見たい!
「ホントだよ!ホントーに何もしてないからね!」
「だ、大丈夫だよ新妻さん。疑ってないから」
姉帯家での朝食ぼくは初めてのお泊りの夜を過ごし、帰る前に朝食までご馳走になっていた。
昨夜は急に眠くなってしまって姉帯さんのお姉さんにベッドを貸してもらったぼく。起きたら何故か違う部屋で寝たはずのみんなが下着姿で絡み合っているところを目撃してしまった。
そういう関係だと勘違いしたが、どうやら何故かぼくの隣で寝ていた新妻さんを姉帯姉妹が捕まえたところだったそうで、新妻さんは自分の無実をずっと主張しているのだった。ぼくは普通に信じてるんだけどね。
「それにしても楽しい時間はあっという間だねぇ。弟月くん、結、もう一泊してく?今日こそお姉さんと一緒にお風呂でも」
「あはは、流石に今日は帰ろうかな」
「私も一泊分しか用意してない」
「だよね〜。しょうがないかぁ」
寂しそうな姉帯さん。いつもはあまり見ない表情だ。お泊りしたことで、姉帯さんも新妻さんも普段はなかなか見れない様子を見せてくれた。なんだか、より仲が深まった気がする。
ふたりもそう感じてくれていると嬉しいな。
「あ!そうだ!弟月くんも結も今度家にお泊まりセット置いておきなよ!」
「いいね〜それ、いつでも泊まりに来れるじゃん」
「え、でもいいのかな?迷惑じゃない?」
「いいのいいの!弟月くんならうちの姉も喜ぶから、ね!」
とんとん拍子に進んでいく次のお泊りの話。友達の家に荷物を置いておくって、すごい!語彙力がないけど、すごく仲が良い友達みたいだ!
嬉しくて自然と笑顔になっていたようで、気付くと姉帯さんと新妻さんがぼくの顔を微笑ましそうに眺めていた。
急に恥ずかしくなって顔を俯ける。顔が熱く感じる。きっと今、ぼくの顔は真っ赤だろう。顔をそむけただけでは収まらなくて、一人で勝手に言い訳を始める。
「ご、ごめん。またこうやってふたりと過ごせると思うと、嬉しくてつい……」
「……」キュンキュン
「……」キュンキュン
「あ、ダメだわ胸キュンしすぎてヤバイ。抱きしめたい」
「えぇ⁉ 急にどうしたの姉帯さん!」
「いや、だってもう可愛いっていうか嬉しいっていうか、抱きしめたい」
「ちょ、ちょっと落ち着いて、ね!新妻さんも何か言って……」
「……愛おしすぎ、鼻血でてきた」
「うわ! な、なんで⁉」
助けを求めて新妻さんを見ると、鼻から血を流していた。
「さ、弟月くん、お姉さんの胸に飛び込んでおいで!」
「いや、今そんな状況しゃないよ⁉ 新妻さんが鼻血出してるから!」
「じゃあ、私の胸に飛び込んでおいで弟月くん。鼻血着いたらごめん」
「いやいや、まず拭こう、ね!まず鼻血を拭こう!」
「じゃあお姉さんが弟月くんの胸に飛び込んじゃうから!」
「待って!待って!待って!落ち着いて!」
「私も飛び込んでいいかな」
「鼻血を拭いてー‼」
気持ちの良い朝、閑静な住宅街にぼくの悲鳴が響くのだった。
「お世話になりました。お姉さん」
「朝から騒がしくしちゃってすいません」
「気にしないで、私も楽しかったわ。ふたりともまた泊まりにきなよ」
騒がしくも楽しい朝食を終えて、ぼくと新妻さんはそろそろ帰ることにした。姉帯さんはもちろん、お姉さんにも随分とお世話になってしまった。今度姉帯さん姉妹には何かお礼をしないと。
「あ、そうだ。来週って夏祭りでしょ。あなたたち三人で行くの?」
お姉さんに言われて はっとする。そうだ、来週だった。夏祭り!夏休みが始まる前から姉帯さん、新妻さんと一緒に行こうと約束していた。
友達と夏祭りなんて、これまた初体験でぼくはかなり楽しみにしていた。そしてぼくが密かに楽しみにしているのが、ふたりの浴衣姿だった。絶対似合うよね。
「もっちろん。夏休み始まる前から予定入れてたからね」
「弟月くんと夏祭り……」
グッとガッツポーズをする新妻さん。すごいやる気だ。
「明日香も結ちゃんも浴衣は着るの?」
「え?浴衣?」
「あぁ、浴衣ですか?」
キター!と思ったけどふたりの反応はいまいちだった。あれ?
「私、浴衣持ってないんですよね」
「今までも夏祭り私服で行ってたしね、着たことないよね」
「な、なん……だと……」
「今年も私服でいいよね?」
「うん、ていうか選択肢がないから」
「……たい」
「え?どうしたの弟月くん?」
「見たい」
「何が?」
「ふたりの浴衣姿!見たいです!」
はっ!思わず思いの丈を叫んでしまった。慌てるがもう遅い、実際にもう言ってしまったあとだ。やばい、引かれちゃうかも。
「あ、あの、やっぱり何でも……」
「……ます」
「え?」
「浴衣着ます!」×2
「……え?ほんと?」
「ちょ、明日香!ゆ、浴衣!浴衣買いに行こう!」
「そ、そうだね結!急いで準備しないと!」
思いの丈が通じたのか、乗り気じゃなかったふたりが浴衣を着る気になってくれたようだ。咄嗟に言ってしまったが、結果オーライだ!
「浴衣って高いわよ。ふたりとも大丈夫なの?」
「ぐっ、お金はそんなにない」
「私も……」
お姉さんの言葉に、ぐぬぬ顔になるふたり。ついでにぼくも。お金ばかりはどうしようもない、ふたりの浴衣姿は諦めるしかないのか、絶対似合うと思うんだけど……
「そんなふたりにお得な情報!私の友達に浴衣けっこう持ってる子がいてね、借りれるよ」
「! マジすかお姉さん⁉」
「マジよ~。私も借りたことあるし、普通に貸してくれるわよ」
「姉が有能」
こちらを見てグッと親指を立てるお姉さん。超有能です!ぼくも親指を立てて答える。
「じゃあお祭りの日は結ちゃんもウチにおいで、ふたりの着付け友達と一緒にやってあげるから」
「お姉さん!この御恩は一生忘れません」
新妻さんは涙を流しなら喜んでいた。そんなに浴衣を着る気になってくれてぼくは嬉しいです。
こうして、夏祭りは姉帯さん、新妻さんは浴衣を着てくれることになった。実際、ふたりと夏祭りに行けるだけでもぼくには嬉しいことなのだが、浴衣姿まで見れるなんて、この夏で運をかなり使ってしまっている気がする。
でも、そんなことも気にならないくらい夏祭りが楽しみな ぼくなのでした。




