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昼間は寝てます

 夜の商売をしている女性だから、午前中は寝ているだろう。三枝が言う通りに駿河は玉城美和子への事情聴取は午後を狙って行った。


 彼女が住むマンションは市内の一等地であり、外観からして高級そうだ。


 エントランスに足を踏み入れると、管理人がジロリと一瞥くれたので駿河は警察手帳を示す。年配のキツネのような眼をした男性はとたんに俯いた。

 

 集中インターホンで部屋番号を押す。反応がない。

 

 三度ほどしつこく鳴らしてみると、ようやく何よ?! と不機嫌そうな応答があった。


「警察です」

 少し待たされてからガラスの扉が開く。最上階の一番角部屋で、再度チャイムを鳴らすと、ややあってひどく不機嫌そうな顔の美和子が出てきた。


 化粧はしていない。おまけに今起きたばかりのようで、ネグリジェ姿である。正直言って正視に耐えない。


「美和子さん、お久しぶり!」三枝が明るく言うと、視力が低いのか、しきりに目を細めて誰かを確認している。

「あら、大和ちゃん?! あんたがこんな時間から活動してるなんてね」

 どうやら知り合いのようだ。

「うん。自分でもびっくりしてるよ。いろいろ聞きたいんだけど上がってもいい?」

 とたんに美和子は困惑顔となる。


「支度するから少し待ってて。道路の向かいに向日葵って喫茶店あるでしょ? あそこでもいい?」

 おそらく部屋の中には見られてはまずい客が来ていたのだろう。玄関に男物の靴が置いてあった。


 それから身支度を整えて出てきた彼女はまるで別人だった。

 これだから女性はわからないと駿河はつくづく思う。


「こないだ来た刑事さんにあらかた話したわよ。まだ何かあるの?」

 喫茶店のマスターにコーヒー、と一声かけてから美和子は面倒くさそうに言った。

「あなたは水島弘樹さんに大金を貸していたようですね」駿河が訊ねる。

「誰よ、それ」

 源氏名じゃないと通じないよ、と三枝に耳打ちされて言い直す。

「隼人さんです」

「ああ、それが何か?」

「一度、彼の実家に訪ねて行ったそうですね。貸したお金を全額返せ、と」

 すると美和子はふん、と笑った。

「当然でしょ? こっちだって慈善事業でやってんじゃないんだから」

「やっぱりお店の経営、厳しいの?」

 三枝が心配そうに言う。煙草吸っていい? と、美和子はこちらの返事を待たずに細い煙草を取り出して火をつけた。

「去年の改装工事が痛かったんじゃない?」

「……それもあるけど、店の金を持ち逃げしたバカがいたのよ。お金も当人も行方知れず。おまけに今度は、うちの店のすぐ近くにあの女が店を出すんでしょ?」

「あの女?」

「警察ならとっくに調べあげてると思ったけど。高島亜由美よ」

「MTホールディングスの?」

「そう。まともなレストランの経営だけじゃ飽きたらなくなったのね。今度は夜の商売に足を踏み入れようってわけ。初めはただの上客だったんだけど」


 煙草の煙が眼にしみる。駿河は手の甲で目尻を擦りながら、

「隼人さんを引き抜くつもりだったとか……?」

「らしいわね。いかにもあの女のやりそうなことだわ」

 駿河はその言い方にひっかかった。

「……ひょっとして、お知り合いですか? 高島亜由美さんと」

 美和子は煙草を苛立たしそうに揉み消して、

「そうよ、学生時代の同級生」

 何か文句があるか、とでも言いたげだ。


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