犯人は語る
俺はあいつのことが子供の頃から大嫌いでした。
観念した敦こと、小杉拓真は話し始めた。
父親がいない上に母親は水商売。子供は残酷だ。無邪気に触れられたくない傷をえぐる様なことを口にする。
それは大人になってからも一緒だった。関西で偶然再会した時、自分はホストになっており、向こうは大学生だった。
手っ取り早く金を稼ぎたいと言うから同じ商売を教えてやった。
どうせお坊っちゃま育ちの奴に上手く行く訳がない。
それなのに奴は、思いがけず才能をあらわし始めた。
いつしか自分の地位をおびやかすようにさえなり、このままでは本当にナンバーワンの地位を奪われてしまう。なんとかしなくては。
しかし彼には最大の弱点があった。本命の彼女がいるということだ。
隼人を気に入って指名していた客達は、その内彼が指一本触れてくれようとしないことに苛立ちを覚え、離れていく。
そんな女性達を身体でつなぎ止めてきたのが敦だった。
それでもそんな自分の役割を不快だと思ったことはない。
女達はいつしか、隼人ではなく敦の方へなびくようになるからだ。それから特に就職も決まらないまま大学を卒業した隼人は、広島で同じ商売をすると言い出した。
彼にとって継母が病気になったことなどは関係なかった。ただ、恋人が広島に住んでいるからだ。
そこで敦は隼人に一緒に広島へ行きたいと持ちかけた。
たとえ大嫌いな相手でも離れるには惜しい相手だ。彼には利用価値がある。
広島市内には中四国最大の繁華街と言われる流川がある。そこでホストとして売れることができれば、将来的にはもっと大きな街でも成功できるのではないだろうか。
家賃は払わなくていいから一緒に暮らさないか、と持ちかけたところ、隼人は二つ返事で了承した。
広島での生活も初めは順調だった。
2年前のあの日、酔っぱらいが絡んできて喧嘩沙汰になるまでは。
あの日はちょうどムシャクシャすることがあって、それも原因は隼人だが、八つ当たりしたくて仕方ない気分だったからちょうど良かった。
ところが加減をしたつもりが、思いがけず相手に大きなダメージを与えてしまったようで、大変なことになってしまった。
困った挙句にオーナーである玉城美和子に相談した。
事件そのものは隠蔽してもらえたが、怪我をさせた相手に支払う治療費その他、必要な経費は自分で払わなければならない。保険になど入っておらず、いつかは自分の店を出す為に貯めたお金を切り崩すのも嫌だった。
悩んでいた時に偶然、流川で水島弥生に出会った。
彼女は兄がこの街にいると、どこかから聞いたらしい。
一目会いたいと、一人でフラフラ歩いていたところを見つけた。この子は利用できる。敦はすぐにそう思った。
子供の頃から彼女はいつも兄にべったりくっついていたし、今も兄に本気で恋していることが見て取れた。
そこで本当は自分が起こした事件なのだが、隼人、つまり弘樹が起こした傷害事件ということにして、かかる費用がなんとかならないかと相談を持ちかけた。
嘘がバレる心配はほとんどなかった。隼人、つまり水島弘樹は妹を疎んじていたから一切連絡も取らないことを知っていたからだ。
案の定、水島弥生は何も疑わずに大金を貸してくれた。
正確には寄付と言った方が正しいだろう。返すあてもつもりもなかったからだ。女から金を引き出す方法を敦は長いホスト生活で熟知していた。
それから再び、しばらくは順調な日々が続いた。




