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物部の書評広場  作者: 物部がたり
か行————
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貴志祐介 『十三番目の人格ISOLA』

角川書店 (角川ホラー文庫) ジャンル:ホラー 初版発行: 1996年4月18日

著者:貴志祐介 映画化あり

 今回紹介するのは、貴志祐介さんのデビュー作『十三番目の人格(ペルソナ)ISOLA』です。


 いや~、貴志祐介さんは本当に凄い! ストーリー構成もさることながら、専門知識を織り交ぜた知的なストーリーを作れるのですから。これも、取材好きの貴志祐介さんだからできることです。


 この『十三番目の人格ISOLA』は第三回日本ホラー大賞で佳作を受賞した作品です。そりゃあ、この出来栄えなら賞を取りますよ(納得です)。


 まず、貴志祐介さんのホラーには外れないですね。安心して読めます。では、あらすじを紹介しましょう。


『十三番目の人格ISOLA』というタイトルからもう察しは付いていると思うのですが、この作品は多重人格(解離性同一性障害)を扱った物語となっております(物語後半から、もう一つのテーマがわかるのですが)。


 主人公である加茂(かも)由香里(ゆかり)という女性が、阪神淡路大震災の神戸にボランティアとして行っているのですよ。


 由香里は人の心を癒すことを生業としており、共感(エンパシー)の能力が秀でている。いや、秀でているなんてもんじゃないんですよ。


 相手の感情が読める=心が読めるエンパス(エスパー)なのです。共感能力が高いがゆえに、由香里は幼いころから傷つき精神を病んでしまうんですね。


 赤ん坊のころから共感能力が高かったようで、親の心を読み必要最低限のことを訴える以外は泣かなかったそうです。


 小学校に上がるころには退化していたのだけど、思春期と呼べる中学に上がるころにはまた能力に目覚めてしまい、由香里の人生は坂道を転げ落ちるように下りはじめることに……。


 能力が目覚めるまでは、美人で勉強もできる。家族からも愛され、学校の人気者で、妹からも慕われていたのですが、能力に目覚めてからは手のひらを返したように、家族も由香里に冷たくなり、友達もいなくなりました。


 人の汚い心の声が四六時中聞こえていたら、誰だって精神を病んでしまいます。由香里はある晩、自殺未遂をしてしまい、精神病院に入れられてしまうんですね。


 由香里の過去回想は本当に辛かった……。精神病院に入院していることを世間に知られたくないために、世間体を気にするがために、家族は腫れものに触るかのように由香里を扱うのです!


 どうして、そのようなことをしてしまうのか。これは物語だから、ストーリーを発展させていく上で、必要な過程だということはわかっています。


 これは、物語とは関係ない私の自論です。現代社会精神を病む人は多いのですよ。だから、精神を病んでしまったからと言って恥じることもないし、隠すこともないのです。


 誰だって生きている以上、心に闇を抱えているのですから。我が子が精神を病んでしまったからと、腫れものに触れるように由香里を扱った、由香里の家族を私は軽蔑します。


 支えてあげられるのは家族しかいないでしょう! 精神を病んで、出来が悪くなったからと、手のひらを返すなんて……あんたら家族(由香里の家族)は自分たちのステータスのために子育てをしているのか?


「加茂さんちのお子さんは凄いですわね」


「そんなことありませんよ。オホホホ」


 と、そんなステータスのために子育てをしてきたのか? 違うだろう、可愛いから、我が子を愛しているから、子育てをしているんだろ!


 私はそう思いたいですが、世の中そんなに綺麗ではないんですよね。ステータスのために子育てをする親もいれば、親としての責任を果たしていない人間もいますし、遊びの性交で勝手に産みだされて、捨てられる子供も多いですし……。


 つくづく、人間に絶望します……という私も人間なのですが……。(熱くなりすぎました、私がこの作品を読んで思ったことです)。


 で、話は戻りますが、由香里はエンパスの力を使い、家族の本音を聞いてしまったのですよ。


 妹は由香里に死んでほしいと思っているし(小学生のころは出来のいい姉を自慢していたくせに)、家族も口には出さないけどそう思っていることを知ってしまい、由香里は家を出ることを決意。


 幼いときから貯めていた、郵便貯金を持ち十八歳だったかな? 十九歳だったかな? で由香里は東京に出ます。


 アルバイトをしながら、一人暮らしをする手はずだったのですが、身元保証ができないと、アパートも借りれないし、アルバイトもできないことを知って、由香里は生きるためにある仕事に就くことに――。


 と、回想が終わりました。由香里が何の仕事に就いたのかは、ご自身でお確かめを。


 で、現代に戻りますが、由香里は大震災で傷ついた森谷(もりや)千尋(ちひろ)と言う美少女と話をすることになり、彼女の心を読むうちに、多重人格であることを知るのです。


 多重人格のイメージはディズニーピクサーの『インサイドヘッド』って映画を、イメージしてもらえればわかりやすいかもしれません。千尋の中に色々な人格がいて、会議をしているんです。


 何度か話す内にタイトルにもなっている通り、人格は十三あって、その中の一体イソラという危険な人格があることに由香里は危機感を抱き、千尋の通う学校でカウンセラーを務めている、野村(のむら)浩子(ひろこ)に知らせることに。


 浩子と協力して、千尋のカウンセリングをしていくことになる由香里なのであります。


 これ以上はネタバレになりそうなので、こんなもんでしょうか。まず言っておきたいのは、多分あなたが思っている話の斜め上を行くストーリーに必ずなっているということです。


 荒唐無稽過ぎる話なのですが、専門知識を織り交ぜとっても説得力があるのですよ(何の説得力かは言いませんけど)。


 本当に貴志祐介さんは凄いとしか言いようがありません。『天使の囀り』や『新世界より』などの常識を逸脱した物語でも、説得力を持って語れる貴志祐介さんに脱帽です。


 とにかく、想像の斜め上を行きました。このままサイコホラーの路線を突き進むかと思えば――まさかそっちに行ってしまうとは。


 まあ、そうなってもおかしくはない伏線を沢山張っていたので、唐突ではなかったです。だけど、好みは別れるでしょうね。私は大丈夫でしたが。

 

 最後も上手くまとまっていて、読んでまず損はないと思います。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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