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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第四章 子どもが大人に変わる時

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後悔しない選択は

 カーミラの魔の手が迫った、あの時。

 アルファンスと二人で書庫のいた、あの時間。

 姿を隠していたラファが、傍にいたのは、知っていた。

 だけど、それよりずっと前から、ラファが私とアルファンスを見ていたというのなら。

 一体、彼女はいつから……。


 唖然と目を見開く私に、ラファは暫く黙り込んでから、幼いその容貌に似合わない自嘲の笑みを浮かべた。


【……あの時、だけじゃないわ……ずっと、わらわは、主とアルファンスを傍で見ていた……ヘルハウンドが事件を起こした時も、主たちがこの学園に入学した時も……わらわが、アルファンスを眷族に迎えいれようとして、拒絶されたあの時から、ずっと、な……!!】


 ラファはきつく唇を噛みしめながら、私を睨み付けた。


【……その間、ずっと主はアルファンスの傍にいたな……!! アルファンスに見つめられ、声を掛けられ、意識を向けられて、特別な存在として、扱われていたな……!! ……どうして、どうしてなのじゃ!? わらわは、わらわは姿を見せることすら、ただ一言、声を掛けることすらも、拒絶されていたというのに……!! ……主は、アルファンスの想いに、同じだけの想いを返すこともなく、赤毛の地の娘や、他の女に囲まれていたというのに……!! どうして、ただ一途にアルファンスのことだけを想い続けていたわらわが、主よりずっと低い扱いを受けねばならんのじゃ……!!】


 真っ直ぐにぶつけられる、ラファの怨嗟にたじろいた。

 ラファが言う程、アルファンスから特別な存在のように扱われていたとは思えない。

 それでも、存在を認識することすら拒絶されたラファにとって、私の存在はさぞかし目障りだったことだろう。

 それくらい、私はアルファンスの近くにいた。

 幼馴染としても、婚約者としても。

 同じ時を、アルファンスと共に過ごしていたのだ。


【――じゃが、それでも……わらわがどれほど、主を憎く思っても……それでもわらわが頼れるのは……アルファンスがわらわのことで耳を貸す相手は、レイリア……そなたしかいないのじゃ】


 ラファは葛藤を露わに視線を彷徨わせてから、覚悟を決めたように深く頭を下げた。


【――頼む、レイリア……この通りじゃ!!……父親である王の言葉にも耳を貸さなかったアルファンスが、レイリアに責められたあの時、初めて悩んでおったのじゃ……あの夜初めて、アルファンスはわらわを許さないことを葛藤しておった……レイリア。お前の言葉で初めて……】


 言葉に苦渋をにじませながらも、ラファは今までの傲慢な態度をかなぐり捨て、不本意であろう私に向かって、必死に懇願した。


【後生じゃ……どうかアルファンスを……アルファンスを説得して、くれ……】


 嫌いな私にすら、プライドを曲げて頼み込んだラファの姿に、どうしようもなく心が揺さぶられた。

 頭をあげて。

 私で良ければ、極力するよ。と、そう言いたくなった。


 ……だけど。


 それでもやっぱり、私は。


「……ごめん。……どれほど頼み込まれようと、私の気持ちは変わらないよ」


 ――どれほど懇願されたとしても、どれほど良心が痛んでも、アルファンスよりラファを選ぶことなんて、出来やしないんだ。


 そのままラファに背を向けて、足早にその場を立ち去ろうとした瞬間、目の前に立ちふさがる姿があった。


「……フェニ?」


 私の進行方向を防ぐように、目の前に割り込んだフェニの姿に目を見開いた。

 先ほどまでは、見なかったふりをして、その場を去ることに賛同してくれたフェニが一体どうして……。


「……フェニ。君は、ラファに味方してやるべきだと、そう思うのかい?」


 私の問いかけに、フェニはゆっくり首を横に横に振った。


 ……ラファを、助けるべきだとは思って、いない?

 それなら、君は一体、どうして……。


『――生き方に、正しいも間違っているもなにもないわ……いつだって、目の前にあるのは無限の選択肢と、過去選択した結果があるだけ。正しいも間違っているも、終わったあとじゃなきゃ評価なんて出来やしないわ』


 不意に、マーリーンの言葉が脳裏に蘇った。


『だからこそ、人はその時、自分が一番後悔しないだろうと思う選択肢を選ぶのよ。例え、それが間違っている物だとしても、未来の自分が最も後悔しないと思える選択肢を』


 記憶の中のマーリーンの赤い瞳が、真っ直ぐに向けられたフェニの焦げ茶色の瞳と被った。


「……フェニ。君はもしかして、私がこのままラファを置いて行けば、後悔するだろうと、そう思っているのかい?」


 私の言葉を肯定するように、フェニは小さく鼻を鳴らした。




 絶対に、後悔なんかしない。――そう、言い切ることはできなかった。

 カーミラを見捨てたあの時とは違って。


 一体、どうして?

 私がアルファンスよりも、マーリーンを大切に思っているから?

 それとも、ラファの罪は、カーミラの罪よりも軽いとおもっているから?


 ――違う。そうじゃない。


 私が今、こんなにも葛藤しているわけは。

 カーミラのように、ラファを切り捨てることが出来ない理由は。


「――きっと私が、ラファの言葉を、まだ十分に聞いていないからだ」


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