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目的は婿探し

 最近では昼間から営業しているホストクラブもあるが、シルバームーンは午後5時からの営業だった。

 和泉は広島北署の女性刑事である今西佳織と組まされて、現場周辺の目撃情報を聞きこんでいた。


 初回の捜査会議は今日午後6時から。それまでにできる限り情報を集めたいところだ。

 

 現場周辺の店は夕方から深夜営業している店がほとんどである。午前中はほとんど人気がない。


 中には朝から営業している店もあるが、そういう店はほとんどの客が酔っぱらっているため、あまり期待できない。

 

 ところで、今西佳織という巡査長は大人しい女性だった。

 もともと無口なタイプなのかそれとも緊張しているのか。いずれにしても前回コンビを組んだ佐伯南署勤務の女性刑事とは対照的だ。

 

 あの若い女性刑事は熱心なのはいいが、ちょっとズレていた。

 

 化粧のせいでわかりづらいが、もしかしたら彼女もあの無残な遺体を見て、気分が優れないのかもしれない。

 女性に年齢を聞く訳にもいかないが、恐らく自分よりもだいぶ年下だろう。


「……もしかして、気分悪い?」和泉は声をかけた。

 彼女ははっと顔を上げて、いいえと答えた。

「ならまず、あそこのコンビニから当たってみよう」

 すぐ近くにコンビニがあった。


 いらっしゃいませー、と中年男性が迎えてくれる。和泉は警察手帳を示して事件について訊ねた。

「いやぁ、全然。そんなことがあったなんて知りませんでしたね。私はこの店のオーナーなんですが、深夜はアルバイトの子に任せてるんで」

「そのアルバイトの子は、今日出勤ですか?」

「ええ、今夜も同じ時間帯です」

「今、連絡を取ってもらえませんか」

 オーナーは少し迷惑そうな顔をしたが、相手が警察だからか応じてくれた。

「あ、山下君? いやね、今警察の人が来てて……違うって……」

「今すぐここに来るよう言ってください」和泉が言うと、

「今すぐ店に来れるかな……あ、ほんと、それじゃ」

 すぐ来るそうです、とオーナーは答えた。

『山下君』が来るまで和泉はコンビニ店のオーナーに防犯カメラを見せてくれるように頼んだ。

 もしかしたら被害者がここに立ち寄っており、連れがいたとしたら、その人間がかなり怪しいことになる。

 

 バックヤードに猫の額ほどの狭い事務スペースがあり、パイプ椅子に腰かけて、和泉は防犯カメラの映像を確かめた。 

 

 昨夜の事件発生時前後を注意深くよく見たが、そう上手い具合に有力情報につながるような映像は掴めなかった。

 

 そこへ『山下君』がやってきた。

 恐らく大学生ぐらいだろう。あどけない顔をした若い青年である。

「お忙しいところ申し訳ありません。昨夜、このお店のすぐ近くで事件がありまして」

「あ、あれってやっぱりそうだったんですか?!」

 山下君はびっくりした顔でそう言った。

「どういうことですか?」

「いやぁ、男と女の争うような声が聞こえたんです。何時頃だったかな……ほら、この辺て飲み屋ばっかりじゃないですか。酔っぱらい同士の喧嘩とか、カップルの痴話ゲンカとかしょっちゅうなんですけど……」

「様子は見ましたか?」

「いえ、さすがにそれは……」

「内容は聞こえましたか?」

 山下君は少し考えた後、

「まぁ、よくある話ですよ。金が目当てだったとか、身体が目的だったとか……」

 確かに。しかし、その争い声が必ずしも被害者と犯人のものだったかどうかは定かでない。和泉は礼を言ってコンビニを後にした。

「どう思った?」

「……必ずしも、犯人と被害者の間で交わされた遣り取りかどうかはわかりませんが、可能性は高いと思います。いずれにしろ、店の開店を待って被害者の交友関係を洗う方が確かではないでしょうか」

 ずいぶんと堅苦しい話し方をする。まるで駿河を女性にしたようだ。

 そうだね、と答えてから和泉は、

「あのさ、そんなに固いしゃべり方しなくていいから。そんなに緊張されるとこっちもやりづらいんだよね」

「ですが……」

「言っておくけど、僕、あんまり女性の扱いが上手くないから。マイペースでやらせてもらうよ」

 すると佳織は俯いた。


 まさか泣き出すのか? これから女は……。

 和泉が溜め息をつきかけた時、

「和泉警部補って、噂通りの人なんですね!」

 ぱっと顔を上げた彼女の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。

「……」

「良かったぁ、ホッとしました。それじゃ、いつもの調子でやらせてもらいますね」

「噂って……」

 佳織は悪戯っ子のような笑顔を見せて足を止め、和泉の前に回り込む。

「ファザコンで、バツイチ。頭は切れるし仕事はできるけど、取扱いが面倒くさい」

 ただの事実で実質的には悪口じゃないか。

 誰だ、そんなことを言ったのは。

「でも私、そういうの嫌いじゃないです……っていうか、むしろ憧れちゃうかも」

 和泉は胸の内で聡介を恨んだ。

 この女性刑事と組むよう指示をしたのは父だ。

 

 いろいろ考えた末の結論だったのだろうが、こんな婦警だとは思わなかった。これなら三枝あたりと組ませればよかったのだ。 

「次はどこ行きます? 私、黙ってメモ取りますから!」

 聞き込みに回るというより、遊園地かどこかに来て『次何に乗る?』とでも言っているかのようだ。

「この時間じゃ、あんまり空いてる店はないですけど、ビルの上の方は一般住宅がありそうだから、そっちから回りますか?」

 呆然としている和泉の腕を取って佳織は歩き出す。

 傍から見れば絶対に、刑事が仕事で回っているようには見えないだろう。

 

 刑事にもいろいろなタイプがいる。婦警にもいろいろいるだろう。しかし。

 

 面倒見切れなかったら、とっとと一人で行動しよう。


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