ビキニは揺れが激しいですね
沖でぼくが窒息してからは砂浜で遊ぶことになった。窒息と言っても、断じて溺れたわけではないよ。
「海入ったから日焼け止め落ちちゃった」
「あ、結は焼かないんだ?」
「ん?ん~弟月くんは肌焼いてる人ってどう思う?」
「そうだなぁ。健康的な感じでいいと思う、かな」
ぼくの言葉を聞き、考え込む新妻さん。
「あ、でも新妻さんの白い肌もすごく綺麗だよ!」
「よし、わたし、焼かない!弟月くん、背中に日焼け止め塗ってほしいな?」
「え、せ、背中にぼくが?」
ふたりと一緒にいると、わりとボディタッチが多くあるけど、自分から触るなんて、いいのだろうか……
「お願い」振り向きざまに上目遣いの新妻さん。
「塗らせていただきます!」
日焼け止めを受け取り、意を決して背中に手をそえ、おっかなびっくりに日焼け止めを塗っていく。
「ん……」
「ふあぁ、ご、ゴメン⁉」
少し塗るたびに新妻さんから色っぽい声が聞こえて気が気じゃない。
「ど、どうでしょうか?」
「うん、ありがとね弟月くん」
しっかりと塗り終えるころには心臓が破裂しそうになっていた。
「弟月く~ん。お姉さんにも塗ってくれる?」
「え?姉帯さんも……」
後ろからの呼びかけに振り向いたぼくは瞬時に固まる。姉帯さんはビニールシートにうつ伏せになっていた。だが、よく見るとビキニのひもが外れている⁉横からむ、胸が際どいところまで見えそうになっていた。
「お姉さんにも お願い」
あまりの光景にぼくが固まっていると……
「あすか〜、あんた今日は焼くって言ってたよね」
「あ、ちょっと!結!見逃して!」
「明日香はちょっと自重すべき!」
新妻さんのインターセプトにホッと胸をなでおろす。これ以上の刺激は危険だ。ぼくの心が限界を迎えそう。
「そ、そうだ!何かして遊ぼうよ!」
「そうだね、いろいろ持ってきてるから、遊ぼう!」
話をそらすために、とりあえず遊びの提案をしてみる。海で遊ぶのが余程楽しみだったようで、姉帯さんと新妻さんはいろいろと遊び道具を持ってきてくれていた。
「ビーチボールしよう!ビーチボール!」
「いいね、私と弟月くんチーム対明日香ね」
「ちょ、お姉さんも弟月くんとチームがいい!」
結局三人でチームは無理があるので、適当にやることにしたぼくたち。この時、ぼくはまだビーチボールを甘く見ていたのだった……
「はい、結!行ったよ~」
「ん、弟月くん!」
「ひゃ、ひゃい!」
ふたりが上手く続けたボールが、ぼくのところで途切れる。
「あは、どんま~いい弟月くん!」
「ご、ゴメンね。拾ってくる!」
ぼくは元々運動が得意な方ではないが、それにしてもミスが多発していた。このビーチボール、かなりヤバい!何がヤバいかと言うと……
「いったよ~明日香!」
「おっけー、はい!」
……揺れるのである。何がとまでは言わないが、それはもう揺れるのである。ビキニに包まれたそれは、ボールをトスするたびに激しく揺れる。
こちらに来るボールを見なければならないのに、そちらに目が行ってしまいミスが多発するのだった。む、無理だ。目が勝手に揺れるふたりを追ってしまう。
そして、動くとビキニがずれるのか、指をお尻や胸の隙間に入れてズレを直すふたり。もうね、ほんと……ビーチボール、これほどに危険なスポーツだったのか。いろいろと動けなくなりそうでヤバい。
「砂浜って動きにくいから疲れるね」
「ちょっと休憩しよっか」
いろんな意味で休憩したかったので、それとなく訴えてみると、新妻さんが休憩を提案してくれた。一安心である。
「弟月くん、弟月くん」ちょいちょいと、後ろから姉帯さんに呼ばれ振り向くと……
「水着がズレちゃって、直してくれる?」
姉帯さんはぼくに向かってお尻を突き出していた。ビキニは動いていたせいでズレてきたのか、まるで、T、T……
思いっきり直視してしまったぼくの視界はブラックアウト。刺激が強すぎたのだ。本日二回目の気絶……
「この、エロ明日香!」
