湊かなえ 『望郷』
文藝春秋(文春文庫) 短編集 【ミステリー・ヒューマンドラマ】 著者:湊かなえ 映画化有り
はい、今回は湊かなえ傑作短編集『望郷』を紹介します。一言、言っていいですか――暗い話ばかりです、読む人は気を付けてください。
「えー、だけど短編集なんでしょ。――短編集だったら気を付けろって言っても、大した事ないでしょ」と思っているあなた、長編より精神にきます、本当にきついです。
ボクシング例えるなら、ブロー、ストレートを六回喰らう並みにです。
六回というのは全六編からなっているから、その六編のどれもがブロー、ストレート、もう倒れそう。
湊かなえさんと言えば、学校で起きるドロドロのお話が多いいですが、この短編集は学校園モノではありません。島民ものです。また学園モノとは違った湊かなえワールドをとくとご覧あれ。
短編の中身はこちら
【みかんの花】
【海の星】
【夢の国】
【雲の糸】
【石の十字架】
【光の航路】
まあー、さすが湊かなえ、どの作品も引き込まれる話ばかりです。簡単に紹介していきますね。
まず【みかんの花】から、全編を通して物語の舞台となるのは白綱島です。この白綱島は湊かなえさんの故郷、因島をモデルにしています。
湊かなえさんは因島に住んでいた時の、思いを綴っているようなリアリティがあります。
もしかして自伝? ……じゃないですよね?。いや、だけどリアリティーあるなー……湊かなえさんは島にいた時こんな事を考えていたのだろうか?。
みかんの花は白綱島から、家族を捨てて出ていった姉が人気作家になって帰ってくるというお話。なぜ姉は家族を捨てて、出ていったのか? それはある秘密があったのです。
この話は謎? どういうところが謎になっているのか分かりずらいと思いますが、秘密が明かされたとき納得できます。そういう謎を散りばめていたのかー、と感服させられます。
あれが姉の決断だったのね……。
次は【海の星】です。このお話は大人になった少年が過去を回想する形でストーリーが進みます。主要登場人物はおっさんです。このおっさんが少年の母、目当てに家に押しかけます。
え! おっさん家に押しかけてくるの、お母さんの旦那は何してるの?!。と、思うでしょ、実は旦那は行方不明なのです。母は何年も旦那の帰りを待っているのです。
どうして、父親は消えたのか、そしてどこに行ったのか?。果たして、おっさんは母に思いを伝えることができるのか?。というお話。
この【海の星】は第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞している作品です。感動間違いなし、この短編集の中で一、二番目に私の好きなお話です。最後に大吞出返しありの傑作短編です。
おっさんの思いに涙します、正にオッサンズラブです。
次は【夢の国】です。皆さん夢の国ってどこだと思いますか? ――そうです、ディズニーランドです。この話の主人公は小さい時から、ディズニーランドに行くことを夢見る女の子です。
何回かディズニーランドに行ける機会はあったのですが、天はそれを許さない。ある時は祖母に阻止され、ある時は修学旅行の変更にあい、そしてある時は……。
ディズニーランドぐらいでしょうもない、と思うでしょう!。だけど主人公の女の子は夢の国に死んでも行きたいほど焦がれてるんですよ。もう可哀想なぐらいです(涙)。
主人公の女の子は人生を左右するほど、ディズニーランドに憧れているのです。え! そこまで、行きたきゃ行けばいいじゃん、と言いたくなりますが、白綱島からディズニーランドまでは遠いい、それに祖母が許さない。
祖母は亭主関白なんですよ。
なぜか、不思議な感動を覚える作品です。
【夢の国】も好きですねー、不思議と泣けるから読んでみて。
次は【雲の糸】です。
この雲の糸は芥川龍之介の【蜘蛛の糸】がモチーフになっています。主人公は有名になったミュージシャンの青年、ある事情で白綱島に帰ることになります。
しかし、青年は島に帰りたくなかった。それはなぜか? ――いじめられていたからです。
なぜ? いじめられたのか、それは母親が父親を殺したから。むー、重い、重すぎる展開ですねー、正に湊かなえ作品。ミュージシャンで成功している、青年を島の者は食いつぶそうとします。
正に芥川龍之介【蜘蛛の糸】ですねー。
せっかく青年が成功という、雲の糸をつかんだのに何人もの人が青年の糸にしがみつく。読んでて、この話が一番腹が立ちました。青年に幸せは訪れるのか?。
これ以上紹介すると長くなるので、後の二作はご自身でお確かめ下さい。何といっても湊かなえさんらしく、どの話もよくできている。
一作一作が長編を読んだような読後感を味わえる作品集です。
今回は紹介していませんが光の航路と夢の国が映画化しているんですよ。もし気になったら、映画を見るのもいいかもしれませんね!。
湊かなえさんの作品を読んだことがない、という方この『望郷』は湊かなえ入門書に最適です。必ず物語の世界に没頭すること間違いなし、感情移入することまちがいなし、読んで間違いなし。




