目撃者探し
と、そこへ鑑識課の相原がやってきた。
「班長、よかったらこいつを連れて行ってやってくれないか」
彼は若い部下を連れていた。紺色の制服がよく似合う、真面目そうな男性だ。
「刑事課志望でな。一度、現場を見せてやってくれ。足を引っ張る様な真似だけはしないと約束する」
「長谷川です! よろしくお願いします!!」
敬礼してみせる若い鑑識課員はやる気に満ち溢れているようだ。
思わぬ助っ人が来て、自分は行かなくてもいいと思ったのだろうか、三枝はこそこそと刑事部屋の方へ戻ろうとする。
「手本を見せてやれ。いいな?」
「暑いから嫌だ~……」と、暑苦しい顔をした刑事は言った。
まったくこいつは……生活安全課に戻した方がいい、聡介は心からそう思った。
その後、岩国から戻った和泉と駿河、友永と日下部も総動員させて聡介達は流川界隈を目撃者探しに奔走する。
もちろんすぐにこれ、と言った情報が掴める訳はない。
期待はしていなかったが、暑さの中、少なからず疲労感を覚え始めた頃。
「次行ったらちょっと休憩しよう」額の汗を拭きながら、聡介は和泉に言った。
鑑識課の相原主任が貸してくれた若い助っ人の面倒は駿河に見てもらうことにし、聡介は結局、和泉と行動を共にすることにした。
午後5時、そろそろ飲み屋が開店し始める。
いらっしゃいませー、とエアコンの効いた店内に入る。聡介は入り口のところにやってきた店員に修正した水島弥生の写真を見せる。
「7月2日の夜、この辺りでこの写真の女性を見ませんでしたか?」
小太りで目の細い男性店員は、一目見ただけで目を逸らした。
「知りませんね」
聡介はピンとくるものを感じた。長い刑事としての経験から、相手が嘘をついているかどうかの判断がつく。
「よく見てください」
「知りませんよ」
「殺人事件の捜査です。我々は一刻も早く、犯人を逮捕したいのです。ご協力ください」
「そんなこと言ったって……本当に知らないんです」目がさまよっている。
そうですか、と一旦は引くことにする。店の外に出た途端、
「今の男、明らかに嘘をついていましたね」和泉が言う。
「やっぱりお前もそう思ったか?」
「少し様子を見ましょう」
そこで二人は休憩も兼ねてもう一度店に入り、客席に案内してもらう。
しばらくさっきの男性店員の様子を見張る。忙しそうに店内を歩き回っていた男は、こちらにはまったく気付いていないようだ。
さりげなく男の様子に注意を払う。なんだか挙動がおかしい。
何度も箸やスプーンを落としては床にかがんでいる。
そして立ち方がどこか奇妙だ。
「あの男、盗撮の常習犯みたいですよ」和泉が言った。
「何だって?」
「ほら、ああやって何度も物を落としては屈んだり、無闇に低い姿勢を取っている。もしかしたら靴にも何か仕込んでいるかもしれませんね」
あきれて物が言えない。聡介は思わず溜め息をついた。
和泉は呼び出しボタンを押した。若い女性の店員がやって来る。
「警察ですけど、店長さん呼んでもらえます?」
女性の店員は顔を引きつらせてその場を去った。
「何でしょう? うちは警察のお世話になるような真似はしていませんよ」
まだ若い店長はいったい何事だろうかと、青い顔をしてやってきた。
「お店のことじゃありません。あの男性店員に話を聞きたいんですが、少しの時間お借りしてもよろしいでしょうか?」
店長は従業員のためのロッカールームに案内してくれた。例の男性店員は大量の汗をかきながら、開口一番「すいませんでした!!」と叫んだ。
「盗撮のことなら今は問いません。それよりも、写真の女性のことで伺いたいのです」
聡介は水島弥生のモンタージュを取り出した。
「……名前は知りませんが、会ったことはあります」
男性は汗を拭きながら答えた。
「いつです?」
「正確な日付は覚えていませんが、店の近くで……この女性が、ちょうどいい感じにいい写真の撮れそうな格好をしていたので、後をつけていたんです」
あとで地域課の警官に話しておこう。口には出さず、聡介は質問を続ける。
「それで、どうなりました?」
「どこかの店の前で男と待ち合わせていたみたいなんですが、その男が僕のことに気付いて……カメラは壊されるわ、殴られるわ、さんざんでした」
「自業自得ですね」口を挟んだ和泉の脇を肘でつついておき、
「その連れの男性がどんな顔をしていたか、覚えていますか?」
「ええ、もちろん」
聡介は水島弘樹と念の為、敦こと小杉拓真の写真を出してみせる。
「どちらかですか?」
男が選んだのは、残念ながら聡介の予想とは外れていた。
 




