現場急行
聡介は少し考えたあと、
「とにかく、まずは身元の割り出しだな。周辺への聞き込みは?」
「既に何名かの部下を当たらせています!」
所轄の班長は張り切って答えた。やる気満々である。
気持ちばかりが逸って、肝心なところでコケてしまわなければいいんだけど。和泉は内心で呟いた。
「俺達も行こう。彰彦、お前は葵と……それから、君は俺と一緒に来てくれ」
聡介はそう指示を出して、西野と一緒に現場を出て行く。
じゃ、行こうか。和泉が駿河に声をかけたとき、
「おはよ」と、眠たげな顔をした三枝がやってきた。
そのすぐ後に友永と日下部が続く。
夜遅くまで飲み会でもしていたのだろうか。酒と煙草の臭いが鼻をつく。この3人はよくつるんでいる。
「なんでこんな朝早くに呼びされなきゃいけないんだよ……」
およそ刑事らしからぬ友永の発言に、おそらく普通の上司なら『だったら辞めちまえ』というところだろう。
もっとも上司は既に聞き込みに出掛けてしまったが。
「王子さん、もしかして知ってる顔じゃありませんか?」
和泉が遺体にかけられているシートをめくろうとすると、
「えー、やだよ。僕、死体見ると吐き気がするんだ」
ぶちっ。和泉は血管の切れる音を感じた。問答無用。
三枝の頭をつかんで地面にしゃがみ込ませる。
どうせなら顔だけじゃなく、傷口も見せてやろう。シートを全部めくってみせる。
うわっ!! と、素人のような悲鳴を上げて三枝は飛び退った。
「よく見てください。身元不明なんですよ」
おそるおそる、手で口元を押さえながら彼は遺体を見た。そして、
「……ハヤトだよ」
「ハヤト?」
「3丁目にある『シルバームーン』っていう店のホスト……ごめん、もう無理!」
三枝は走ってどこかへ行ってしまった。
こりゃひでぇな、と友永と日下部も呟いている。
和泉は携帯電話を取り出して、聡介に電話した。
「聡さん、身元がわかりましたよ」
『なんだって?』
「どうします? とりあえず、全員集合しましたが……」
『すぐに戻る。現場で待機だ』
「……パパはなんて?」友永が欠伸をしながら訊いた。
「今夜の飲み会は中止だそうです」
「マジかよ……」
友永は天を仰いだ。
もしかしたら彼も、吐き気を堪えているのかもしれない。
聡介が戻ってきた頃、広島北署の刑事達も一旦聞き込みを切り上げて集まってきた。
そして父は、刑事達の組み合わせを考えると言う、頭の痛い仕事に取りかかるのだ。