伊坂幸太郎 『アヒルと鴨のコインロッカー』
東京創元社 ジャンル:ミステリ 初版発行: 2003年11月25日 著者: 伊坂幸太郎 映画化有り
伊坂幸太郎一番の傑作といっても過言ではない(私が読んだ伊坂幸太郎さんの作品はどれも個性豊かですよ)傑作中の傑作、「アヒルと鴨のコインロッカー」を紹介します! この作品は伊坂幸太郎の真骨頂。
主人公たちがどう繋がっていくのか、全く予想できない作品になっています。ここまでストーリー展開の予想できない作家さんは日本広しといえども、そう多くはいないと思います。
そしてなによりも、読者が好いて止まないのが伊坂幸太郎ワールド。言葉の選び方です。この人の作品は重い話ほど軽快に話す、これぞ伊坂幸太郎さんです!
哲学的なことをアクロバティックな文体で軽快に語ってくれるんですよ。なかでも、この、「アヒルと鴨のコインロッカー」は日本人の外国人差別、動物殺し、HIV、などなど、いまの日本の社会問題ともいうべき重い話を扱っているのに、軽快な文章で読むのが苦にならない!
日本は外国人差別が酷い国だし、ニュースにならないだけで動物殺しは多いし、先進国で唯一性病が流行っているし(最近では日本は先進国ではない、といわれている)。
そんな、重いテーマも伊坂幸太郎にかかれば、エンターテイメントに軽快に、物語ってくれます。中でも哲学的な名文が多いいのです。
主要登場は四人です。
椎名
大学入学と共に一人暮らしを始めた、本作の語り部の一人。しいな、しいな、おかしいな、の椎名です!
河崎
続いて、椎名が引っ越してきたアパートのお隣さん。悪魔のようないで立ちの男と語られています。
琴美
川崎の元恋人で、ペットショップに務める、正義感の強い女の子。
ドルジ
ブータンからの留学生、琴美の恋人。川崎に日本語を教えてもらう。
この四人が主要登場人物です。しかし、伊坂幸太郎の十八番群像劇。椎名が引っ越して、来た椎名視点が現在で、河崎、琴美、ドルジが登場するのが、二年前の琴美視点で語られます。
琴美を語り部とする二年前と、椎名を語り部とする現在視点が交互に語られていくのですよ。少しずつ明かされて行く、事件の真実。
では、その明かされて行く、事件を語っていきましょう。椎名が河崎の住むアパートに引っ越してきた日、河崎から、「一緒に本屋を襲わないか」と誘われます。この時点で面白そうですよね。
伊坂幸太郎お得意の強奪です(笑)。本屋を襲って、広辞苑を盗んで同じアパートに住む外国人にプレゼントしたい、と。そして、椎名は渋々広辞苑強奪本屋襲おう、作戦に参加するのです。
二年前、琴美とドルジ、河崎が主要登場人物です。この三人の三角関係が描かれます。河崎はとてつもなく女性にモテます。で、付き合った(肉体関係を持った)女性で365日埋めるのが夢。
女性から見たら、最低男ですよね。だけど、モテる(笑)。
これだけ、聞いたら最低男ですけど、読んでいくと憎めないんですよ!
性に対する哲学を持っていて、それが一貫しているし、友達おもいだし、他にも良いところが多々あります。カッコいいとさえ思いますよ。いや~伊坂幸太郎さんの作品は哲学書ですよね~。
行方不明になったくろ柴(黒い柴犬)を探している描写から、琴美視点が始まります。琴美はくろ柴のことが心配でなりませんでした。それはどうしてか? 最近ペット殺しが頻繁に起きているからです。ああ、考えたくはないけど、くろ柴はペット殺しに殺されてしまったのではないか。
と、琴美は心配でなりません。
そんなとき、琴美とドルジはペット殺しをする若者三人と遭遇してしまうのです。
いったい、ペット殺しと広辞苑強奪はどう繋がるのか、まったく予想できませんよね。私も予想できませんでした。
この物語の肝は現在と二年前を結ぶ存在河崎です!
読んでいない人には絶対に分からないと思います。
そして、タイトルにもなっている、「アヒルと鴨のコインロッカー」の意味とは? アヒルと鴨はそっくりだけど違う生き物なんですよ。
最後には張られていた伏線が綺麗に回収され、ああ、やっぱり伊坂幸太郎さんは上手いな~、と思いました! 傑作ミステリーです。