一緒にディナー
「今日ね、周君のお友達を見かけたよ。名前は忘れたけど、ほら、いつだったか五日市港のショッピングモールで一緒にいたでしょ」
「智哉ですか? あの、色白で可愛い顔した」
「うん、そう。こんなこと、周君に訊くのも変かもしれないけど……彼、何かあったのかな?」
「何かって……」
「僕、一度しか会ったことないし、今日だって二度目なのに、なんだかひどく嫌われてるみたいっていうか。気のせいかな?」
和泉は揚げだし豆腐をつつきながら言った。
ついさっき周が作ったらしい。
食卓に並んでいる料理はほとんど彼の義姉が作り置きしていったものだが、自分でもちゃんと料理をするようだ。
「確かに……和泉さん個人に対してって言うより、警察全体に不信感があるような感じではありましたね」
「そうなの?」
「……広島県警の警官はいい噂を聞かないから、あまり親しくしない方がいいとかなんとかって言ってました」
ふーん、と和泉は缶ビールを一口飲んだ。
「で、周君はどうなの?」
「……何がです?」
「僕と親しくするのは、やめた方がいいと思う?」
周はテーブルの上に飛び乗ってきた猫を床に降ろしてから、
「別に、和泉さんは和泉さんでしょう?」
和泉は手を伸ばして、彼の頭をそっと撫でた。
柔らかくて真っ直ぐな髪だ。
「それで、いつになったらやめてくれるの?」
「……はい?」
「その話し方。君は普段から友達にもですます口調で話す訳?」
「だって……目上の人間には敬語で話せってあいつが……」
「あいつ?」
何を思い出したのか周は顔を歪めた。
バサッと背後で音がした。
「こら、プリン!」猫が和泉の鞄を倒したようだ。
周が急いで立ち上がり、元に戻した。
「和泉さん、引っ越しするんですか?」
鞄の中にはいくらか不動産屋からもらった間取り図を入れていた。
「うん。そろそろ居候は卒業して、自立しようかなって」
「……遠くに行くんですか?」
「違うよ、市内だよ。職場になるべく近いところでね」
周はなぜか一瞬、遠い眼をしてから言った。
「……俺も一緒に連れて行ってもらえませんか?!」
「……え?」
「あ、いや……何でもないです」
和泉は膝の上に乗ってきた猫の背中を撫でながら、
「そうだね、周君が学校を卒業して、働くようになったらルームシェアもいいかもね。周君の料理おいしいし」
周は気まずそうに目を逸らした。
何かあったな。
しかし民事不介入ではないが、他所の家庭の内部事情にまで踏み込む訳にはいかない。
正直言っておかしな家庭だとは思うが。