似た者同士
「さすがにケーキ食った後の大福ってのはきついよな」
ハンドルを握る友永が言う。
最近禁煙を始めたという彼は、禁煙用のグッズを口に銜えたまま、横目で駿河を見た。
「なら、食べなければいいのではありませんか?」
「バカ言え、美人にもらった差し入れだぞ。それにしても……班長もジュニアも羨ましいよな。隣にあんな美人が住んでてさ。そういえば彼女、あの事件の時の仲居さんだよな? 名前、何て言ったっけ……」
駿河が答えないでいると、友永は禁煙グッズを灰皿に押し付け、
「お前ら、ガイシャの葬儀で嫌な奴にでも会ったか?」
「なぜです?」
「お前さんもそうだが、ジュニアもひどくイラついてる。それこそストレスが頂点に達して具合悪くなるぐらいにな」
「……和泉さんが……?」
そう言われてみれば藤江賢司があらわれてから様子が変わった。
いつもなら冷静に慇懃な態度を崩さない彼が、確かに苛立っていたように思う。
「ジュニアの場合、嫌いな人間や敵は数えきれないほどいるだろうよ。あいつもかなりクセの強い奴だからさ。っていうか、好きな人間とか味方って高岡パパぐらいだろ?」
「でしょうね」
「嫌いな奴の中でもっとも鼻につくのはたぶん、自分によく似た人間だろうな」
「……え?」
「よほど自分大好きな人間なら話は別だが、大抵の人間は自分と似たタイプを好きにはなれない。鏡で自分の欠点を見てるみたいでさ」
今まで自分と似たタイプの人間に会ったことのない駿河には、理解できるようなできないような、納得がいくようなそうでもないような……。
「ま、それはおいといて。事件の話に戻るけどさ、隼人ってガイシャにはゲイの噂があったって知ってたか?」
「いえ……」
「勝手なこと言うもんだよな。自分を相手にしてくれない男は皆、ゲイだって言う女がいるんだよ。男にだって選ぶ権利があるっつーんだ」
「自分も昔、言われたことがあります」
「……マジかよ?」
「もちろん、そんな事実はありませんが」
本当か? と、友永の眼が疑っている。
駿河はそれをさらりと無視した。
「王子がさ、一流のホストならそう簡単に枕営業したりしないって言うんだ。けどな、俺の感触では……もしかして、ガイシャには本命の相手がいたんじゃないかと思うんだ」
友永は禁煙パイプを灰皿に押し付けて言う。
「つまり、本気で好きな相手がいたから、操を守っていたということですか?」
「ま、そんなところだ。どんなに言い寄っても指一本触れてくれない被害者に業を煮やした女が、他にも女がいるってキレて刃物を振り回したのかもな。そもそも、ホストなんだから何股かけてても不思議じゃねぇだろうに」
「……一つ、反論してもいいですか?」
「黙って反論しろよ」
「一般的に、女性は恋人に浮気相手がいたと知った時、なぜか男性本人ではなく、相手の女性の方を責めますよね」
「そうだな、あんたが色目を使って彼をたぶらかしたんだろう? てなとこか」
言ってから友永は赤信号でもないのに急ブレーキを踏んだ。
後続車が激しくクラクションを鳴らす。慌てて路肩に車を寄せ、ハザードランプをつけた。
「……とすると、被害者が女に殺られたんだとしたら、客の誰かを庇って……もしくはとばっちりを喰らったっていう可能性が考えられるってことか?」
「もしかしたら、という推測に過ぎませんが」
友永は短く口笛を吹く真似をした。
「お前さん、なかなかすごい推理するなぁ」
「友永さんの人間観察力にはかないません」
それはお世辞でも嫌味でもなく、本気でそう思ったから言ったことだ。彼は人をよく見ている。
特に駿河にとって和泉はまったく謎めいた訳のわからない人物だが、どうやら友永は彼のことを割と理解しているようだ。




