サラリーマン刑事
「毒は使う量で薬にもなれば、人殺しの道具にもなるんですよ。班長、ハンコください」
友永が報告書を持ってやってきた。
普段のらりくらりと掴みどころのないこの、元少年課の刑事が、実はなかなか優秀な警官であることを聡介は最近知った。
「ねぇ、高岡警部。最近よく言われるでしょう? ワークライフバランスってね。残業を強いてプライベートな時間がまったく取れないほど人を働かせる会社は、今じゃブラック企業って呼ばれるそうですよ」
友永は聡介の机に手をつき、禁煙パイプを銜えながらそう言った。
「お前ら全員、覚悟の上で警察官になったんだろうが」
「刑事だってサラリーマンですよ。それとも班長はその王子の友達っていうのが、昨日被害者、水島弘樹の葬儀に来てた胡散臭い女……池田麻美だったとしても、ダメだって言うんですか?」
「なんでそれを先に言わないんだ?!」
聡介は思わず立ち上がって叫んだ。
「だって……本当のこと言っても、どうせ遊ぶ目的で行くんだろう? って、言われるんじゃないかと思ったから……」と、三枝は答えた。
彼はだいぶ上司に信頼されていなかったらしい。
普段の言動を見ていたらそれも無理はないような気もするが。
「そういうことなら彰彦、お前と友永で行ってこい」聡介が言った。
「えー?! 僕が招待状もらったのに!」三枝は悲鳴を上げた。
「そういう台詞はきちんと報告書を仕上げてからにしろ」
石油王子は泣き出しそうな顔で、仕方なく机に向かった。
「なんで俺なんですか? 嫌ですよ、金持ちの見せびらかしパーティーなんて」
指名された友永は髪をボリボリと引っ掻き回して文句を言った。
「ねぇ聡さん、いっそのこと皆で一緒に行きませんか? もしかしたら京橋川の君も来るかもしれませんよ。会場でその番号にかけて、着信音が鳴ったその人が該当者でしょ?」
和泉が笑いながら言った。
「確かにな……」彼の言うことももっともだ。
やった! 三枝は喜んだが、
「お前は電話番で居残りだ」
「なんで?!」
「自分の仕事を終えるまでは本部から一歩も出るな」
そういう訳で刑事達は三枝を残して外に出た。
「……かわいそうじゃありませんか? 聡さんにしてはスパルタですね」
運転席に座り、シートベルトを締めながら和泉が笑う。
「あいつにはあれぐらいでもまだ緩い方だ。根本的にお坊っちゃまなんだよ、文字通りの王子様育ちなんだ」
「気持ちは優しいみたいですけどね」
「それだけじゃ刑事としてはやっていけない」
確かにそうですね、と息子は応えて言った。




