伊坂幸太郎 『マリアビートル』
角川書店 (角川文庫) ジャンル:群像サスペンス 初版発行: 2010年9月24日 著者:伊坂幸太郎
あの『グラスホッパー』に続編があったとは……。皆様、私が以前紹介した『グラスホッパー』をご存じでしょうか? 伊坂幸太郎さんのジャンル分け不可能と言われる、『グラスホッパー』です。
なんとですね。あのグラスホッパーに続編があったんですよ。それが今回紹介する『マリアビートル』です。
私も読みはじめたときはわかりませんでしたが、グラスホッパーで聞いたことがある名前やワードが出てきて、軽い衝撃を受けました。
伊坂さんお得意の遊び心があって、長い物語を飽きずに読み通すことができましたけれど、好きになれない登場人物がいて、イライラしながら読んでいました……。
物語の舞台は東北新幹線の車内の密室空間。新幹線の中だけを舞台に、書こうと思ったら、かなり条件が絞られて大変だったと思います。
それなのに、滅茶苦茶分厚いの。密室空間であそこまで物語を紡げる、さすがプロ。その東北新幹線の中に殺し屋たちが集結して、起こる群像サスペンス。
まるで『バッカーノ!』の大陸横断特急のような物語です。登場人物も、バッカーノ! の登場人物に似ているキャラが多いと思いました。
滅茶苦茶物騒ですよね(笑)。新幹線の中で人が殺されて行くんですよ、次々と。作者の伊坂さんも『実際の東北新幹線はこんなに物騒ではない』とあとがきで書かれていました(笑)。
そりゃそうですよね、毎回こんな物騒なことが起きると、誰も乗りたいとは思いません。
群像劇の形式をとっていて、個性豊かな殺し屋たちが同じ新幹線内でそれぞれの思惑を持ち、錯綜する痛快? エンターテインメントになっております。
主要登場人物は五人ほどに絞れると思います(物語の後半くらいからは、意外な人物や、前作グラスホッパーでも登場するあの人物の活躍もあるかも)。その五人とはこちら↓
・ 木村雄一
元殺し屋。アルコール中毒だが、渉が入院して以降、アルコールを断っている。渉に重傷を負わせた王子に復讐するため、新幹線に乗り込む。
・ 蜜柑
檸檬とコンビを組む殺し屋。A型。峰岸からの依頼でトランクとともに峰岸の息子を盛岡まで運ぶ仕事をしていたが、トランクの紛失と峰岸の息子が死亡したことにより、窮地に追い込まれる。文学好きである。
・ 檸檬
蜜柑とコンビを組む殺し屋。B型。機関車トーマスを愛し、キャラクターの描かれたカード、シールを携帯している。
・ 王子慧
狡猾な中学生。同級生に恐れられ、苛めの指示をしている。渉をデパートの屋上から突き落とし意識不明の重体を負わせたことにより、木村から恨まれている。
・ 七尾
ツキのない殺し屋。業界では天道虫と呼ばれ、真莉亜から仕事の指示を受けている。東京駅から乗車し、トランクを奪い上野駅で降車する仕事を請けるが、様々なアクシデントにより事件に巻き込まれていく。
人物紹介は、ウィキペディアからの引用です。大体この五人を軸に物語が展開されるのですが、ごくたまに、グラスホッパーでお馴染みの人物も絡んできます。
果物の名前を持つ殺し屋コンビ、蜜柑と檸檬は峰岸という人物から、あるトランクを運ぶという依頼を受けていたのですが、ある人物にトランクを奪われてしまうんですね。
その人物が運の女神様から見放された、ツキがないことで有名な、天道虫こと七尾なのです。
七尾もある人物の依頼で、トランクを奪うことを命令されているのですよ。何とかトランクを奪うことができた、七尾ですが、運の女神様から見放されている、彼がそれで依頼完了というわけにはいきません。
新幹線から降りようとしたところで、因縁のある狼という殺し屋を誤って殺してしまい、さあ大変。
七尾の計画は狂いはじめ、王子というサイコパス中学生が、その他の殺し屋たちのミッションを遊び半分で狂わせていくのです。
今さっき書いた、好きになれない人物とは何を隠そう、王子です。
王子が本当にムカつくキャラに仕上がっております。環境が王子を変えたのではなく、生まれながらの悪です。今作の悪キャラはこの王子といっても過言ではありません。
無邪気を装う子供が殺し屋以上に怖いという物語ですよ……。戦闘能力はないけれど、心理戦が巧みで、王子に殺された人間数知れず。
王子に制裁を加えるのは誰なのか? 滅茶苦茶、意外な人物でした。
あまりに王子がクズ人間に仕上がり過ぎていて、何度読むのを辞めようと思ったことか……。けれど、最後は『なろう』でいうところの、ざまぁがあって、スッキリします。
ざまぁまでたどり着くまで、辛抱できるか? ですが……。
本作はグラスホッパーを読んでいない方でも、たぶん楽しめる作品だと思われます。
読んでいればなお面白い、読んでいなくても面白い。どっちにしろ面白い、それがジャンル分け不能の伊坂作品なのです。ありがとうございました。
と、終わると思いましたね。いつもなら、終わっているのですが、実はですね、最後に重大な発表があります。なんとですね、この伊坂幸太郎原作の『マリアビートル』がですね。
ハリウッドで映画化が決まっているそうですよ! あのブラッド・ピットが出演することが決まっているのだそうです! 向こうのタイトルは、『Bullet Train』。
確かに、ハリウッドで受けそうな内容だと思います。では。




