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美少年をストーキングする

 正直言って試写会でなければ絶対に観ない映画だ。


 周は欠伸を噛み殺すのに終始した。去年大ヒットした恋愛小説を映画にしたということだが、そんな男は絶対にいない、とか、なんでそこで都合よくそういう展開になるんだ?と胸の内でケチつけてばかりいたら映画は終わっていた。


 ふと隣を見ると、誘ってくれた智哉は涙ぐんでいる。


 純情だなぁ、と呆れるやら感心するやら、彼が女の子だったら、きっと男にモテるだろう、と周は思った。

「付き合ってくれてありがとうね、お好み焼きでも食べて帰ろう」

 智哉が目尻をぬぐいながら言った。


 映画館を出てしばらく歩き、本通り商店街に向かう。


 天気の良い日曜の午後は大勢の人で賑わっていた。行きつけの店などない二人は空いている店を探した。

 観光ガイドに載っているような店はやたらに混んでいるが、実は味はどこもそう変わらない。

「あそこにする?」と、智哉が二階建て雑居ビルを指差した。


 そして次の瞬間、すっと顔から血の気が引く。

「どうしたんだ?」

「……ごめん、周。今から君の家に行ってもいい?」

「え? そりゃ別にかまわないけど」

 何がどうしたのだろう。


「あ、でも……迷惑をかける訳には……」

 煮え切らない曖昧な言い方に周は戸惑った。


 周が戸惑っていることに気付いた智哉は、

「ごめんね、妙なこと言ってるよね」

 ちらりと友人が視線を向けた先を追う。電信柱に半身を隠し、こちらの様子を伺っている男がいる。格闘技か何かやっていたのだろう。服の上からも筋肉隆々なのがわかる。


 遠目にもはっきりと分かる。

 異様な目つきで智哉を見ている。

「知り合い?」

 すると智哉は溜め息をつき、

「ストーカーだよ」

「……まさか、智哉のことストーキングしてんの?」

「そのまさかだよ」

「お前が男だってわかってて?」

「うん……」

 驚いた。彼が女の子のように可愛い顔をしているのは確かだが。

「警察には?」

「行ったよ、すぐに!」この友人にしては珍しく、ひどく怒った顔で答えた。「まともに対応してくれなかった。僕が男だっていうのもあるかもしれない。でも待ち伏せされたり、どうやって番号調べたのか何度も携帯に電話かけてきたり、気持ち悪いんだよ。一回家に訪ねてきたこともあった。警察なんて、本当にあてにならないよ!」

 そう言えば、と周は思い出す。


 智哉が警察に対してあまり良い感情を持っていないことは知っていた。

 それはそんな理由があったということか。


「俺にまかせとけ」

 周は携帯電話を取り出す。智哉は不思議そうな顔をしている。

 迷わず和泉の番号を押す。

「……和泉さん? 周です」

『はぁい、周君。どうしたの?』

「今、どこにいます?」

『今ねぇ、お仕事で出張中』

「……じゃあ、高岡さんも一緒ですか?」

『ううん、聡さんは地元にいるよ。今は広島北署ってところ』

 広島北署なら知っている。県庁や県警本部のビルがある場所の近くで、今いる場所からもそう遠くない。

「わかりました。じゃ、お仕事頑張ってください」

『え? 何?! 僕の声を聞きたかったとか、そういう可愛い理由だったの?』

「……さよなら」

 通話ボタンを切って高岡聡介の番号にかけ直す。


 少し呼び出し音が鳴った後に低い声で『高岡です』と声が聞こえてきた。


 俺にまかせておけと言ったものの、少しだけ躊躇してしまう。

「あ、あの……」

『……周君か? どうした』

「ちょっと相談したいことがあるんです。さっき和泉さんに、広島北署にいるって聞いたんですけど……今から行ってもいいですか?」

 確か彼は捜査1課勤務だと言っていた。

 所轄にいるということはきっと、何かの事件を捜査している途中なのだろう。

 

 仕事の邪魔をして悪いかな、と思ったが、口にしてしまったものは取り消せない。

 

 少しの間があった。

『わかった。どれぐらいでこっちに来られる? 一緒に昼飯でも食べようか』

「すぐにでも行けます」

 そこで周達は聡介と広島北署の前で待ち合わせすることになった。


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