伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』
新潮社(新潮文庫) 短編集 ジャンル:ドラマ 〈動物園のエンジン:『小説新潮』2001年3月号〉〈サクリファイス:『別冊東北学』2004年8月号〉〈フィッシュストーリー:『小説新潮』2005年10月号〉〈ポテチ」(書き下ろし)〉映画化あり
今回は伊坂幸太郎作品に登場する、泥棒であり、探偵黒沢が大活躍する短編集、『フィッシュストーリー』を紹介します。はい、伊坂幸太郎作品の人気者黒沢ですね。『ラッシュライフ』に続き、『重力ピエロ』でも大活躍したあの黒沢です。
一応言っておきますが、『ラッシュライフ』『重力ピエロ』を読んでいなくても十分楽しめる作品ですからね。まぁ、読んでいれば十二分に楽しめるのですが。
伊坂幸太郎作品はつ繋がっているようで、繋がっていないって感じですから、全然大丈夫です。この、『フィッシュストーリー』は全四中編からなる作品集です。
『動物園のエンジン』『サクリファイス』『フィッシュストーリー』『ポテチ』の計四編です。これすべてに触れると長くなってしまうので、私が中でも気に入った、タイトルにもなっている、『フィッシュストーリー』と、『ポテチ』の二編を紹介します。
伊坂幸太郎さんの保身のために言っておきますが、『動物園のエンジン』と、『サクリファイス』も良いお話でしたよ、うん。だけど、今回は割愛させてもらいます。
まぁ、強いて簡単に説明すると、『動物園のエンジン』はシンリンオオカミを巡るお話で、『サクリファイス』はある田舎の集落で起きる、横溝正史的な民俗学を織り交ぜた作品です。
では、タイトルにもなっている、『フィッシュストーリー』を紹介しましょう。「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」という、ある小説の一節を引用した歌があったのです。
その歌には、一分間ほどの無音があった。大抵の先駆けはビートルズですからね。ビートルズの曲にも、曲の最中に無音が入る曲があったとかって、作中で語られていますが、本当でしょうか? 聞いたことないので私は知らないんですよ。
その他にも犬にしか聞き取れない、音がビートルズの曲には含まれているとか、いないとか。詳しくは知りません。
そのバンドは奇しくもまったく売れず、解散。しかし、隠れファンは結構いたようなのです。そのファンが隠れてないで、ちゃんとファンをやっていれば、解散しなくて済んだかも(笑)。
詳しくは書きませんが、その無音の音楽が回りまわって、世界を救うことになるという壮大なお話です。
どういう風に世界が救われるかと簡単に言うと、飛行機ハイジャック事件にある人物が乗り合わせていて、結果的に世界が救われるということになるのですが、詳しく書くとネタバレになるので気になったら読んでください。
二十年前、現代、三十年前、そして文庫本の解説に二十数年後の時代を超えた壮大な規模で展開される、中編小説です。
続いて、『ポテチ』今村という泥棒を主人公に、彼の秘密を追う物語です。泥棒と聞いてピント来ましたか? そうこの物語にも、黒沢が登場します。時系列的には、『重力ピエロ』の後ですね。
今村はある野球選手の家に泥棒に入ります。しかし、今村は泥棒に入ったのにもかかわらず、ある有名野球漫画をひたすら泥棒に入った家で読んでいるんですよ。その野球漫画とは、双子の弟が死んでしまって、兄が弟の代わりに甲子園を目指すっていう漫画です(分かりますよね?)。
どうして、わざわざ野球選手の家に泥棒に入ったのに、何も盗まなかったのか? どうして、まるで友達の家に遊びに来たように、堂々としていられるのか? それは今村の過去に、答えがあるのです。
とにかく、この、『ポテチ』というお話はこの中編集のなかで一番、伊坂幸太郎さんらしい、作品です。終わり方も綺麗ですし。感動できます。伏線もこんな短い話で綺麗に回収されているし。『重力ピエロ』に次ぐ、家族って何なんだろう? って考えさせられる作品でした。