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夏への間幕 それぞれの思い~


~side 新妻にいつ ゆい


「海、には行く約束したし、明日香の補習の日も会える」


 夏休みがすぐそこまで迫っているある夜。学校でも注目の的のギャル、新妻にいつ ゆいは自分の部屋で夏休みへ思いを馳せていた。


 部屋には何故かジャージが飾ってあった。


 夏休みはもちろん好きだ。だるい授業を受けなくていいのだ。けど……最近は毎日の学校が楽しみな自分もいた。


 学校に行けば、ある男の子に会えるからだ。弟月おとずき 佳奈よしなクラスメイトの男の子。


 始めは、まったく目立たないから気にもしていなかった。

友達の明日香から教えてもらわなければ、そのまま気づかなかったかもしれない。


 けれど、よく見るとカワイイ顔をしているのだ。そして何より、ある事件で理由もなく疑われた自分と友達を教師から庇ってくれた。


 あの優しい目を見ていると安心する。最近は一緒にいないと、落ち着かなくなって周りを探してしまうくらいだ。


 そこで問題の夏休み。いつもは学校にさえ行けば弟月くんに会うことができたが、夏休みはそうは行かない。


 休み中に会うには、何か理由を作って会うしかない。すでに約束していることもあるが、それでどれだけ会えるのか……


「海と補習と……だけ?あれ?」


 思ったより少なかった。たった二回って、いくらなんでも少なすぎる。こんなんじゃ弟月くん欠乏症になってしまいそうだ。


 まぁでも普通に遊びに誘えばいいのだ。SNSのアカウントも知ってる。いつでも気軽に連絡はとれる。


 そう、気軽にメッセージを送ればいい。友達に送るみたいに、「今からあそぼー」とでも送ればいいのだ。優しい弟月くんなら快くオッケーしてくれることだろう。そのはずだ……


 試しに今から何か送ってみよう。そう思ってスマホを手に取る。


 ……な、なんて送ればいいだろう。どう書けば引かれないだろうか。いざ、連絡を取ろうとすると緊張して手が止まる。今までにこんな事で緊張なんてしたことはない。


「う、うあああああ!なんて書けばいいの⁉」


 うるさいよ!と部屋の外から母の声がするが、今はまったく気にならない。


「ねえ、弟月くん!なんて書けばいいのかな⁉」


 飾っているジャージに語りかける結。このジャージ、以前弟月くんへ貸したもので、洗わずに飾っていた。ジャージに語りかける姿は完璧に可笑しい人でしかなかった。


「ちょっと!夜にうるさいよ、あんた! …何してんの?」

「…別に、畳んでるだけ、畳んでるだけ」


 母に見られて急に冷静さを装う結であった。





〜side 姉帯(あねたい) 明日香(あすか)


「う〜ん。お腹。ちょっと気になるかなぁ」


 こちら、クラスメイトのもう一人のギャル姉帯あねたい 明日香あすかの部屋。鏡の前で、水着姿になり、セクシーなポーズをとっている。その長身と豊満な胸から、まるでモデルのようなプロポーションだった。


 着ている水着は期末テストの前にクラスメイトのある男の子と買いに行ったものだ。明日香のお気に入りの弟月おとずき 佳奈よしなくんだ。


 自分の隣の席の一見、目立たない男の子。学校が始まってからすぐに気になっていた。授業を受けているときに見える。長い前髪に隠れた可愛い横顔。


 そして、ある事件で私と私の大切な友達の無実を証明してくれた。それからはもう、誰にも渡したくない存在になっていた。


「ぐっ、お肉がつくなら胸にして欲しいんだけど……」


 昔から身体の発育がよく、周りの女子と比べるとかなり目立っていた。前までは絡みついてくるような男子の視線が鬱陶しく、あまり自分の身体は好きではなかった。


 だけど、弟月くんに対しては別だ。自分にも、こんな長所があってよかったと思う。夏と言えば 海‼海と言えば ビキニ‼


 この自慢のプロポーションで弟月くんを悩殺。夏の解放感に任せて、あんなことや、こんなことまで……


「ふふふ……」


 さらに!お出かけデート、夏祭り、夏休みを最大限に活用するのだ!完璧な計画である。鏡の前でビキニのままガッツポーズをする明日香。


「……あんた何してんの?」

「うぇ⁉」


 気付くと姉が部屋に入ってきていた。


「ちょ!ノックとかしてよ⁉」

「はぁ、したわよ。あんたが鏡で自分の身体見て笑ったりポーズとったりに夢中で気が付かなかったんじゃないの」

「くっ、全部見られてる……で、何なの?」

「ご飯だって、てか何気合入れてんの?好きな男でもできたん?」

「……まぁね」

「⁉ うっそ、マジ⁉ あんた男に興味無いと思ってたわ」

「どういう意味、それ」


 姉の中で私は一体どういうイメージなのか……


「で、で、どんな奴なのよ?」


 姉がグイグイくる。ちょっと鬱陶しい。


「ちょっと待ってよ、今見せるから……ほら、この男の子」

「どれ……」


 前にケーキを食べに行った時の写真を見せる。私に後ろから抱きしめられ、パフェを持ったまま顔を真っ赤にして固まっている弟月くんは、何度見ても可愛らしかった。


「小っちゃくて可愛いんだから。ま、あんたは地味とか言いそうだけど」


 姉は確か、もっと男らしい人が好みだった。弟月くんタイプには見向きもしないだろう。


「……か……」

「か?」

「……かわいい」

「はぁ⁉」


 姉が頬を赤くしていた。


「この子、名前なんていうの?私にも紹介してよ」

「はぁ⁉いやいや、いやいや、あんたの好みじゃないでしょ!」

「この子を見て気付いた。私、こういう可愛い子が好みみたい。めちゃくちゃに可愛がってふにゃふにゃにしたい」


 姉はスマホの画面に映った弟月くんから目を離さないで話を続ける……目が本気だ。


「何言ってんの、マジで。 紹介なんてしません。彼氏とか2、3人いそうじゃん」

「失礼ね、フリーよ!いいじゃん、紹介してよぉ」

「猫なで声やめて、嫌です」

「お願い!」

「いや!」

「遊ぶとき、私も一緒に行くわ!」

「絶対!ダメ!」


 弟月くんの前ではいつもお姉さんぶってるのに、本物の姉が出てきたら立場がない!ちなみに、姉も派手な見た目のギャルで、長身、胸も大きい。私の長所が目立たないじゃない!


 その後、まったく夕飯を食べに来ないことを心配した母が部屋に来るまで、姉と妹の争いは続いていた。

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