そして結末へ
「ねぇ……それよりも忘れないでね? 私との約束」
「何だったっけ?」
「嫌ね、とぼけないで」
高島亜由美は敦の唇を人差し指で触れ、そして言った。
「裏切ったら殺すわよ」
その時、階段を上って来る複数の足音が聞こえた。
新しい店は雑居ビルの2階にある。
「小杉拓真さん、いらっしゃいますか?」
いつか訪ねてきた刑事達だ。
外見的には穏やかそうだが、時々妙に目つきが鋭くなる。
それからもう一人、隼人の葬儀に来ていた刑事の一人。どちらも人当たりは良さそうだがこういうのが一番油断ならない。
「署までご同行願えますか?」
敦は亜由美を見た。
女性社長は腕を組んで、おもしろそうな顔をしている。
「それは、任意ですか?」
「今のところは、ですね」
「……なら……」
「行ってきなさいよ。何もやましいことがなければ、そう証明してきなさい」
敦は思わず彼女を睨んだ。
この女、何を考えている?
「そうでなければ、このお店は他の誰かのものになるわよ」
大丈夫、落ち着け。
今までだって上手く行ったんだ、これからもきっと上手く行く。
※※※※※※※※※
兄は、私が想うほどには、私を大切には思ってくれなかったかもしれません。
今まで黙っていましたが、兄には他に特定の女性がいたようです。
兄がホストになったのは、その女性の為だったと思います。
私は本気で兄が好きでした。
理屈じゃないんです。だから、兄の為ならなんでもしてあげたいと思っていました。
でも、兄にとっては負担だったんでしょうね……。
子供の頃からずっと私には味方になってくれる人がいませんでした。
実の母でさえ私をないがしろにして父にばかり気を遣っていました。
私が亡くなった実の父の話をすると、ひどく叱られたものです。
子供の頃の遊び相手はいつも兄でした。
父も母も、誰々とは遊ぶな、口もきくな、あれをしてはいけない、これをしなければいけない、と制限されてしまうと自然にそうなるでしょう。
兄は私を可愛がってくれました。近所のいじめっ子から守ってくれました。
だから将来はきっと、兄のお嫁さんになるのだと……その気持ちはずっと変わりませんでした。
でも、いくら事故とは言っても私は、愛する人をこの手で殺してしまったんでしょうか?
玉城美和子の取調べを一旦終えた後、和泉は水島弥生の取り調べに立ち合った。
彼は頭の中で彼女の供述を反芻していた。
どうしてそこまで誰かの為に一生懸命になれるのだろう?
人は皆、自分自身のために生きているのではないか。




