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1、始まりにして終わり

「おい」


…ペシペシ。


「おーーーーい」


…ベチベチベチ。


「いい加減起きてよ、日が暮れるわよ?」


その言葉でぼんやりと目が覚めるが、なかなか焦点が合わず声の主を見つけられない。


「どこ見てんのよ、こっちよこっち」


どうやら俺は仰向けで寝ていたらしく、声のする頭上へと視線を向ける。

 するとそこには手のひらに乗るほどの小さな赤い鳥類の翼のようなものを羽ばたかせて飛び回っている女の子?のような生物がいた。

 寝ぼけたまま俺はおもむろに右手を伸ばし…


「おっ、おい…ちょっと待てy…んぐっ!!」


右手に伝わる羽の感触と温かさ、そしてその質量感。


「っっっ!?!?!?」


すべてを思い出した俺は手に掴んだそいつを明後日の方向へぶん投げて飛び起きた。


「なんだっ!?どうなってる!? 今から大事な商談に行かなきゃならないのに背後からトラックに突っ込まれて吹っ飛んだあと、大事なカバンと右半身があり得ない場所にっ!!?」


と、さっき何かを掴んでぶん投げた右手を見つめる。


「…ちゃんと付いてる、それに足も…カバンは無いが…一体何がどうなってる?」


訳が分からず右手をグッパグッパしていると、左顔面を思いっきりぶん殴られた。


「ブハァッ!? 痛ってーな!!何だよ!!」


「何だよ!!じゃないんだよ!!!いきなり人のこと思いっきり鷲掴みした後ぶん投げやがって殺すぞテメェああぁん!?!?」


目の前には赤い翼を生やした小さな女の子?のような生物が自分の身長の何倍もありそうな木の棒を持って浮遊していた。


「いーから、アンタは今から黙ってあたしの言うことを聞きなさい!」


「ちょっ!? いきなりなn…グハァアッ!!」


そいつは問答無用で俺の左顔面を持っていた木の棒でぶん殴ってきた。


「他人の言ったこと聞いてた?黙って聞きなさいっつってんでしょうが!!」


「…はい」


片手で握り潰せそうなそいつの剣幕に負け思わず返事をしてしまったが、「チッ」と舌打ちをされただけで、とりえあえずは殴られずに済んだ。

 まぁ俺の血が付いた木の棒を片手でパシパシと叩きながらではあるが。


「話せば長くなるから簡単に説明するわ。よく聞きいて理解しなさい」


翼の生えた謎の小さな女の子(ここでは仮に妖精としておこう)は呼吸を整えて服の乱れを直している。


…事故って死んだ俺がこんな所にいるって事はマジで異世界に転生したのか?

…ってことは何かしらの冒険が始まって、俺がこの世界を救う勇者ってことか?

…だとしたら、現実世界の仕事は実際俺の人生の山場になりえる案件だったが、これもなかなか悪くないんじゃないか?


【異世界転生モノを読み漁っていた主人公は飲み込みが妙に早かった】


そんな考えを膨らませながら妖精?を見ていたが何やら思っていたモノと違って様子がおかしい。


髪の毛は後ろで軽く束ねられているがボサボサ。

来ている服は悪いものでは無さそうだが妙に薄汚れている。

そして何より、顔というか肌に張りが無く、目の下にはデカいクマが出来ている。


「…ふぅ、やっと落ち着いたわ。」


パンパンッ!っと腿の部分をはたくと妖精?が話し始めた。


「あたしの名は”ファーリア”。あなたは元いた世界で死に、魔王討伐の為に召喚された勇者です。『勇者の加護』という特殊な能力を持ち、例え魔物に殺されてもしばらくすればレベルもそのまま元通りに復活出来ます。まぁ装備は復活までに奪われたり何なりで無くなるでしょうけど…」


…ってことは無限にレベルが上げられるってこと?ほぼチートじゃない??


そんなことを考えているが、妖精?もといファーリアが話を続ける。


「ただし、あなたの世界で流行っていた”異世界転生モノ”?とは訳が違うからよく聞きなさい」


…ん?


