ナチュラルがコーリング
「……なんだよ、タダで飲み食いできると思ったのによ……」
温かい料理の乗ったワゴンを押しながら、友永はブツブツ言っている。
「聡さんはそんなに甘くありませんよ」
隣を歩く和泉は言った。
刑事達は全員、給仕係に扮装してパーティー会場に紛れ込むことにした。
招待客のフリをしても、眼つきの悪さで警戒されてしまうだろう、という聡介の意見である。
折りを見て被害者の携帯電話に登録されていた、最後に通話記録のあった『京橋川の君』の番号をダイヤルする手はずになっている。
もしも応答するか、反応する人物がいれば問答無用でしょっ引けというお達しだ。
そう言う訳で刑事達は皆、耳に無線機をセットしていた。
「それにしても友永さんって、無精髭を剃って髪を整えると、なかなかイケメンですね」
「ふん、今頃気づいたのかよ」
ホテルマンは清潔第一。ホテル側は警察に快く協力を申し出てくれたが、友永を一目見た宴会場の管理者は、とにかく髭を剃って髪を何とかしろと命じた。
家庭持ちの刑事や実家暮らしの刑事なら奥さんやお母さんがいつも綺麗なワイシャツを用意してくれるのだろうが、独り身だとなかなかそうはいかない。
いつも薄汚れた格好をしている友永が、綺麗な格好をすると案外男前な外見であることを、和泉は今さらながらに認識した。彼の私生活はまったく知らないが、この人も実はバツイチだったりして。
余計なことを考えて思わず笑ってしまう。
「何笑ってんだよ?」
「いえ、別に」
ところで和泉と駿河は今夜のパーティーの主役である池田麻美に顔を見られている。
そんな訳で変装するよう指示された。変装といっても髪型を少し変えて、伊達眼鏡をかけたぐらいではあるが。
しかし駿河の方は眼鏡をかけてきっちりと七三に髪を分けると、まったく誰だか分からなくなってしまうほどだった。
「こういうパーティーってのは、コンパニオンが来るんだろ?」
友永はそう言ってニヤニヤと口元を緩ませた。
出来たての料理を会場に運び込み、キョロキョロと辺りを見回す。
「……友永さん、本来の目的を忘れたりしてませんよね?」
「覚えてるさ、たぶんな」
本当だろうか?
「あれ?」
その時、会場から出てきた人物に和泉は見覚えがあった。
その人物は特に行くあてもないようで、フラフラと廊下を歩いているかと思ったら、洗面所に姿を消した。
「おい、ジュニア? お前こそ何やって、どこ行くんだよ? おいこら!!」
「自然が僕を呼んでいるんですよ」
「……はぁ?」




