被害者について
午後4時。
シルバームーンと書かれた看板のある店は4階建て雑居ビルの3階だ。
壁一面に大きく引き伸ばされたホスト達の写真が飾ってある。名前と簡単なプロフィールが写真の下に書き込まれている。
それにしてもJINだのTAKUYAだの、リョーマだのと、全員日本人だよな? と聡介は思った。
ホストが何人いるのかを調べたところ合計15名。
三組ぐらいの刑事で手分けして話を聞いた方が効率的だ。
そこで聡介は和泉達と、他二組のコンビを呼んだ。
予め経営者に連絡をし事情を説明したところ、開店一時間前なら、と言われたので店に向かった。
ところで和泉は、さきほどからひどく不機嫌そうにムスっとした顔をしている。
もしかして所轄の若手女性刑事と組ませたことが原因なのだろうか。
通常刑事を組ませる時には所轄の刑事と1課の刑事、若手とベテランという組み合わせだ。
所轄の刑事は地元の地理に詳しい。若い刑事はベテランから技術を学ぶ為。
そこで聡介は一番若手であろう、広島北署の若い女性刑事と組ませることにした。
あわよくばこれがきっかけで、和泉が彼女とどうこうなればいいのではないか。そんな思惑もあった。だが……期待は外れたようだ。
元々彼は女性への興味が薄い。
それに加えてこの女性刑事が、聡介の考えているのとはまったく違うタイプの、和泉がもっとも嫌うタイプだったとしたら?
いや、そんなことを考えている場合ではない。
しかし、捜査にチームワークは大事だ。過去にも和泉は気に入らない相手とコンビを組んだ時、一人で勝手に動き回ったことがある。
刑事は常に二人一組で行動するものである。
しかし和泉はそういう常識や原則を無視しても、自分の感情を優先するきらいがある。それでいて彼の場合はちゃんと実績を上げているのだから文句は言えない。
聡介は頭痛を感じながら店のドアを開けた。
被害者は源氏名を『隼人』、本名は水島弘樹。
年齢は23歳。出身地は山口県岩国市であり、関西の私立大学を中退後、ホストの職についた。
まずは彼を雇用した店長に話を聞くことにした。
松井と名乗った店長は聡介達を奥のボックス席に案内してくれる。
「隼人は顔も良かったし、トークも上手でしたからね。いつも敦とナンバーワンの椅子を争っていましたよ」
この店長も元はホストだったのだろう。
どこか身を持ち崩したような退廃的な雰囲気と、油断ならない眼つきをしている。
「だからって、敦が隼人をどうこうしたとか考えないでくださいよ?!」
「わかっています。が、まずはその敦という人に話を聞かせていただけますか。それと同時に、他のホストの皆さんにも」
「いいですけど、たぶんオープン時間に合わせて同伴出勤してきますよ。そういうのとはなかなか話ができないと思ってください」
「でしたら、閉店時間を待つだけです」
聡介の表情に気押されたのか、松井店長は口の中でもごもご呟いた。
その時、ぞろぞろと3名ほどのホストが出勤してきた。
彼らはそれぞれロッカーに入って行き着替えを始めた。ちょうど刑事は三組いる。一組に一人話を聞けばいい。
聡介は部下達にそれぞれ事情聴取する相手を割り振った。