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物部の書評広場  作者: 物部がたり
あ行————
26/100

小野不由美 『屍鬼3~5』

新潮文庫 全5巻 ジャンル:伝奇ホラー 初版発行: 1998年9月 著者:小野不由美 

アニメ化あり 漫画化あり

 やっと読んだ~。文庫版『屍鬼』全五巻ですよ。一巻一巻が分厚いの。読むのが遅いから、何日かかっただろうか? 


 さすがプロですね。荒唐無稽過ぎる話をこうもリアルに描けるなんて。脱帽です。医学的な専門知識を入れるだけで、説得力が増しますもん。


 というわけで、『屍鬼』を読んだ私の感想でも書かせてもらいます。個人の感想ですので、鵜呑みにしないように。


 今回は無駄話ばかりです。ストーリーの気になったところや、面白かったところを断片的に取り上げて紹介するので、気になったらご自身で読んでください。


 ネタバレ、バンバン書きますので、読んでみたいと思っている方はこれ以上先を読まないでください。


 それでは、前回の続き三巻から紹介しましょう。登場人が多いので、すべて覚える必要はありません。私も登場人物を憶えていません。大体、主要と思われる人は十人もいませんから。


 三巻では、次々に村人がなくなっていくんですよ。はじめは疫病だと考えられていたのですが、実は『起き上がり』屍鬼という吸血鬼のような、ゾンビのような存在が引き起こしている事態であるのだと、三巻の後半? くらいから明らかになります。


 それでね。尾崎っていう村に唯一いる医者が、屍鬼に襲われた人々を救おうと、奮闘するんです。けれど、屍鬼に襲われた人間は洗脳? されてしまって、どう足掻こうと致死率百パーセント。


 それで、ちょっと尾崎は狂ってしまうんですね。いや、尾崎は最初から至って真面なのかもしれません。真面でないのは、村人たちの方だったのかも……? 


 そして、尾崎の妻も屍鬼に襲われ、死んでしまったんです。皆さん、尾崎はどうしたと思います? 尾崎の妻は起き上がり、尾崎は屍鬼の弱点を探るため妻を実験体にするのですよ。


 色々な薬品を投与してみたり、物理的ダメージを与えてみたり。夫婦関係は冷めていたとはいえ、妻だった人にそのようなことができるの、と目を覆いたくなるような描写です。


 けれど屍鬼はとんでもない再生能力を持っていて、普通の傷を負わせたくらいでは、びくともしません。


 屍鬼を殺す方法は心臓に杭を打つことと、太陽光、首を切断、餓死の多分四択だけです。屍鬼強すぎだろ、と思われるでしょ。けれど、屍鬼は人間以上に弱い生き物だと読んでいてわかります。


 夜が明ければ否が応でも眠ってしまいます。運命の最終巻で村人たちは杭を手にして、屍鬼討伐に乗り出すところなんて鳥肌ものでした。


 あれだけ見て見ぬふりをしていた村人たちが、兼政の妻を寄ってたかって殺すシーンを見てしまうと、どちらが悪いのかわからなくなります。


 兼政の妻だけではなく、静信というお坊さんの母親と仲間たちも屍鬼側の人間だと勘違いされて、殺されてしまうんですよ。魔女狩りです。


 屍鬼サイドと人間サイドが交互に描かれるのですが、二都物語よろしく、見る視点が違えば善悪も違ってくるんです。


 戦争だって同じです。見る視点が違えば、善悪がわからなくなる。そもそも、善悪なんてはじめからないんですよ。


 屍鬼が悪いのでも、人間が悪いのでもないんです。人間が家畜にしていることと同じなんです。屍鬼がしていることは。屍鬼は人間以外の血では生きられない。


 だから、人間を襲うのです。人間を襲わなくても生きられるのなら、屍鬼だって人間を襲いたくないのだと、作中で語られていました。餓死して死ぬか、人間を襲って駆られるか、のどちらかしか屍鬼には選ぶ権利がない……。


 作中に律子という看護婦をしているキャラがいるのですが。そのキャラも屍鬼になってしまったのです。屍鬼になった人間は牢屋に閉じ込められて、羊という人間の贄を襲わないと外に出してもらえないという屍鬼内でのルールがあるのですが、律子は羊を襲わずに飢えと戦うシーンなんて、辛くて……。


 律子は言うのです。自分はエゴイストだから、後で自分が苦しむのをわかっていて、襲いたくないの、と。ニュアンスは違いますが、意味は同じです。


 屍鬼の性と必死に戦った、律子も最後は殺されてしまうのですが……。感極まりました。報われない、救われない人が多い作品です。私はバッドエンド系も全然大丈夫な人間なのですが、もし、バッドエンド系が苦手な人は読む前によくお考え下さい。


 この物語の主人公は誰なのか? きっと絞り切れません。群像劇の面白いところです。


 屍鬼と戦う者「敏夫」

 屍鬼との共存を考える者「静信」

 屍鬼が安心して暮らせる楽園を作ろうとする者「砂子」

 

 その他にも、一人ひとりが違った目的のために、錯綜(さくそう)するのです。三巻から四巻後半くらいまでは、中だるみ感を抱く人もいると思います。かく言う、私もそうでした。


 けれど、その中だるみも素晴らしい最終回への伏線となっているのです。長い話はストーリーの出来だけでは表せない、長いからこその素晴らしさがあります。


 この作品はアニメにもなっているそうです。有名でしょうね。アニメは観ていないのですが、エグ過ぎるシーンをどう映像化しているのでしょうか。


 屍鬼の心臓に杭を打つシーンだとか、放送コードに引っかからないのか? まず言えるのは、鬱アニメであることは間違いないということです。


 かおりちゃんという登場人物がいるのですが、その子が自分の父親を金属バットで殴り殺すシーンなんて、放送禁止レベルだと思います。


 父親は父親で、他の者(屍鬼)に家族を殺されるくらいなら、自分が……と考えがあってやったことなのですが、かおりちゃんはそんな父親の想いを知らないのです……。


 弟と母を殺したのは、父親だったのだ、と絶望したかおりちゃんは、金属バットを手に原型がわからなくなるまで、父親を殴り殺す……。


 救われませんよ(涙)。また、屍鬼がゾンビのように思考力を持たない者なら、違った作品になっていたと思います。


 屍鬼に人間だったときの感情をそのまま、残しているということが考えさせられる作品にさせたのでしょうね。屍鬼になってしまった、人間の葛藤が読みどころだと思います。

 

 衝撃的な話でしたが、とても面白い作品でした。屍鬼サイドも人間サイドも、この作品はハッピーエンドだったのか、バットエンドだったのか。一括りにまとめられないお話でした。


 一つ言えることは、屍鬼にも幸せになって欲しい、ということです。

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