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犯人は語る:2

 しかしあの日からまた事情が変わった。


 MTホールディングス社長の高島亜由美が、池田麻美を伴って店にやってきた時からだ。


 普通の女とは違う、一目見た瞬間にそう感じた。


 これは上手く扱えば、思っているよりもずっと早く自分の店を出せるかもしれない。だから彼は一生懸命彼女に気に入られようと必死だった。


 ところが彼女は隼人を指名するようになった。ホストの世界でタブーとされている、他の担当がいる客に連絡を取るといういわゆる『爆弾』をしかけることも考えたが、万が一バレたら、店を追われる上、高額な賠償金を払わされることになる。


 どうにかして高島亜由美に取り入りたい。

 いっそのこと、隼人が死ねばいい。


 どうせいつか何とかしてやろうと思っていた相手だ。


 そんなある日のことだ。いきなり高島亜由美の方から敦に声をかけてきた。

 

 新しくホストクラブを出すから雇われ店長にならないか。上手く行けば独立も夢じゃない。

 

 話が上手すぎると思ったので、最初は警戒していた。

 それに彼女の話では自分だけでなく、隼人も一緒だということだから余計におもしろくなかった。

 

 彼がすぐに色いい返事をしないことを不思議に思った高島亜由美に、思い切って本当のことをすべて打ち明けた。

 

 すると彼女は思いがけず『だったら敦君一人でいいわ』と言ってくれたのだった。


『たぶん、隼人君って敦君がいないとすぐに売れなくなるわ。気付いてた? あの子ね、あなたの話し方や仕草、全部コピーしてるの。器用な子だから、ちょこっと自分流に細工してるけど』


 そういうことか。

 そういえば子供の頃からそうだったような気がする。


『私、あなたには期待しているのよ』

 気分がよかった。


 その話を隼人には黙っていた。

 そろそろ彼ともお別れの潮時だと思ったからだ。もう彼のおこぼれにあずかるような真似はしなくていい。

 

 しかし、どこからともなくその話は隼人の耳にも入った。

 

 その上、2年前の傷害事件のことも誰から聞いたのかバレていた。

 

 自分の名前を騙って妹に大金を支払わせた、と彼はひどく怒っていた。その上、誰に聞いたのか『あゆみと寝たのか?』と詰め寄ってきた。

 

 確かに高島亜由美とは何度か関係を持った。

 

 しかし隼人の言う『あゆみ』は自分の彼女のことだと勘違いしてのことだった。

 

 訴えてやる。

 

 彼は本気だった。彼は敦が怪我をさせた相手を探し出し、事件として立件し、妹の弥生に支払わせた金額を全部、返金させると息巻いた。

 

 たかが一介のホストにそんなことができる訳がない。

 そう敦はタカをくくっていた。だが、それは甘い考えだった。

 

 彼は池田麻美という上客に相談を持ちかけていた。

 彼女は隼人の話を聞き、そういうことなら、弁護士と探偵を紹介したそうだ。

 

 彼が調査を依頼した探偵は有能だった。当時の被害者を見つけ出したからだ。 

 

 もう、殺すしかない。

 

 このままでは自分の店を持つどころか、傷害や詐欺で捕まるかもしれない。

 でも、このまますぐに手を下したら疑われる。

 

 どうすれば疑われずに済むだろう? 

 

 あれこれと考えた挙句、自分と隼人が人に言えない仲だったということにすればいい。客の女性に触れないあいつには元々ゲイの噂があった。

 隼人の死を人一倍悲しむフリをすれば、警察の眼をごまかせるだろう。

 

 でもそれだけじゃダメかもしれない。

 

 そして思いついた。そうだ、あいつの妹を利用すればいい。

 

 殺人事件の原因の半数以上は、男女の恋愛感情のもつれだというのだから。


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