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物部の書評広場  作者: 物部がたり
あ行————
12/100

伊坂幸太郎 『魔王』

講談社 (講談社文庫) 発行日2005年10月20日 著者:伊坂幸太郎

漫画化あり

 著者自身が「自分の読んだことのない小説が読みたい。そんな気持ちで書きました」と語る作品。伊坂幸太郎の『魔王』です。


 おどろおどろしいタイトルですね。シューベルトの魔王からタイトルを取っていると思われます。作中でもシューベルトの魔王の話がありますから。知らない人のために、シューベルトの魔王とはどのような曲なのかを説明しますと。


 作詞を手掛けたのは『ファウスト』や『若きウェルテルの悩み』で知られる大文豪ゲーテです。シューベルトとゲーテのコンビって……凄い凄すぎる、と思いました。


 この話は憲法九条や住民投票などの政治的な話が描かれているので、感想が書きづらい……。だって、ネットでは結構うるさいでしょ。左翼だ右翼だって。なるべく中立の立場でのご紹介を心がけるので安心してください。


「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」という伊坂さんらしく、作品で論じられているテーマは深刻なのですが、シリアス過ぎず、ユーモアがあり最後まで楽しく読める作品でした。これは一種の才能ですね。


 著名人が政治の話をすることを日本人は嫌いますよね。確かに著名な人が、党を支持すればファンの人は影響を受けるでしょう。けれど、それでは駄目なのだと、作中である人物が言っています。


 テレビのコメンテーターや専門家が政治のことで議論していますが、それはその人の主観が混じっているであって、あなたの思想ではないわけです。テレビの専門家が言っていたことを、あたかも自分の思想のように誤認して、判断を誤るな、と。


 自分の思想を持つにはまず、知識を持たなければならないのです。ネット上には過激な思想やデマ、ホラが溢れかえっていますが、そのような思想に影響されないためにも、まずは知ることからはじめねばなりません(と、偉そうなことを言っていますが、私も政治には詳しくありません)。


 テレビの専門家やネットの過激な思想に流されて、判断を誤らないためには自分の思想を持つこと。自分の思想を持つには色々な方の話を聞き、自分の考えを織り交ぜることです。話がそれましたね。では、作品の概要にふれていきましょう。 


 本作は『魔王』と後半の『呼吸』の二編から構成されています。不思議な構成ですよね。かなりのネタバレを書くので、ネタバレが嫌だという方はここでブラウザバックお願いします。


 

 はい、ネタバレ大丈夫な皆様、心の準備はいいですね。どうして、『魔王』と『呼吸』が対をなしているかと言いますと、魔王の主人公『俺』こと、安藤はある政治家の野望を食い止めようと錯綜しているさなかに殺されてしまい、主人公が代わるからです。


『呼吸』では兄安藤の意志を継ぐ、安藤潤也の物語となります。どうして、安藤が死ぬ羽目になったのかを、今から紹介しますので置いて行かれた感を感じている方も安心してください。


 安藤(兄)は地下鉄で大学時代の友人“島„と再会するところから物語ははじまります。大学時代は長髪だったのですが、営業社員になり暑いからとの理由で、再会時には髪を切っていました。


 安藤は久々に再会した、島とある話で盛り上がるんですね。ここから、安藤の人生は少しずつ、ゆっくりと狂いはじめるのである、と。


 今まで選挙投票に行ったことがないことを自慢していた島が、投票に行くと言いはじめるんです。なんでも犬養(いぬかい)という政治家が、気になるからだと。


 この犬養という人物が最重要人物になってくるんです。この犬養、とてつもないカリスマ性を持っていて、作中ではよくムッソリーニに例えられています。


 そう、ムッソリーニに例えられるだけあって、結構独裁者の素質があるのかな? 当然といえば当然なのですが、独裁者はプロパガンダの使い方が上手いんです。


 その時代の先端を行くオシャレな制服に統一させたり、ムッソリーニなら黒シャツ隊。ヒトラーなら親衛隊の制服とかね。不謹慎かもしれないけど、カッコいいの。現代でも通用するファッションですよ。


