乙一 『暗黒童話』
集英社 初版発行: 2001年9月 ジャンル:ミステリーホラー 著者:乙一
乙一初の長編『暗黒童話』を読みました。長編もすごいですね。ストーリー構成が上手かった。最後の最後までミスリードに騙されてしまいました。
乙一さんは短編が上手い方だと思っていましたが、長編も上手すぎて、さすがプロだな、って感心しました。
文庫版のあとがきを乙一さんが書いているのですが、それを読んで思いました。ヤバい人だな……って。そのあとがきの内容を端的に説明すると、こうでした。
当時、暗黒童話の校正などをするために、乙一さんはファミレスに通っていたんですって。となりで食事をしていた男の子が(乙一さんの被害妄想で)自分をあざ笑っているように思ったそうです。
同級生たちは会社に就職して、まともな人生を歩んでいるのに対し、自分は毎日ファミレスに通って、恥ずかしくなるような黒歴史を創作しているだけ、だと。
そこで、「たかし」だったかな? という名前を勝手につけて、たかしは俺みたいになるんじゃないぞ、小説など書かずに、まともに生きろ、と心の中でたかしではないであろう男の子に忠告するわけなのです。
そんなことを思いながら、その家族を見ていると、逃げるようにして家族はファミレスをあとにしたそうです(笑)。
そして、その帰り道、乙一さんは強風にあおられて道端に倒れてしまったのだとか。そのとき、すぐ横をトラックが通り過ぎるという物語のような展開になったそうです。
間一髪で助かったんですね。けれど、乙一さん本人は、いっそのこと轢かれて死んでしまえばよかったのに、と自分自身をあざ笑うのです。そのころの乙一さんは小説書きになったことを後悔していたのでしょう。
読んでいて狂気を感じましたね……。
乙一さんは病んでいたのでしょうか……?
乙一さんはサイコパスを書くのが本当に上手いと思います。
作品を数多く読んでいるわけではありませんが、やはりこういう狂気を心に飼っていないと、サイコパスは書けないんでしょうね。
と、話がそれてしまいました。つまり、あとがきを読んでヤバい奴だと思った、ということです。言っちゃ悪いですが、物書きなんて自分の性癖を暴露しているようなものですからね。
自分の黒い部分を吐露しているのです。かくいう私も同じ、だけどやめられない。たぶん、皆様も同じだと思います。だから、書くのですよ。
毎度のように話がそれていますが、本題です。
簡単にあらすじを紹介しましょう。
はじまりがすごい特殊? なんですよ。少なくとも私は特殊と感じました。鴉が映画を観て、人間の言葉を覚える、というところからはじまるんですね~。
鴉は人間とおしゃべりしてみたくて、ある少女と知り合いになるのです。その少女はある事故で両目ともなくしているのです……。だから、人間の言葉を話す鴉が、鴉だとは気付かないんですよ。
まあ、オウム系の鳥が人間の言葉を話すのはわかりますよ。
かく言う私も、言葉を話すオウムを何度も見たことがあります。
誰が教えたのかそのオウム「バカやろ~」「アホ~アホ~」などの、面白いことを話ていました(笑)。いったい誰がオウムにそんな言葉を教えたのでしょうか?
教えるなら、もっと綺麗な言葉を教えてほしいものですね。
「ありがとう」とかね。そういう言葉を教えて欲しいものです。
何故かわかりませんが、オウムに汚い言葉を教えたがる人って多いですよね。飼い主が教えたならともかく、誰か知らない人が遊び半分で教えたのを、オウムが覚えてしまったら堪ったもんじゃありませんよ。
鴉は目がない少女にあるプレゼントをします。それは、人間の眼球です。少女は鴉からもらった詰め物(眼球)を眼窩にはめると、なんと目が見えないはずのなのにある映像を見ることになります。
なんと、その映像は眼球の持ち主が今まで見てきた、眼球の記憶だったんですね。少女は喜びました。鴉は少女が喜ぶ姿をもっと見たい、と思い日々町を飛び回り人間の眼球を嘴で器用に獲るのです。
そうです。この作品は眼球が持つ映像記憶が物語の鍵を握るのです。実はこの鴉と少女の物語は作中に登場する「アイのメモリー」という絵本だったんですよ。急に場面が変わったときは、戸惑いました。
その物語集を暗黒童話として、ある絵本作家が世に出しているのです。初めてみたときエドワード・ゴーリーという人の絵本を連想しました。この暗黒童話はゴーリーの絵本みたいなんですよ。気になったら調べてください。子供たちが死んでしまう、絵本を数多く描かれている方です。
主人公は菜深という女子高生です。雪の降る日、傘で目を突かれて、菜深は片目を失ってしまうのです。そのショックで記憶喪失になってしまい、今まで優等生だったのに、劣等生へとなり下がってしまったんですね。
そんな菜深に失望して、母親は冷たく当たるのです。そんなある日、菜深は失った右目に移植された眼球から映像がフラッシュバックのように流れはじめるという奇妙な現象を体験することになります。
そうアイのメモリーと同じで、眼球の前の持ち主が見ていた映像なんですね。冷たい現実から目をそらすように、菜深はその映像の世界に逃げてしまうのです。そして、とうとう菜深は映像の場所を突き止めるというわけです。
どうして、眼球の前の持ち主は死んでしまったのか? というミステリーを探る、ホラーミステリーものとなっております。
かなりグロテスクなので、そういうのが苦手な人は気を付けてッ。例えるなら、ワンピースのトラファルガー・ローというキャラクターの能力を駆使した、改造人間が登場しますから。
ワンピースに登場するトラファルガー・ローは人気キャラですよね。最悪の世代の一人で、五億ベリー越えの賞金首です。最悪の世代なんてことば中二心をくすぐりますね(笑)。
今ではハート海賊団を捨てて、麦わらの一味に入ったのかッ! ってくらい登場しますし(笑)。
そのローはオペオペの実という悪魔の実を食べているのですが。オペオペの実を食べると、相手の体のパーツを入れ替えたりできる能力を得るのです。
この作品に現れる犯人は、死の外科医も真っ青の凄い能力を持っているという、ファンタジー的な要素もありました。本格物を期待されて読むと、ガッカリするので、警告だけしました。
詳しくはご自身でお確かめ下さい。
ありがとうございました。




