バッジ・ウイルソン 『こんにちはアン』
新潮社(新潮文庫) 『上下巻』 【ヒューマンドラマ・大河小説・二次制作】 著者:バッジ・ウィルソン 世界名作劇場にてアニメ化有り
今回はアンブックスの前日譚、『こんにちはアン』を紹介します。この、『こんにちはアン』は『赤毛のアン』制作100周年を記念して、モンゴメリー財団がカナダの著名な児童文学作家バッジ・ウィルソンに依頼して書かせた物語です。
つまり、二次制作作品です。なんだよ、「二次制作かよ、つまんねぇーな」と、思った方!。二次制作作品だと侮るべからず!。まるで、モンゴメリーが書いたかのような、物語なんですから!。
『こんにちはアン』の世界名作劇場の原作紹介を引用させてもらうと
【この作品は、カナダの著名な児童文学作家バッジ・ウィルソン(Budge Wilson)が、モンゴメリ財団から依頼され、「赤毛のアン」100周年を記念して執筆した物語です。北米ではペンギンブックスから2008年2月に、日本では新潮社から同年7月に刊行されました。ストーリーは、アンがマシュウとマリラに出会う前の11年間の生い立ちを、力強い筆致で綴った続編です。里親の元で貧さと労働に明け暮れる厳しい生活のなかで、そのたぐいまれな想像力を駆使して希望を失わずに生きる、常に前向きで豊かな感情溢れる少女アン・シャーリーの原点を描き出しています。
アニメーション化にあたっては、人気の高い前作の物語作りを踏襲した上で、スタッフ・キャストとともに新しいアンの世界を作り出します。
「こんにちは アン ~Before Green Gables」によって新たに開かれた扉の先にある“世界で最も有名な赤毛の少女アン・シャーリー”の知られざる幼い時代のエピソードは、今迄のファン層にも十二分にアピールし、また子どもたちにとっては、長く読み継がれてきた名作文学に初めて親しむきっかけとなるでしょう。】
と、の事です。そして、この作品が世界名作劇場最後の作品なのです(涙)。世界名作劇場って、子供の頃観ても、その本当の良さが分からない、と思います。
私も成長してから、観なおしてみると、小さい時よりも心に響くものがありました。小さい頃は分からなかったけど、今観れば涙が出るほど感動できます。
小さい時は主人公である、少年少女に感情移入して、観ていたけど、今観ると主人公の周りにいる人間たちの心の葛藤や苦悩が分かるようになってました。
この『こんにちはアン』の物語は主人公であるアン・シャーリーが6歳の時から始まります。アンは物心つく前に両親(父 ウォルター・シャーリー)(母 バーサー・シャーリー)を流行り病で亡くしてしまうのです。
ウォルターはアンと同じで、想像力が豊かで背中に羽が生えたような、人だったそうです。そして、生前ウォルターが好きだった言葉が「波間に浮かぶゆりかご」です。アンの作品にはよく、詩の引用文が出てくるんですよ。アンは詩が大好きで、色々な詩を丸暗記しています。
話は戻り、孤児になったアンをシャーリー夫妻と仲の良かった、トーマス夫妻が引き取るのです。トーマス家には五人の子供がいるのですが。
その中の四人の面倒を当時、6歳のアンは一生懸命にみます。
トーマス夫妻の妻はジョアンナと言い、アンに色々な家事を押し付ける酷い人間だ、と思っていました。だけど、実は話が進んで行くうちに、そうでない事が分かります。
ジョアンナは生活が苦しく、ついアンに強く当たってしまっていた、と作中でアンに打ち明けるのです。そして、夫のバート・トーマスも初めは酷い人間だと思っていたのですが。
妻子に仕事をさせて、自分は酒ばかり飲んでいるのです。そして、たまに暴力も振るう、普通に考えて最低亭主ですよね。しかし、話が進んで行くにつれ、本当は生きるのに不器用なだけの、人間である事が分かるのです。
子供は辛いながらも懸命に生き抜く、アンに感情移入するでしょうが。大人が観ると、アンを取り巻く人々に感情移入すると思います。
アンシリーズの登場人物はみんなどこか、生きるのに不器用なんですよ。バートは昔村一番のハンサムでダンスが上手かったそうです。
妻のジョアンナも若い時はバートとダンスを踊っていたのだとか。だけど、少し道を踏み外してしまったせいで、妻子に当たる人間になってしまって……。
しかし、ある事件がキッカケでバートは立ち直り、再びやり直す決意を固めるのです。辛い事もあるけど、妻と子供たち、そしてアンとなら乗り越えられるって……。
そして運命のクリスマスの夜に再びジョアンナとダンスを踊るのです。そのシーンに感動する事間違いなし。そして、立ち直ったバートは仕事を探しに街にでるのです。