「許して~弟月くんが、弟月くんが可愛すぎるのがイケないの!」
「弟月くんのせいにすんな!」
目を覚ますと姉帯さんが正座で新妻さんに怒られていた。
「あ、弟月くん!目が覚めたのね?」
「う、うん、ごめんね。また意識が……」
「しょうがないよ、明日香が悪い!弟月くんにケツ突き出して!」
け、ケツって新妻さん……
「仕方なかったの。弟月くん、お姉さんを許して」
「あ、いや、すごく刺激的でした。はい」
「……もう少し、見たい?」
「反省しろ!エロ明日香!」
ぼくは学んだ。海は刺激的な危険がいっぱいだ。
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「お姉さん、そろそろお腹減ってきました」
「そうだね、海の家があったからお昼食べに行く?」
「時間もちょうどいいね、お昼にしようか」
砂浜で身体を動かしたぼくたちはお腹が減ったのでお昼にすることにした。海でのお昼といえば、海の家!焼きそばとかホットドッグ、ビンのラムネ!今まで海で遊んだことないから密かに憧れてたんだよね。
客で込み合う海の家だったが、運よく席が空いており、座敷に上がりこむ。
「お姉さん焼きそばにするー!」
「あ、かき氷あるんだ。ぼくはかき氷にしようかな」
「……私もかき氷にしよっと」
「キミたちそれだけで足りるの?」
姉帯さんはガッツリ焼きそばを頼んだが、ぼくと新妻さんはかき氷にした。ぼく的には暑いからこれだけで丁度いいかな。
初めて海の家で食べたけど、何でかすごく美味しく感じる。この海の開放感と姉帯さん、新妻さんのおかげかな?
「弟月くん。イチゴ味美味しい?」
「うん!新妻さんもレモン美味しい?」
「イケるよこれ、ちょっと食べてみる?」
「いいの!じゃあ……」
レモンも食べてみたかったぼくには願ってもない提案だ。さっそく少し頂こうとすると、新妻さんは自分のスプーンでかき氷を救って差し出してきた。
「はい、あ~ん」
「に、新妻さん、ぼく自分で……」
「あ~ん」
「……あ~ん」
新妻さんはまったく譲る気がなさそうなだ。恥ずかしいけど、変に意識しすぎる方が変な感じになると思い、頂くことにする。顔が熱い。
「ん、レモンも美味しいね」嘘です。正直味がわかりません。
「でしょ、でも弟月くんのイチゴも美味しそうだね」
「あ、うん!新妻さんも食べてみる?」
「良ければもらおうかな」
「もちろん!」
新妻さんにかき氷を差し出す。しかし、なかなか食べない新妻さん。新妻さんはじっとぼくを見つめて動かない。
「た、食べないの?」
聞いてみるも返事はない。それどころか、新妻さんは口をあけてそのまま待機している。こ、これは、「あ~ん」のお返ししろということか……意を決して、スプーンでかき氷をすくい、新妻さんに差し出す。
「あ、あ~ん?」
新妻さんは満足そうに頷くと、ぼくの差し出したかき氷を食べようと顔を近づけて……
パクッ
「うん!美味し!お姉さんもかき氷頼もうかな!」
「あ、姉帯さん⁉」
「……」
ぼくが差し出したかき氷をすんでのところでかっさらった姉帯さんはとても満足そうにしていた。
「弟月くん!もう一口、お姉さんに食べさせてほしいなぁ」
「え、えっと……ヒッ」
隣から背筋の凍るような殺気を感じる。恐る恐る横目で見ると、新妻さんが俯いて身体を震わせていた。
「はい、あ~ん。弟月くんの食べさせて!」
まったく気付いていない姉帯さんは嬉しそうにはしゃいでいる。
「あ、あの、姉帯さん……」
「?どったの?」
「後ろ」
「え、後ろ?」
「明日香、ちょっと店の裏に行こうか?」
「ヒッ、ゆ、結⁉」
「久々に切れちまったよ。あれは弟月くんが私にくれたのに……」
「あ、ちょ、ごめ、ごめんなさ~い!助けて弟月くーん!」
ご、ごめん姉帯さん。ズルズルと新妻さんに引きずられていく姉帯さんを合掌して見送る。
とてもじゃないが、今の新妻さんは止められそうにない。姉帯さんの無事を祈りつつかき氷を食べ続けるのだった。