真相解明への2歩目
現場から凶器は発見されていない。考えられるのは犯人が処分したか、もしくはまだ隠し持っているかの二通りだ。
聡介は水島弥生の自宅の家宅捜索令状を申請した。
当然ながら上からはいい顔をされなかったが、玉城美和子の証言が決定打となった。彼女への取調べは引続き和泉に任せ、聡介は他の部下達と岩国の水島家へ向かっている。
あの市松人形のような外見と、モンタージュ写真の彼女を思い出す。
どちらが本当の彼女なのだろう?
聡介はふと、運転席にいる駿河の横顔を見ていて思い出した。
彼もまた、県内では知らない者がいないと言われる有名な家の息子だ。
母親は正式な婚姻関係にはならなかったようだが、彼自身は嫡子として籍に入っている。どんなふうに育てられて来たのだろう?
傍から見ている限り、決して自由にのびのびという訳ではなかっただろう。もしかしたら自分の感情を顔に出さないよう言われてきたのかもしれない。
刑事達は皆、睡眠不足と疲労を表に出している。
そんな中、駿河だけはいつもと変わらない。きっと表に出さないだけで彼だって疲れているに違いない。
今回の帳場は思いがけず長引いた。無事に解決できたら、皆をねぎらってやろう。
岩国に到着した。
捜査令状を見せると、初めは居高丈だった弥生の父親も色を失った。2階の弥生の部屋に踏み込む。
立ち会いの為に家にいた弥生はいつもと違って、今日はモンタージュそっくりの格好をしていた。
明るい栗色の髪はパーマがかかっており、化粧も派手で、爪も長くデコレーションが施されている。深い襟ぐりのカットソーに、眼のやり場に困ってしまう丈の短いスカート。
刑事達が慣れない手つきで部屋中のものを引っ掻き回して段ボールに詰めて行く。
弥生はその様子を黙って見ていたが、不意に聡介に話しかけてきた。
「このお洋服、一式まーくんが買ってくれたんですよ」
「え……?」
「兄も喜んでくれて、初めは落ち着かなかったんですけど……」
聡介は敢えて感情を押し殺し、
「詳しいお話は、あとで署に来ていただいてからにしましょう」
弥生ははい、と頷いてそれ以上何も話さなかった。
娘達とそう年齢の変わらない彼女に対し、いつしか聡介は同情を覚えていた。
そんなことでは刑事は務まらない。わかってはいるが、ただ純粋に兄である被害者を愛してやまないこの女性が気の毒に思えてならなかった。
ところでいつものおかっぱ頭の方が実はカツラだったらしい。
それは弥生の父親が彼女に強制した髪型だったそうだ。取調室で向かい合うと、明るい栗色の髪をいじりながら弥生は話し出した。
「私は……本気で兄が好きでした。家の中で兄だけが、私の味方でした。母はいつも父の顔色を伺って、娘の私よりも大事なんじゃないかと思ったこともあります。兄が進学して関西に行ってしまった時は、本当に悲しかった。でも、母の為に広島まで戻ってきていたなんて……」
「確か、お兄さんとあなたのお母さんは血のつながりはなかったのでしたね?」
「ええ。兄は私がきっと辛いだろうと思って戻ってきてくれたんだと思っています。勘当された身だから、家に戻ることはできなくても、広島ならすぐに会えますから」
「優しいお兄さんだったんですね」
「……でも……」
「でも?」
「こっちに戻ってきていることを報せてくれたのは、まーくんでした」
「まーくん……小杉拓真さんですね?」
弥生は頷く。
「彼とはどういう関係でしたか?」
「幼馴染みです。それ以上でもそれ以外でもなく、ただ、時折兄のことで相談に乗ってもらっていました。この服もお化粧も、全部まーくんが教えてくれたんです」
「時々、二人で一緒に流川界隈を歩いていたそうですね? あの事件の夜もそうだった」
ええ、と弥生が肯定する。その際に盗撮魔に写真を撮られたのか。
「……事件の夜のことを教えてください」
核心に触れる質問をする。
もはや彼女は躊躇しなかった。