しかし、アンはプリンスエドワード島に行くまでは幸せになれない、宿命になっています……。
ここからはネタバレを書きます。ネタバレが嫌な方は読み飛ばしてください。ここからですよ→バートはある事件がキッカケで立ち直り、クリスマスの明け方仕事を探しに街に出かけます。
しかし、バートは機関車に轢かれて死んでしまうのです……。やっと立ち直ったバートが死んじゃって、衝撃的でした。やっと、これから幸せになれる所だったのに……あゝ無情!。
神はどれだけ、人間に試練をお与えになるのか!。
バートが亡くなった事により、アンはまた、住みかを変えなければならなくなりました……。次にアンを引き取ったのはハモンド夫妻です。ハドモンド夫妻には6人の子供たちがいるのです。アンの行くところはどこも子沢山ですね(笑)。
アンはその子供たちの子守役として置いてもらえることになったのです。アンは家事子守をする、忙しい日々が続きます。夜になりすべてが終わった時には疲れ切り勉強する時間もなく眠りにつくのです。
ハドモンド家の亭主は優しいケンドリックと、いう小太りのおじさんです。心臓が弱くて、薬がないといつも危険な状態。妻はシャーロット、神経質でアンの事をよく思っていません。
アンが子供の面倒を見てあげているのに酷いですよね。シャーロットは元は良いところのお嬢様だったのですが、父親が亡くなった事により、生活は一転してしまったのです。
ケンドリックはシャーロットの事を好きになり、自分はお金持ちだと嘘をついて、シャーロットと結婚するのです。まあ、今で言えば結婚詐欺ですけど、ケンドリックの気持ちを思うと強くは言えません……。
ケンドリックは本当にシャーロットが好きだったんですよ。ケンドリックは六人の子供と妻、そして、アンを養うために懸命に家具を作ります(ケンドリックは家具職人)。
ケンドリックが必死に働くのはある夢を持っていたからです。その、夢とはアンも含む家族みんなで、旅行をする事でした。しかし、仕事の無理がたたり、持病の心臓病が悪化してしまうのです。
ケンドリックの最後はアンが看取ります。ケンドリックは死ぬ間際にアンに旅行の光景を語り聞かせて欲しいと、言います。
そして、アンは成長した子供たちと妻、そして、アンを含む家族みんなで旅行をする夢を語り聞かせます。ケンドリックはアンの話を聞きながら、天国に旅経つのだった。感動的ですけど、残された家族はたまったものではありません。
ケンドリックが死んでしまい、シャーロット親子は路頭に迷うのだから。シャーロットは夫が死んでしまった事により、精神を壊し子供たちをほったらかし。
6人いた子供たちは親戚中に引き取られ、離れ離れ。アンを引き取る、と言い出す人もいない、それどころか、「どこの誰かも分からないみすぼらしい子」と、言われてしまい、この言葉がアンの心に大きな傷を作ってしまいます。
後に「私が言われて一番嫌だったこと」と、振り返っているぐらいです。
次にアンが行くのは孤児院です。その、孤児院にはいじめっ子がいるんですよ。アンと、似た境遇の子供たちもいます。
その孤児院でも、当然色々あります。長くなるのでここからは割愛します。で、その色々なもめ事が解決して、アンはプリンスエドワードに行ける事になったのです。
プリンスエドワードはある言葉で呼ばれているのです。世界一美しい、その島はウォルターが生前大好きだった言葉、そう! 「波間に浮かぶゆりかご」と、呼ばれているのでした。
物語はアンがプリンスエドワード向かう船の中で幕を下ろすのです。アンの「幸せの翼に守られた日々が今 始まろうとしていました」、最終回のナレーションの言葉です。
最後にこれだけ、壮絶な人生を歩んできた、アンがプリンスエドワード島のカスバート家に着いて、マリラに男の子じゃないから孤児院に返す、と言われたときにあれだけ号泣した意味がこれを観るなり、読むなりしたら痛いほど分かります。
大きくなってから観れば、また違った発見がある世界名作劇場、小さい時に観ていた方はもう一度、観なおしてみてください。もし、見たことがなければ、観てください!。本当に世界名作劇場は深いメッセージが詰まった作品ばかりです。
最近は世界名作劇場の面白さを伝える、紹介が多いいですが、本当に世界名作劇場は名前の通り、名作ぞろいです。どうして、制作終了してしまったんだ!。
まだまだ、ネタなら沢山あるのに!。子供に夢や感動を与えてくれ!。お願いだから、また、世界名作劇場を復活させて欲しい!。




