伊坂幸太郎 『重力ピエロ』
新潮社(新潮文庫) ジャンル:ミステリ:心理フィクション 初版発行: 2003年4月 著者:伊坂幸太郎 映画化有り
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」
伊坂幸太郎、『重力ピエロ』を紹介します。とにかく軽快、ポップ、スマート、スタイリッシュ。これぞ伊坂ワールドだと思える作品。
この物語で扱っているテーマはレイプ、家族愛、兄弟愛、遺伝子、放火、性、罪と罰などなど、まさに純文学的なテーマを扱っていますが、最初の一文で書いた通り、「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」深刻なテーマを陽気な文章、まるでピエロのように、物語る作品です。
重力を忘れさせるようなピエロの行動。身軽に空中ブランコを飛び、ときにおどけてみせる。深刻なことを深刻に感じさせない、深刻なことを深刻に思わせない、ことは凄いことだと思います。
例えば、プロスポーツ選手が簡単にやっているから、自分もできるだろう、と思うようなもの。当然、プロが簡単にやってたからって、誰もかれもがプロのようにできる訳ではありませんよね。それと同じ。
難しいことを難しいと思わせない、ことは凄いことなんですよ。難しいことを難しく語るのは簡単ですが、難しいことを簡単に語るのは難しいんです。どこかで聞いたけど、誰のいった事か忘れました。
主要登場人物は
泉水
本作の語り部、途中参加は許せない、性格。幼いころクロスワードパズルを父に先に解かれ、癇癪を起したことがあるほど。だけど、本作では父と並んで一番の常識人。
春
泉水の異父兄弟の弟。かなりのイケメン。女性にモテモテだが、性なるものには嫌悪感を示す。かなり、クレイジー。ガンジーとピカソを崇拝している。春哲学は読みどころ!
父
泉水と春の父。公務員だった、が目立つような人ではなく、縁の下の力持ち的な存在。癌を患っており、安楽椅子探偵的なこともやる。
母
泉水と春の母。昔モデルをしており、かなりの美人。仕事で訪れた地方で父に出会い、一目ぼれ。その日のうちに仕事を辞める決意をし、辞職届をだす。父の働く役所に突如訪れ、一緒に暮らすことになる。行動力の凄い女性。
郷田順子
「日本文化会館管理団体」という団体の職員。オードリー・ヘップバーン並みの美人。春をなぜか調べている。
黒澤
探偵。わずかな時間で期待以上の仕事を行う。伊坂の他作品『ラッシュライフ』『フィッシュストーリー』にも登場する。爪をはがされたぐらいでは、依頼人の情報は絶対に話さない。けど、ひざ小僧をハンマーで割られそうになったら話す。そんな探偵。
葛城
泉水の務める「ジーン・コーポレーション」という遺伝子に関することを取り扱う企業に遺伝子調査を依頼。売春斡旋をする外道。
この七人が主要登場人物です。ストーリーは最近世間で頻発する放火事件を軸に進められます。放火事件が起きた近くでは、謎のグラフィティーアートが必ず発見されます。
その放火事件とグラフィティーアートにはある規則性があることを発見した泉水と春の兄弟は事件に首を突っ込んでいくのだった。と、いうお話。
放火事件の規則性とはDNAの配列です。その配列通りに放火は繰り返されます。話が進むにつれ、影を落とす春の過去。春の母はむかし若者にレイプされ、それで春が生まれました。
父親は春を産むか、おろすか神の声が聞こえるぐらい悩みました。神が父に告げた答えは、「自分で考えろ」だったそうです。
父は自分で考えた結果、春を産ませることにしました。春は自分の出生の秘密が原因で、「性なるもの」に嫌悪感を抱いているという訳です。
そして関係ないですが、春はガンジーとピカッソ(ピカソ)のことを凄い尊敬しています。ことあるごとにピカソとガンジーの例え話をするんですよ。なんかそれが哲学的。
グラフィティーアートと放火事件、遺伝子の関係とは?
そして、泉水、春、父、母たち家族が悩み続けた、強姦事件との関連は?
罪を犯した者は罰を受けるべきなんだよ。春の哲学!
血縁関係がなくても家族になれるのか? 「そして父になる!」
まさに、「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」この作品を現した名一文です。この作品は陽気なピエロが地球を回す、お話。テーマは重いけど、軽快な文章と会話でまったく重々しく感じられず、一人の人間の哲学をとことん知れる作品です!