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唐変木

 その後、続いた彼の話を要約するとこうだ。


 関西のホストクラブで二人はしばらく一緒に働いていたが、ある日、水島弘樹の母親が病気になったという報せを聞いた。


 勘当された身では実家の敷居を跨ぐことができない。ならばせめて、岩国から近い広島で働くことにしよう。


 弘樹とどうしても離れたくなかった。

 だから彼と一緒に働けるよう、広島で職を探した。


 その時に思い切って自分の気持ちを告白した。向こうは戸惑いながらも、拒否したりはしなかった。


 資金を貯めていつかは二人で店を出そう。そんな夢を描いていたが、思いの外、客からの未払い料金の回収が難航し、いつしか経営者から借金しなければならない状況に陥った。


「そんな時、亜由美さんから引き抜きの話が来ました……」

「MTホールディングスの高島亜由美社長、ですね?」

 ええ、と敦は頷く。

「俺と弘樹、二人いっぺんに引き抜きたいって言ってました。俺達、借金の他にも美和子さんには恩義もあるし、少し考えさせてほしいって返事を先延ばしにしてたんです」

「オーナーに恩義? どういうことですか」

「……」

「過去に何か、警察沙汰になるようなことをしたんですか? そうだったとしても、今はそのことで責めたりしません」

 聡介が言うと彼はあきらめたように、

「2年前に傷害事件を起こしたことがあります。美和子さんに揉み消してもらいました」

 人間は酒が入ると気が大きくなる。少し肩がぶつかっただけでも暴力事件に発展することはままあるものだ。


 その事件の被害者となった男性は病院に運び込まれ、どういう手段を取ったのかはわからないが、示談になったということだ。


「それに俺達、知ってるんですよ……美和子さんと、高島社長のこと」

「どういうことです?」

「二人とも学生時代からの知り合いで、ひどく仲が悪いってこと。要するに俺達は彼女の手駒として利用されてるだけなんです。今よりいい条件で働かせてやるって言っていましたけど、本当かどうか怪しいもんです。折りを見て断ろうと思っていました」

「確かにあの女性社長、性格悪そうですよね」

 余計なことを言う息子を睨んでおいて、聡介は訊いた。

「水島さんは、どう考えていたんでしょうか」

「どうって、何がですか……?」

「店を移ることについて、です」

「そんなの、俺と気持ちは一緒に決まっています」

 敦は自信たっぷりに言ったが、本当のところはわからない。

「高島社長も水島さんがお気に入りだったようですね?」

「あの人は……男なら何でもいいんじゃないですか? 俺もさんざん誘われたし」

「それで何度かベッドを共にした、と?」

 そんな下世話な質問をするのはもちろん和泉の方だ。


 売れっ子ホストは嫌そうな表情をして、

「営業の一環ですから」と、否定はしなかった。

「水島さんの方はどうだったんでしょうね? 誘われて固辞したんでしょうか」

「俺がそんなこと、知る訳ないでしょう?!」

 苛立たしそうに言って彼は、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出してラッパ飲みする。

 手の甲で口元をぬぐい、

「ああ、そういえば……弘樹のこと、妙な渾名付けて呼んでいましたね」

「渾名?」

「唐変木ちゃんとか何とか言って。『唐変木』って何ですかね? いい意味じゃないことぐらいはわかりますけど」

「偏屈で気がきかない人のことですよ。最近じゃあまり聞きませんが」聡介が答える。

 敦はなるほど、と納得の行った顔をし、それから嬉しそうな顔をした。

 

 つまり水島弘樹は高島亜由美にも身体を許していなかったと考えたようだ。

「あの社長、よく人に渾名付けて楽しんでいましたね。携帯の登録もほとんど渾名。地元出身のタレントがテレビでやってるの真似してたんでしょう」

 聡介と和泉は顔を見合わせた。


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