明らかにおかしなことを言われた気がして思わずツッコむ。


「ちょっと待ってくれ、なんで俺がいた世界のそんな流行りを知ってるんだ?それに俺は趣味で散々そのあたりの物語を読んできたが『訳が違う』ってどういうことだ??」


質問したことに対しファーリアの視線が鋭くなる。


「黙って聞け…と言ったけどまあいいでしょう。その質問は許してあげる」


また殴られるのかとヒヤっとしたが、そうならずに済んで良かった。


「この世界には5つの大陸と6つの島で構成されているの。大陸は火・水・土・風、それと光と闇はセットで5つね。島はこの6属性毎に存在しているわ。そして魔王は”光と闇の大陸”にいたの」


それであれば散々見聞きし、プレイしたファンタジー系のゲームと何ら変わらない。

が、ここでもまた違和感に気付く。


「おい、魔王が”いたの”ってどういうことだよ、俺はそいつを討伐するために召喚されたはずだろ?なんだ過去形になってんだよ」


「そう、良いところに気が付くわね。あなたが召喚される遥か昔に召喚された勇者、まぁあなたの先輩とでも言っておきましょうか。その人が魔王を倒しちゃてね」


ファーリアは「はぁ…」と深いため息を付きながら続けず。


「まぁその人も私がこうやって初めて出会ってから魔王討伐まで導いた訳なんだけど、それがまたどうにもこうにも上手く事が運ばなくてね…アッハッハッハッハ(泣」


ボロボロ涙を流して説明をしながら笑っている。普通に考えて導き役がこんな状態だと先が不安でしかないが、そこは状況が状況なだけに黙って続きを聞く。


「ぶっちゃけるとね、この世界を創った【創造主】にあたるジジイがいたの。名前は”デルミゴール”っていうんだけどね、私もそのジジイに作られたの。ジジイが気まぐれで創ったこの世界の導き役としてね…。あんのクソジジイ、今も生きてたらグングニルで串刺しにしてエクスカリバーでなます切りにした後、地獄の業火で炙り焼きにして食ってやるのにぃぃキィィイイイーーーッ!!!」


さっきまで泣いていたかと思ったら今度は顔を真っ赤にして怒り狂っている。

どうやら相当苦労をしているようだが、ここでまた一つおかしなことに気付く。


「まてまてまて、さっきから言ってることがおかしい事ばかりだ。今お前は『今も生きてたら…』なんて言い方をしたが、まさか創造主たるものが死んだのかっ!?」


「はぁっ…はぁっ…、え?そうよ死んだの。ジジイの気まぐれに付き合わされてるあなた方勇者には気の毒だけど、まぁ残されたあたしも大概だけどね」

「なっ、普通あり得ないだろ??なんでそんなことに…」


 これもよくあるパターンだ。仕組まれた世界、誰かの意思で動かされて、その違和感に気付いてその世界のルールから抜け出して、世界を創った相手に戦いを挑む。まさかその大ボスの大ボスと言える奴が死んでるとは一体…。


「ジジイが死んだ理由はね、力尽きたの」

「は?力尽きたって、創造主たるものがそんな非力なことってあるか?」

「いいえ、もちろん万物を作り上げるくらい造作もない力の持ち主よ」

「じゃあなんで…、まさか老衰って訳でもあるまいし…」


浮かんでくる疑問をあれこれと話しているとファーリアの顔つきが変わった。


「ジジイは『世界を一つ創るなんて簡単だ』なんて言ってたわ。そうね、あなたの世界のイメージで例えるなら『粉に水と色々混ぜてパン?を焼くみたいなもんだ』と。」


たとえ話が分かり安すぎて呆れてしまう。そんな程度で世界は作れるのかと。


「ただ、ちょっとした出来心で『力は使うが自分が創ってない世界から勇者を呼び寄せたい』なんて言い出してね。なんでも自由に創れるクセに『”異世界からの召還”だけは一人呼ぶだけでも結構な力を使うんだ』ってね」


「まてまて、まさかその先輩勇者と、今の俺を呼び出して力尽きたのか!?」

「あははは、そんな訳ないじゃん。そんな程度でくたばってたら創造主なんて務まらないよ」

「じゃあなんで…」


話がグルグルと回り始めたと思っていたが、突然話の核心をファーリアが言った。


「異世界召還のレシピを間違えたんだって」

「…何?レシピ間違えた??」

「そう、話の中で”一人だけでも結構な力を使う”って言ったでしょ?」

「たしかに…」


…その言葉を聞いて、さすがの俺でもピンときた。


「まさかっ!?」


ファーリアが疲れ果てたような力のない笑顔でこう言った。


「そう、1人だけのつもりが間違っちゃったんだって…、”10000人”と」


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