夢枕獏 『シナン』
中公文庫 『上・下巻』 【歴史・オスマン帝国】 初版発行: 2004年11月 著者:夢枕獏
今回は夢枕獏さんの『シナン』を紹介します。このシナンという作品は日本人にはあまり馴染みのない、オスマン帝国を舞台にした作品なんです。
えー、オスマン帝国、全然予備知識ないのに難易度高いよー、と思っている方、安心してください私もオスマン帝国の時代背景や知識なんて全然知りませんでした。
ですが! 予備知識なくてもスイスイ、読み進められました。物語上で大きな山はありませんが、ページをめくる手が止まらなかった。
そして、最後のチューリップの話で、頭が泡立つ感覚を覚えました。これはシナンの生涯を描いた、オスマン大河小説です。
ちなみにシナンとはどんな人物だったかというと
【ミマール・スィナン(Mimar Sinan)は、盛期オスマン帝国の建築家、土木技術者[1]。1490年前後にアナトリア半島のカイセリ近郊で生まれ、1588年7月17日にイスタンブルで亡くなった[1]。スィナン(シナン)が名前でミマールは建築家を意味するアラビア語由来の言葉であるため、ミマール・スィナンは「建築家スィナン」を意味する。
キリスト教徒の石工の家に生まれ、デヴシルメで徴用されてイェニチェリ(常備軍歩兵)の工兵になった。一介の士官からあっという間に階級を上げ、軍団長にまでなった[2][3]:96-102。セリム1世、スレイマン1世、セリム2世、ムラト3世というオスマン帝国最盛期を代表する4代のスルターンに仕え、軍歴は50年近くに及ぶ。遠征で赴いた土地は、西はバルカン半島東はメソポタミアまでに及び、各地の建造物を実見した。
前線に出ている間に土木工学に関する実践的経験を積み、道路や橋梁、水路といったインフラストラクチャーの構築を含む、あらゆる種類の要塞建築のエキスパートとなった[4]。50歳ごろ帝室造営局長に任命され、軍で培った技術的スキルを良質な宗教施設を創造することに用いることを求められた[4]。帝室モスクの代表作は、イスタンブルのシェフザーデ・ジャーミイとスレイマニエ・ジャーミイ、そして、スィナン自身が自身の最高傑作と認めたエディルネのセリミーエ・ジャーミイが挙げられる[3]:96-102。】
と、ウイキペディアには書かれています。スィナンまたはシナンです。数々の建造物を創った建築の巨人です。
このシナンの時代のヨーロッパは丁度、ルネッサンスの時代でしょうか?。この時代は数々の芸術作品が花開いた時代です。何かシンクロニシティー、的な力が本当にあるのかも知れませんね。
そして、夢枕獏さんがこの作品を書く頃はオスマン帝国に関する参考資料も殆どなく、資料探しが大変だったそうです。
オスマン帝国の参考資料がないのに、シナンという人物の資料など殆ど、いやまったくと言って良いほどなかったと思います。
それなのに、イメージとは言え、ここまでシナンの人生を書き切った作品は凄いです。
この本をきっかけにトルコに観光に行く人が増えたとか、増えていないとか。シナンはあの聖ソフィアを超える建造物を作りたいと夢見ています。
作中では聖ソフィアには神が宿っていると、語られています。しかし、シナンは不完全なのだと言いました。神が宿るには不完全なのだと……。
あの聖ソフィアでさへ、不完全だったのです。シナンはアヤソフィアを超える、神が宿る聖堂を作ることを生涯の夢にするのであった?。
私はこの作品を読み、オスマン帝国のこのを少しは知ることができました。そして、この作品は宗教と哲学的な作品でもあります。シナンが考える、完全とは何なのか?。
神が宿るとは何なのか?。建築とは何なのか?。
そしてシナンが見つけた答えとは?。
そして、時は過ぎ、時のスルタンスレイマン一世に山ほど積まれた金銀財宝をやると言われ、聖ソフィアを超える建造物を創れるか、と問いかけられる場面があります。
そのシーンを読んでいて、私は鳥肌が立ちました。
金銀財宝を見せられ、シナンがスルタンに言った答えとは?。夢枕獏さんはこのシーンを最初にイメージして、シナンを書くことを決めたそうです。
言うなれば、そのシーンこそがこの作品、最大の見せ場です。シナンがスルタンに言った答えとは? ご自身で確かめてください。
そして、物語の最後に明かされる、逆さチューリップの意味とは?。ある友と誓った約束。
そして最後にこれだけは記しておきたい。シナンはあの、石の巨人ことミケランジェロと対話をするシーンがあります。
実際の歴史ではシナンとミケランジェロは会ったことはなかったと思いますが、生きた時代は同じ。もしかしたら、お互いの噂話くらいは知っていたかもしれません。
シナンとミケランジェロは何を語り合うのか、夢枕獏さんの遊び心ですねー。気になった方は読んでみてください、本当に良い作品です。
読了後にはオスマン帝国が前よりも、身近に感じられるようになっていることでしょう。




