貴志祐介 『黒い家』
角川ホラー文庫 ジャンル:サイコホラー 初版発行: 1997年6月30日 ページ数: 365 発行日: 1997年6月27日
著者: 貴志 祐介 映画化あり 漫画版あり
これは本当に怖い……。いや~、ある意味こんな怖い小説はじめて読みました……。欧米的恐怖ですよ。
日本人は昔から、霊的なもの、超常的なことを恐れますよね。直接的に危害はなくても、じわじわと意味のわからないなにかが、襲い掛かってくるとか。
欧米はスプラッター的な作品が多い。殺人鬼がチェーンソーを持って襲い掛かってくるとか、ね。本当に恐ろしいのは欧米的恐怖だと思います。殺人鬼が襲ってくる方。
で、今回紹介する。『黒い家』は欧米的恐怖です。霊的なものよりも断然怖い。サイコパスを書かせたら、貴志祐介の右に出る者はいません。
サイコパスの話で悪の教典がありますが、こちらの黒い家の方が、悪の教典よりも怖い。人が死ぬ量は悪の教典の方が多いのですが、こちらの黒い家の方が怖いと思いました。
めちゃ大雑把にストーリーを紹介すると、大手生命保険会社「昭和生命」に勤める若槻慎二はある電話がきっかけて、タイトルになっている黒い家に呼び出される。
その黒い家には菰田幸子と重徳という夫婦が住んでいます。で、幸子の連れ子が首を吊っているのを発見する。
そう、当然保険金殺人です。どうして、幸子の子供は殺されたのか? 若槻は独自に捜査を行うことを決意する。という、話。犯人に意外性はありませんが、犯人がわかってからが本当に怖い……。
読むのが襲い私でも、後半から一気読みでした。作中で、産まれながらに邪悪な人間はいるのか? という対話が何度も描かれます。さあ、産まれながらに邪悪な人間は本当にいるのか?
心とは環境が育むものなのか? 例えば、両親に愛されずに育った子供は、自分が親になっても我が子を愛せない? というじゃないですか。だけど、私はその話、納得できないんですよ。
自分が愛されなくて、辛い思いをしたのなら、我が子にはそんな思いをさせてはいけないと、私は思うのです。そういう考えは、甘い考えなのでしょうか?
どうして、自分がされて辛かったことを、我が子にも行ってしまうのか? そこが、本当にわからないのです。
文庫本190ページくらいから、金石と若槻の対話があるのですが、凄く考えさせられる話でした。
金石は福祉が充実していくほどに、サイコパスが増えると言うんですよ。福祉が充実することで、文字通り『親は無くとも子は育つ』ようになってしまったわけです。
だから、子供を産むだけ産んで、捨てても子供は育つようになったんですよ。生物の本懐は子孫を沢山残すことです。
生態学では、人間のように少数の子供が成長するまで大事に育てることをK戦略といい、昆虫のように沢山産んで、あとはほったらかしをr戦略というそうです。
子孫を沢山残すには“k戦略„をとるよりも“r戦略„を取った方が、残せるのです。つまり、親は無くとも子は育つようになってしまうと、r戦略に遺伝子シフトしてしまうということになりかねないのです。
詳しくはご自身読んでください。作者の貴志祐介さんは、保険会社に勤めていた経緯があり、保険会社の裏側をそんなことまで書いていいの? と思ってしまうほど生々しく描かれています。一読の価値あり!
ちょっと、生命保険のことに詳しくなっちゃうかも?




