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2、入れ墨注意

徐々に日が傾いていく中、俺たちは召喚者が必ず立ち寄るはじまりの村”コーザス”を目指して歩いていた。


「なぁ、そのお前の言ってるジジイは召喚者を”うっかり”10000人を呼ぶようにしちまったんだろ?」


死ぬ直前の元の服装のまま召喚されていたらしく、首元のネクタイを緩め、スーツは脱いで肩に、おろしたばかりのピカピカの革靴は既に見る影もなくドロドロ。なんなら履きなれて無いせいで靴擦れか少し痛む。


「そうね、ただ10000人を一度に召喚したわけじゃなくて、あなたの先輩勇者が魔王を討伐し、魔王の結界が解かれてからがもう地獄だったわ…」


ファーリアの視線が遠くを見すぎて、もうどこかにトんでいた。


「うっかり10000人で設定した時点で、ジジイの死は確実だったわ。一人、二人と召喚されるにつれてどんどん弱っていってね…。ある程度今後の展開も想定はしつつ最初は10000人来るまでは生きられるだろうなんて思ってたらしいけど、魔王の結界が解かれた途端、一度に5人、しばらくして10人、もうしばらくして100人…なんて具合よ」


 よく聞けば恐ろしい話である。大本命の魔王が倒されてるというのに、もう済んだ目的のために次から次へと人員が投入される、しかも多すぎるくらい多く。

 大したプロジェクトでもない事業に、他社から優秀なスタッフを高給で雇い入れて「じゃあスタート」みたいなもんである。


個々の能力が高い上に目的が小さすぎると簡単なことさえ難しく考えてしまった話がまとまらず進まなくなる。まさに”船頭多くして船山に上る”状態である。


「そんな状況、一体今までどうやってやり過ごして来たんだ?ましてや俺が最後の10000人目なのはいいとしてだ」

「そこなのよ、最初の数人には『本命の魔王がすでに倒されてる』なんて言えなくてね。『火の大陸に魔王が…水の大陸に魔王が…』みたいな感じで各大陸を滑る”大精霊”を討伐させて、それがいなくなれば今度は「火の島にいる邪龍が…水の島にいる邪龍が…みたいな感じよ」


とんでもない話である。

そんなもの、大陸と島の数だけしかいない11体のボスを討伐なんて一瞬で終わるではないか。


「だとすれば、まとめて召還された勇者たちはどうなった?最初の11人はそれぞれ目的があったからどうにかなっただろうが、それ以降の奴らは??」


「そこは導き役のあたしがね、まぁジジイに創られたこの世界の意識の集合体?みたいなもんだから、必要な数だけ分身して、各勇者に付いて回ってさ。同時召還された時なんかは特に大変だったわよー。なんせそれぞれの勇者が鉢合わせしないようにアレやコレやともう…」


 また泣いている。そりゃあ10000人の勇者にそんなことしてたんじゃ今、目の前にいるみたいに疲れ果てて心身ボロボロにもなるはずだ。


「だがそれも最初の、よくて数十人までだろ?あとの膨大な勇者はどうしたんだよ」


純粋な疑問である。

討伐対象がいなくなり、平和この上ない世界にいるはずもない魔王を討伐するために召喚された勇者など、パソコンのない会社に呼ばれたプログラマーみたいなもんである。

そんな奴らが残り数千人も雇ったところで、給料が払えなくて破産確定だろう。


…あ、だから創造主は死んだのか。


勇一は妙に納得した。


「そうなるのよ。だからね”勇者の加護”の説明はあえてせずに適当にスキルの選択肢を与えて選ばせて、それぞれが勇者並みのポテンシャルを持った”とんでも能力者”になってるはずよ。この世界のどこかで…、あっ!」


突然、ファーリアが大きな声を出して止まった。


「いきなりなんだ?」

「そうそう、あなた…勇一だっけ?記念すべき10000人目だから…って訳でもないけど、スキル選ばせるのを忘れてたわ。両手を開いて、手のひらを下にして前に出して」


なんだか分からないまま、言われたとおりに両手を差し出す。さながらネイルアート後に爪を乾かしている女子のようである。


「いい? 今からあなたにスキルを付与してあげる。まず右目を閉じて、左目に意識を集中して力を込めてみて」

「ウインクはあまり得意じゃないんだがな…」


言われるがままに、左目に力を込めると突然空中にパソコンのウインドウのようなものが現れた。


「おおっ!! なんだこれステータスウインドウってやつか!?」

「そういうこと。あなたのレベルに攻撃力、防御力に魔力、あと特殊スキルなんかも確認出来るわ」


ファーリアは続けて説明する。


「もちろん、それは他人には見えないし本人にしか見えないから安心して。あと今出してる両手にはね、指の本数だけスキルを得ることが出来るわ。スキル1つに対して指一本に指輪のように紋章が刻まれるわ。紋章の数は人によるし」


全部の指にそんな紋章が刻まれたら、どこかのギャングかマフィアの幹部みたいになりそうである。


「だから気を付けてね」


 その一言はファーリアが今まで発してきたどの言葉よりも重く聞こえた。


「まぁスキルは村についてから考えるとして、それはどういうことだ??」


不格好に突き出していた両手を引っ込める。


「指に紋章が刻まれてる人をみたら、その人は”異世界召還者”って事よ。まぁただのファッションで刺青をしているももちろんいるだろうけどね」


納得である。

至極分かりやすい特徴であり、さらに言えば人数は自分を含め10000人。

もちろん、”勇者の加護”とはいえ戦闘で死んでない限りは老衰や病死だって死ぬ可能性がある訳…


嫌な考えが頭をよぎる。


「まて、10000人の勇者が知る知らないにかかわらず”勇者の加護”を受けているなら、まさか全員生きているなんで事は…」

「安心して。それは無いわ。ちゃんと人としての一生を終えられる様にはなっているから。戦闘で殺された場合のみよ、復活するのは」


それを聞いて心底ホッとした。


「まぁベースが勇者スペックだからそうそう無いでしょうけど、もちろん事故死だってあり得るし、病死、人によっては殺される場合もあるわ。」

「おいおい、人に殺されるって戦闘ってことじゃないのかよ」


色々引っかかる説明が多い気がするが、10000人も説明を繰り返していたら色んなケースもあったのだろう。


「そうそう、戦闘の時は左目のステータスウインドウで勝手に赤字で”戦闘”って見えるようになるから。まぁ相手がこちらに敵意を向けてる魔物とか獣の場合に限るかな?」

「なんだよそりゃ…。便利なんだか不便なんだか…」



夕日が赤く燃え尽き、徐々に空が紫色を帯びてきたころ、目的の村”コーザス”らしき村の明かりが見えてきた。


「もうすぐ着きそうね。村は召喚者のスタート地点、とりあえずの宿屋はしばらく無料で寝泊まりさせてくれるからそこでゆっくりしましょう」

「ったく、何が『簡単に説明する』だよ。結局お前にぶん殴られてからここまで、ずっと説明しっぱなしじゃないか」

「まぁあなたで召喚者は最後だからね、あたしもちょっと気が楽なのは確かよ」

「それじゃ話の答えになってねぇよ…」


そうして二人は終始話しっぱなしのまま、はじまりの村の門をくぐった。


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