぬ人となった。


「で、君みたいな少女がどうやって俺の身体を運んだんだ? 魔力か?」


「最後に残った魔力を使ったの、これで私のはおしまい」


「……そうか、なぜ、俺を助けたんだ?」


「分からない……私は軍人だから。本当は殺さなきゃいけないんだよね」


 戸惑いながら話す彼女を見る。

 露出した二の腕には過去に刻まれただろう、なまなましい傷がいくつも刻まれていた。既にそこまで傷ついている事実。母国の戦乙女だったら、とっくに多額の軍人恩給が渡されたのち、退役していることだろう。


 5年近く続いた世界大戦は、敵国ベルツの敗戦で幕を閉じようとしていた。

 総統と呼ばれる独裁者に支配されたベルツは国民全員を巻き込み、自らの正義を掲げて世界を相手に戦争を仕掛けた。破竹の勢いで世界の三分の一を侵略したまでは良かったが、もともと物量に差があったため、今や首都と数個の都市を残して陥落している状況だ。


 そのとき、きゅるると少女の腹が鳴る音がした。

 恥ずかしそうに、その白く透き通った顔を赤くしている。


「とりあえず、飯でも探しに行くか」


 俺が提案すると、少女は「うんっ」と小さく微笑んだ。

 前線から遠い場所で、俺と少女の二人だけ世界から残されている気分だった。

短く纏める予定ですが、需要頂ければ続けるかもしれません。

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