乙一 『天帝妖狐』
本物でした……。乙一……恐るべしっす。タイトルですでにわかっているでしょうけど、今回紹介するのは第二作目にあたる『天帝妖狐』です。天帝妖狐……さて、どういう意味なのでしょうか?
乙一氏は短編を得意とされているようですね。デビュー作『夏と花火と私の死体』と『優子』も圧巻の構成でしたし、何よりもたった数年で熟練されたように文章が完成の域に達し、美しいんですよ。
敬語で語られる文体って、やっぱり美しいし、どことなく儚さが漂っていると私は思うんです。まだ、『夏と花火と私の死体』以後(夏花)、と天帝妖狐に収録されている作品しか読んでいませんが、乙一さんが書く物語はサイコ的怖さと、儚さが癖になります。
調べた話では、初期の乙一さんの作品はホラー寄りの話と、切ないストーリに大きく分かれるため、「黒乙一」「白乙一」と区別されているようです。
長年書いていと作風が変わるということはわかりますが、初期から黒と白に区別されているのは、すごいですよね。
無駄話はこの辺にして、『天帝妖狐』を簡単に紹介しましょう。天帝妖狐には表題作である『天帝妖狐』と『A MASKED BALL -及びトイレのタバコさんの出現と消失』という文庫本百ページほどの短編が二作収録されています。
前回書いていなかったですが、夏花にも『夏と花火と私の死体』以外に『優子』という短編が一緒に収録されていましたよ。優子も儚く美しい、和風ホラー? だったので、オススメです。
まず、『A MASKED BALL』から紹介しますと、ある男子高校生がタバコを吸うために安全な場所を探しているんですよ。で剣道場裏にあるトイレにたどり着くのです。
タバコを吸っていますが、読む限りでは不良というわけではないようです。ただ、小学生のときに父親の吸っていた、タバコを興味本位で吸ってしまい、高校生まで至っているというだけ?
タバコを吸う時点で不良ですか? いや、不良かもしれませんね……。
剣道場裏のトイレで、タバコをおいしく吸っていると「カクガキスルベカラズ」とトイレの扉裏にカタカナで落書きが書かれているんですよ。
で、色々あって、他にもトイレの扉裏に落書きしている、人たちが集り、五人だったかな? になります。
解説でも書かれていましたが、これはネットの匿名掲示板のトイレ版です。はたから見たら、トイレに落書きしに入って、顔も知らない人々が書いた落書きを見るなんて、滑稽ですよね。
カタカナで「ラクガキスルベカラズ」って書いていた人まで、落書きしていますし(笑)。それで、これがまたいいサスペンスを生むんです。
カタカナで落書きしていた人が、予告状みたいな落書きをするのです。その落書きから、引き起こされるサスペンスが怖いのなんの。まずはじめは、「アキカンガオオスギル」からはじまり、最終的には……。
続いて、代表にもなっている『天帝妖狐』。
杏子という少女がある日、夜木という行き倒れになっている男を助けるのですが、その男、いで立ちから不可解で、体中を包帯でグルんグルんに隠しているんですよ。ミイラ男みたいにです。
夜木がそのような不可解な姿をしているのには、ある理由があって、それはコックリさんに関係しているんですよ。
皆様はコックリさんをやったことがあるでしょうか? 私はやってみたいと思ったことはあるのですが、怖くてできませんでした。
超常的な現象を信じている訳ではないのですが。神への冒涜みたいな……本能がやってはいけないと警鐘をならしているよな……そんな気持ちになったので……。
この話をすれば頭のおかしな奴だと思われるでしょうけど、小さいころ、一度だけ不可解な現象を目の当たりにしたことがあるのです……。
今となっては夢だったのではないか、と思うのですが、夢だったのか、現実だったのか、判然としていません。
その不可解な現象とは、椅子が勝手に浮き上がるというものでした。信じてくれないでしょ……。
だけど、私が五、六歳くらいのころだったかな、自宅に置いていたキャンプ用の折りたたみ式の椅子があったんです。あの椅子が一人でに浮き上がって、ばったんって落ちたのです……。
家の中で使っていたので、風で浮き上がったということはありません。その現象が今でも、記憶に焼き付いて忘れられないんですよね。あれは、夢だったのか……現実だったのか……?
その現象を目撃しているから、幽霊がいないという話を否定しきれない自分がいます……。
と、まあ話がそれてしまいましたが、皆様もコックリさんをやるときは自己責任でお願いします。夜木がミイラ男みたいな姿になってしまったのは、コックリが関係しているんですよ。これが。
夜木本人が、どうしてこのような姿になってしまったのか? 杏子にしたためた、手紙で明かされていくのですが、その手紙の文章がとても綺麗で、オチも儚くて、好みの作品でした。
ネタバレできないのが、もどかしい。気になった方は、ご自身でお確かめください。ありがとうございました。