 最近でもナチスの制服を彷彿とさせる衣装を着て、コンサートを開いたアイドルグループが叩かれたり、ハロウィンのコスプレでナチスの制服を着た人が叩かれたという話を聞きました。


 話の辻褄が合いませんが、何が言いたいかって言うと、制服がスタイリッシュでカッコいいです。ちょっと、調べてみてください(※と、言っている著者ですが、個人の感想であって、ナチスを称えている訳ではありません)。


 やっぱり時代を先導するのは若者です。若い人たちはオシャレにも敏感。ダサい制服を着るよりも、カッコいい制服を着たいと思うのが普通じゃないですか。


 学校でもそういうのありますよね。あそこの制服カッコいい、可愛い、という理由で学校を決めちゃうってこと? ありません? あれも学校のプロパガンダです。


 つまり、バラバラの民衆の意識を統一する方法は、まず制服からなのです(言い過ぎです)。その他にも、共通の敵を作るという方法もありますね。


 韓国が日本を目の敵にすることで、現大統領が人気を得たようなもので、ヒトラーがユダヤ人という共通の敵を作り、若者を駆り立てたようなもの。


(偉そうなことを言っていますが、政治にはそれほど詳しくありません。だから、一個人の話として読んでください)


 話はそれてしまいましたが、今作の犬養は宮沢賢治をプロパガンダに利用して、若者をアメリカ憎し、中国憎しのファシズムに駆り立てていくのです。そこで何か得体の知れない危機感をいち早く覚えたのが安藤(兄)なのです。


 島と再会した電車の中で、安藤(兄)は自分に特別な力があるかもしれないということを知る。後に安藤(兄)は腹話術と自身の能力を名付けます。


 戦闘向きの能力ではないんですよね。相手と意識をリンクさせることで、心で思ったことをしゃべらせるというものです。


 伊坂幸太郎作品には特殊能力を持った人物がよく登場しますが、今作も特殊能力? を持った人物が結構登場します。ネタバレになりますが、『呼吸』の主人公安藤(弟)は強運? という能力を持っています。


 安藤(兄)は腹話術を使い、犬養の野望を阻止しようとするのです。腹話術なんかでどうやって、阻止するんだよ? と思われるでしょう。とどのつまり、犬養の人気を没落させるようなセリフを言わせればいいんですよ。


 とんでもないカリスマ性を持った犬養の口から、あの言葉が言われていれば面白いことになっていたでしょう。どんな言葉を言わせようとしていたかは、ご自身でお確かめください。


 あともう少しで犬養にあの言葉を言わせられるというところで、安藤(兄)は敵スタンド……じゃなくて、敵能力者の手で殺されてしまいます。


 安藤(兄)が殺されてしまい、主人公は安藤(弟)へと代わります。兄の意志を継ぐものとして。安藤(弟)が主人公の『呼吸』が気になった方は読んで見てください。


 表題にもなっている、『魔王』とは誰のことを指しているんだろう? と思いながら読んでいたんです。はじめは犬養だと思ったのですが、違うかもしれない、と思うようにもなりました。


 魔王は安藤(兄)なのか? それとも安藤(弟)のことを指しているのか? 『呼吸』の終わり方が、『カラマーゾフの兄弟』のような終わり方を連想させられましたね。


 これは案外知られていないことだと思うのですが、『カラマーゾフの兄弟』は完結していないんですよ。あの分量でまだ半分だったのだとか。


 作者のドストエフスキーはカラマーゾフの兄弟を書いているときに亡くなってしまったので、続きが書かれていれば、末っ子のアリョーシャがテロリストになっていたかも知れないのだと、論じられていますね。


 カラマーゾフの兄弟を彷彿とさせるように、『魔王』にも続編の『モダンタイムス』があります。気になった方は『魔王』と続編である『モダンタイムス』を読んで見てください。ありがとうございました。

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