旅立ち
(月の光で銀に輝く長い髪、赤く澄んだ瞳、透き通るような白い肌) 男は、その人並みはずれた少女の容姿に見とれてしまった そして、男は我に返り訪ねる。
「お前は、何者だ?」
少女は、目を細めて強い口調で言い放った
「まず人に名を聞くならば自分から名乗るのが筋であろう!」
「おっ俺の名前か? 夜影 、、山田 夜影と言う」
男は、戸惑いながらも答えると、少女は、納得したように答えた
「ふむ、それでよいわっちの名は、天羽 しぐれ じゃよろしくのう、しかしおぬしは、いつまで腰を抜かしておる、さっさとたたんか」
少女は、愛らしい笑みを浮かべ夜影に手をさしだす、状況を理解した夜影は、話した自分が幕府の命で北を目指していること、そして実はしぐれも北を目指して旅をしていること「一緒に行かないか?」と、しぐれに言われたが夜影は、断ったなぜなら今回の旅は極秘の任、それに女連れの旅は危険を伴うことを知っていた、その日夜影は、もう一日この町に泊まっていくことにした。
夜が明け夜影は、宿を出る実に清々しい朝だ、一つの事を除けば、宿の前には、一人の少女が立っている。そう、しぐれだ。
「やっと起きたか、待っておったぞ では参ろうか」
「ちょとまて、なぜ当たり前に一緒に行く事になっている」
「言ったであろうわっちも北を目指しておると、ならば一緒に行くべきじゃ」
「だめだ」
「おぬしは、このか弱い少女を見捨てるというのか?」
「俺は、足手まといはいらない」
「昨日わっちを見て腰を抜かしておった者がよく言うものじゃな」
「...........」
「決まりじゃな」
夜影は、ため息をつくさすがに昨日のことを言われたら言い返せないしかし、どうも納得がいかないするとしぐれは、夜影の数歩前に出て振り返り両手を横に広げ笑顔で言った。
「まあそんな嫌な顔をするでない旅は、一人より二人の方が面白い、それにぬしもわっちのようなかわいいおなごと旅ができるのだ、むしろ男なら喜ぶべきじゃ」
自分で言うなと思ったが夜影は、あえて口に出さなかった、そして同時にその笑顔は反則だと思った、そうして二人の旅は始まった。
夜影としぐれの二人は、町を出てしばらく歩いたそして今は、山賊でもでそうな暗い山道を、歩いていた。
「おぬしに一つ質問してもいいじゃろうか?」
「答えられる範囲でな」
「前から思っておったんじゃが、おぬしの刀は、上等なものであろう。しかし幕府の役人が持つような物ではない、いったい何所でそれを?」
「........」
「なあ、教えてくれぬのか?べつに盗ったものではなかろう.......」
「そんな事より山を抜けた所に茶屋がある、そこで休むぞ。それにそこには、うまい団子がある 食べたいだろ」
「それは、真か?ならば急がねば」
そう言うとしぐれは、夜影の手を引っ張っぱり走り始めた
「ちょっ、ちょと待ってくれ!」
夜影が転びそうになってもしぐれは、気にも留めずそのまま手を引っ張るその顔は、まるで無邪気な子供のようだった、しかし夜影は、浮かない顔をしていた。
茶屋で団子と温かいお茶を飲んだあと二人は、小さな村の宿に泊まることにした。
「どうも、こんな小さな村までよくおこしくださいました」
「いいえ、こちらこそ泊めていただき本当に助かります」
「それにしても夜影様の奥様は、本当におきれいでございますね」
「違いますよ、たんなる旅のお供です」
「さようですか~」
宿の女将は、少し不思議そうな顔をしたあと部屋に案内してくれた。その部屋は、決して広くはないが縁側に出ると中庭の池に月が映っているこれがまた風流でいい。そして、女将が部屋をでるといきなりしぐれが夜影の横っ腹に一撃を入れた
「いった、いきなりなにをするんだ、しぐれ.
....」
すると、しぐれは、大声で怒鳴った
「わからんのか?」
「.........!?」
「このたわけが、女将の前でわっちのことをあんなにもきっぱり妻ではないと言うことなかろうが」
「......」
「おぬしのことなどもうしらん」
夜影は、なぜしぐれが怒っているのかまだわからなかった、とりあえず夜影は、しぐれに何度も謝った,,,,,しばらくしてやっとしぐれは、機嫌を直し縁側で月を仰いでいた夜影は、しぐれの隣にそっと座った。
「家族は、今どうしているんだ?」
「もう、この世にはおらん」
夜影は、聞いてはならない事を聞いてしまったとひどく後悔したそして、この少女の悲しみを思うと胸が痛い。
「気にするでない、もちろん最初は辛かったし、涙がかれるほど泣いた、しかしもうなれた」
そう言うとしぐれは、笑って見せたしかしその目は、どこか寂しげだった
夜影は、しぐれの肩に手を回しそのまま抱き寄せる、しぐれも体を夜影にあずけた夜影は、しぐれのぬくもりを感じながら決心した。
「安心しろしぐれ、俺が必ずお前を目的地まで連れて行く、それまではずっと一緒だ」
しぐれは、夜影の着物を ぎゅっ、とつかんだ
「まことだな、嘘ではないな?」
「ああ、本当だ」
夜影は、しぐれの頭をやさくしなでた(ああ、今日の月はより美しい....)暗闇に銀色の髪がなびく、、、、
その晩 夜影は、夢を見た
(乾いた目をした男、赤く染まった刀、少女の泣き叫ぶ声そしてその少女がこちらを睨みつけてくる、その目は、憎しみに満ちている「やめろ...そんな目で俺を見るな、やめてくれ、」すると誰かが自分の名を呼ぶ声がする)
「おきろ、これおきんか」 「夜影、、」
夜影は、あわてて飛び起きる気がつくと朝になっていた、布団の横には、心配そうな顔をしたしぐれがいた。
「大丈夫か?おぬし顔が真っ青じゃ、それにすごい汗、一体どんな悪夢をみておったのだ?」
しぐれは、夜影に肩を寄せる
「大丈夫だ、問題ない」
夜影がそう答えるとしぐれもほっと したように 見えた、自分のことをここまで心配してくれる人がいるというのは、本当に幸せなことだと夜影は改めて思う。
「本当にもう大丈夫なのか?」
「ああ、もんだいない」
夜影としぐれは、お互いに微笑み合う。
晴れ渡る空の下二人は、次の町を目指す
二人の旅はまだ始まったばかりだ
次回「さらわれた姫」前編