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女性の友情関係っていうのは

「ひどいこと言うわね」

 不意に頭上から声がした。

「あらやだ、本人よ! 彼女が今話したこの店のオーナー、高島亜由美」

 麻美の友人だという女性はすらりと背が高く、いかにも仕事ができそうなキャリアウーマンという装いをしていた。白いスーツにきちんと一つにまとめた髪。


 派手過ぎず、さりげないお洒落を意識したアクセサリー。池田麻美の高校時代の同級生ということだが、まるで年齢を感じさせない若々しい外見をしている。

「お味はいかがですか?」

「はい、とても美味しいです」前菜しか食べていないけれど。

「それは良かった。ところで麻美、こちらの美女はどなた?」

「彼女は藤江美咲さん。藤江製薬の……」

「ああ! もしかして研究室長の奥様?」

 実を言うと美咲は夫の肩書すらよく知らない。


「ご主人の会社にはいつもお世話になっているんですよ。忘年会から新年会、歓送迎会を一手にうちでお引き受けさせていただいていて……創立記念パーティーも、株主総会もすべて。お得意様なんですよ」

 とりあえず微笑んでおくしかない。


 その時、ウェイトレスがスープを運んできた。オーナーの姿を見たその女性はやりにくそうにぎくしゃくしながら皿をテーブルに置く。

 オーナーが何も言わなかったので、ほっとした顔で去って行った。


「そう言えば亜由美、昨日は私のお誕生日パーティーに来てくれなかったわよね?」

 麻美が言った。

「あら、ごめんなさい。昨夜はどうしても外せない会議があったの」

「今度出す新しいお店のこと?」

「そうよ……ねぇ、アイスコーヒー持ってきて」亜由美は近くにいたウェイターに声をかけて椅子に腰をおろす。

「この人ねぇ、今度薬研堀通りに新しくホストクラブを出す予定なのよ。美咲さん、興味ある?」

 麻美が笑いながら言ったが、美咲はとんでもないと首を横に振った。


 悪いことをしたかと後悔したが既に遅い。しかし麻美は気を悪くしたふうでもなく、

「そうよね、あなたは見るからに貞淑で真面目な女性ですものね」

「麻美とは大違いね」亜由美が言う。

「……どういう意味よ?」

「そのままよ」

 二人の女性の間に火花が散った。美咲はこの二人が大喧嘩を始めるのではないかと気が気でなかった。


 早く帰りたい。どうしてこんなことになるの?

「ごめんなさいね、びっくりしたでしょう? 私達、何時もこうなのよ。気にしないで」

 高島亜由美が届いたアイスコーヒーにストローを挿して言った。


 仲の良さそうに見える女性同士が影で互いの悪口を言い合っているのは何度も見たことがあるが、表でここまでやりあっているのは初めて見た。

 しかもどちらかといえば、亜由美の方が強そうだ。

 

 メインディッシュが運ばれてくる。正直言って食欲は減退していた。

 

 それでも食べないのは感じが悪いだろう。美咲は無理をしてフォークを取った。

 

 急に料理を運んできたウエイトレスが戻ってくる。

 何か忘れたのだろうかと思ったら、オーナー、と少し青い顔で亜由美に呼び掛け、耳打ちする。

 わかったわ、とオーナーは立ち上がる。


「私はこれで失礼します。ごゆっくり。またいつでもお店にいらしてね」

 正直言ってホッとした。

「京橋川の君……」ぼそっと池田麻美が言う。

 え? と、美咲は彼女の横顔を見る。

「なんでもないわ、冷めない内にいただきましょう」


 鞆の浦に今朝水揚げされたばかりだという真鯛の切り身が、こんがりとソテーされて美味しそうな湯気を立てている。

 これ、どうやって作るのかしら……。


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