貴志祐介 『青の炎』
角川書店(角川文庫) ジャンル:倒叙ミステリ 発行日: 1999年10月25日 著者:貴志祐介 映画化有り
「これは面白い!」私の感想です! いやー、この作品は本当に凄いです。スリリングで臨場感が感じられて、後半から一気読み間違いなし。
貴志祐介さんはやっぱり凄い。物語の主要登場人物は六人ほどです。
櫛森秀一
湘南の高校に通う17歳。才色兼備。使わなくなったガレージに自分の好きなものを集め、秘密基地のようにしている。自転車の改造と乗ること、多趣味。とっても家族思い。不良ではないが、飲酒やそれなりに悪いことをやっている。
櫛森友子
秀一の母親。元夫だった男が家に上がり込んで以来、金銭を要求され困り果てている。
櫛森遙香
秀一の妹。兄思いで、転輪爛漫な中学生。遙香にはある秘密がある。
曾根隆一
櫛森家に突然現れ、居候を決め込む。アルコール依存症で、ギャンブル依存症。そして友子から金銭を奪い取る。そして暴力まで振るう外道。
福原 紀子
秀一のガールフレンド。むかし荒れていた自分を更生に導いてくれた、秀一に片思いしている。絵をかくことが好きで、美術部員。
石岡卓也
元秀一の親友。ある事情から両親をダガーナイフ マークIIで刺殺を企んでいたのを、秀一に止められた経験を持つ。
はい、主要登場はこの六人です。家族三人満ち足りた毎日を送っていた櫛森家にある日突然、曾根隆一という闖入者が上がりこんできたのです。
それ以来、遥香や友子は曾根に怯える日々。怯えてないで、弁護士や警察に頼んでどうにかしてもらえよ! と思うでしょ? だけど、友子は曾根に沢山の弱みを握られているせいで、訴えることもできず、金銭を渡し体まで許す始末です。
このままでは妹にまで曾根の手が及び、家族は破綻する、と考えた秀一はある計画を思いつくのです。それは、曾根を殺すこと。
それも殺したことが、家族や周りにばれない完全犯罪を計画するのです。そうこれは秀一が完全犯罪を行う倒叙推理物です。
「ウチのカミさんがね」
そう、刑事コロンボも倒叙ミステリ物なのです。犯人があらかじめ分かっていて、犯人を追い詰めていく、というジャンルです。
倒叙物の何が優れているかっていうと、犯人の心理を書けることです。犯人がどういう心理で殺人を犯すのか。つまり、「罪と罰」的な作品を想像していただければ分かりやすいです。
ラスコーリニコフはどういう心理で高利貸しの老女を殺害したのか? 老女を殺害してしまったことの罪の意識に苦しむラスコーリニコフ。そして、秀一はあんな屑を殺したところで、微塵も精神が傷つくことはない、と高をくくり計画を練り始めるのです。
とにかく後半からスリリングで、息もつかせぬ展開。そして秀一が計画した殺害方法が、凄い! *実際に模範しないでくださいね。本当に! なんたってリアリティーがありますから、「本当にこの方法を使ったら、完全犯罪できんじゃね?」と思いましたもん。だから絶対に真似だけはしてはいけません。
それだけ現実的な? トリックってことです。殺人という犯罪を計画するのはいけないことですが、どうしても秀一を応援してしまいました。
家族のためを思い、曾根殺害を考える。本当に高校生が考えたの! 凄いトリックです。法医学の勉強にもなったし? 熱の勉強にもなりました。ここまで精魂込めて、悩み考えたトリックを、突然現れた名探偵たちは犯人の事情も知らずに解いてしまうのが憎らしくなるほどです。
コナンや金田一なんか、犯行現場に居合わせて、周到に考え抜かれたトリックをあっさり解いてしまうんですよ。犯人にしたらやってられませんよ!
「名探偵コナン 犯人の犯沢さん」もやってられませんよ(笑)。
知らない人のために説明しておきましょう。犯人の犯沢さんとは、「名探偵コナン」で用いられるいられる犯人の行動を表現するのに使われる、黒いタイツ風の黒い人です!
一巻はその黒い人がパラパラを踊っている表紙なんですよ。初期のコナンオープニングに、「恋はスリル、ショック、サスペンス」っていう、コナンが真顔でパラパラを踊っているやつがありましたよね。
気になった方は調べてください。YouTubeで聴けますから。あのオープニングと、まったく同じ格好で犯沢さんが表紙を飾っているのです!
笑えますよ(笑)。オープニングの始まりに、黒いタイツ姿の人が写っているのですが、そのときから犯沢さんの伏線を張っていたのか! と、感動しました。信じるか信じないかはあなた次第です!
まぁ、私は、「名探偵コナン 犯人の犯沢さん」は読んだことないのですが。最近は人気漫画のスピンオフ作品が多く出てますよね。同じく名探偵コナンの安室透を主人公にした、「ゼロの日常」なんかも100万部以上売れて、大ヒットしましたし。
話はそれましたが、犯人にだって殺人に至る、葛藤があったんですよ。倒叙ミステリは犯人に感情移入して、応援したくなるジャンルです。普通の探偵や刑事が犯人を推理していくより、倒叙ミステリの方が私は好きかも知れません。
ちょっと、話は飛びますが。最終章の秀一の選択は現代社会に問いを投げかけるようで、心に響くものがありました。それは、東野圭吾さんの、「手紙」に通じるものがあります。
詳しくは教えられないので、そこんとこは、ご自身で確かめてみてください。とにかく、凄いよくできた、作品です。これぞプロの作品なんだな、と思えるほど。到底私にはこの雰囲気は出せないし、この緊張感は出せません。これぞ天才、貴志祐介という作品でした。




