上橋菜穂子 『獣の奏者<刹那>』
講談社(講談社文庫) 『外伝』 【ファンタジー・純文学】 初版発行: 2006年 著者:上橋菜穂子 漫画化有り アニメ化有り
はい! 今回は獣の奏者外伝<刹那>を紹介します。おいおいおい、ちょ待ぁてよ。獣の奏者シリーズを読んだことないのに、外伝なんて紹介されても分かんねーよ、とツッコミを入れたことでしょう。そうでしょう、そうでしょう、分からないと思います。
だけど、せっかく読んだんだったら書き留めて置きたいじゃないですか!。つまり、読書感想文的なやつです。だから、じゃんじゃんネタバレを書きますので、もし読みたい、という方がおりましたら回れ右してください。
はい! ネタバレKO、回れ右せずにお読みの方、それでは書いていきます。まあ、読書感想文じゃあないですけど、読んだんだったら、何かを残したいと思い書く事にしました。
話を戻します。えーっと何の話をしてましたっけ? ……あ、そうだった、そうだった、外伝<刹那>の話でしたね。まずは『刹那』とはどういった意味を持っているのか、それは「極めて短い時間。瞬間。」の事です。
そして、この本のタイトルになっている刹那の意味とは登場人物たちの、一瞬、一瞬の物語の事です。まずは本作の主人公エリンの母親のお話、『綿毛』、という掌編から始まります。
本当にネタバレしますからね。このから読もうと思っている、方は引き返して、読み終わったら戻ってきてください。本当にネタバレを書きますよ。心の準備は良いですか?。それでは始めます。
主人公エリンは完結編で死んでしまいます。王獣が空を舞い、闘蛇が大地を闊歩する戦争を防ぐことができず、巨獣大戦争が起きてしまいます。
私の獣の奏者紹介を読んでいただいているのなら、知っていると思いますが。王獣の方が闘蛇より強いのです。闘蛇は名前の通り蛇です。闘う蛇です。そして、王獣は例えるなら空の王者鷲です。力の差は歴然でしょ。
だけど、作中に登場する伝説では王獣も闘蛇も大量死しているのです。あの最強生物、王獣がですよ!。どうやって、闘蛇が王獣に勝てたと思います?。
しつこいですが、本当にネタバレしますよ。正解は毒ガスです!。実は人間の手で改造された闘蛇は触れるだけで、即死してしまうほどの猛毒を持つようになるそうです。
そして、闘蛇は命の危険を感じると、お互いに体を擦り合わせ、渦を巻くのです。擦り合わせた体からは次第に蒸発し出し、毒ガスを発するようになります。
いかな鋼の肉体を持つ王獣と言えども、体内から蝕む毒にはかないません。
そして、毒ガスを吸った、王獣は墜落します。で、色々あって、墜落した王獣の下敷きになって、重傷を負ったエリンは「……それから四日、母は生きた」、というエリンの子、ジェシの回想で語られる通り死んでしまいます。
そうです、エリンは王獣の下敷きになって、四日後に息を引き取ります。
エリンは死ぬまでの四日間のあいだに禁断の知識の全貌、戦争がいかに悲惨か、を後世に残すために伝えます。
そして、すべてを伝え終えた四日後、エリンは波乱万丈の人生に幕を下ろすのでした。エリンが死ぬ前に残した戦争の記憶は書物になり、学校の教科書になるのでした。
ジェシは学校の先生になり、エリンが残した戦争の記憶を若い世代に伝えていくのです。王獣は解放され、誰ももう、王獣の姿を見る人はいません。
ジェシが馬の出産を知らせに来た生徒たちと、厩舎に行くところで壮大な物語は幕を閉じます。
<刹那>に話を戻しましょう。えーっとなんでしたっけ……『綿毛』の話でしたね。エリンは小さい頃に母親死別します。
だから、エリンの母親ソヨンのお話は殆どありませんでした。この綿毛とはソヨンがエリンにお乳をあげるだけの、物語です。ソヨンがどれだけ、エリンの事を愛していたのかが分かる物語になっています。
ソヨンは霧の民、と呼ばれる民でした。ソヨンはある闘蛇衆に恋してしまい、霧の民を追われてしまうのです。で、その闘蛇衆との間にできた子がエリンです。十数ぺージの掌編なのに、心温まる作品でした。
そして、次のお話は『刹那』です。このお話はエリンとイアルの馴れ初め物語です。イアルとはかつて、王の盾で神速のイアルと称えられた、人でした。
その人が色々あって、エリンと出会い、恋に落ちるのです。
メインストーリーの方ではエリンとイアルの馴れ初めは語られません。なぜ、上橋菜穂子さんはエリンとイアルの馴れ初めを書かなかったのか?。
上橋菜穂子さん曰く、メインストーリーと反れた話は「余分の一滴」、だそうです。獣の奏者<刹那>のあとがきでその事が語られています。
まあ、確かにメインストーリーには関係ない話です。だから、外伝、という媒体で世に送り出したのでしょうね。
エリンとイアルはどのように恋愛をして、結婚して、子をなしたのか、この『刹那』にはすべて描かれています。
長くなりますので、これで最後にします。最後に紹介するのは、『秘め事』です。この秘め事の主人公はエリンの恩師、エサル師の若き日の物語です。
まだ前に紹介した<闘蛇編:王獣編><探求編:完結編>では、エサル師の事を紹介してませんでしたね。
エサル師とはカザムル王獣保護場の最高責任者です。とにかく、学識が高くて、カリスマ性があるおばあさんです。貴族の家に生まれ、許嫁までいる。お嬢様でした。
しかし、エサルはそんな人生を送るのが嫌でした。エサルには妹がいるのですが、妹に許嫁と家督をすべて渡して学校に入ります。で、色々あって、好きな人ができてその人との秘め事の物語になっています。
単組にまとめた紹介でしたね。あの、壮大な物語の一ピースとして、語られる外伝<刹那>。どれも、これも獣の奏者、という長い歴史の一瞬、一瞬を切り取った、記憶の一ピースです。
もし、獣の奏者シリーズをすべて読まれた方は読んでみて損はないと思います。ありがとうございました。




