好きなタイプの猫
駿河と友永の二人がスナックの文字が書かれたテカテカと眩しい光を放つ看板の前を通りかかると、客引きの男性が声をかけてきた。
「お兄さん、寄って行かない? 一時間たった3千円ぽっきりだよ」
「可愛い子いる?」
「そりゃもちろん!」
「友永さん……」
班長はこの人に自分を見守れと言っていたが、むしろその逆ではないだろうか。
「わりぃ、今日は無理だ。それよりさ、ちょっと話聞かせてくれないか」
客引きの男からは何も得る情報がなかった。次へ向かう。
「なぁ。お前さん、好きな女のタイプってあるのか?」
歩きながら突然、友永が話しかけてきた。
「それは、今現在の仕事に何か関係がありますか?」
「ない。ただの興味本位」
だと思った。
「……猫なら好きなタイプがあります」
「へぇ、猫。あれか? イギリスティッシュとか、スコッチホールドとか」
だいたい何のことを言っているかは想像がつくが修正する気にもなれない。
その時、暗い路地の向こうから若い女性が飛びだしてきた。
「修ちゃん!!」
駿河に言わせれば半裸のような格好の、未成年ではないだろうかと思われる少女が友永に向かって手を振りながら走ってきて抱きつく。
「よう、志乃じゃねぇか!」
「久しぶりー! もう、修ちゃんってばぜんっぜんお店に来てくれないんだもん」
「わりぃわりぃ、一応これでも仕事が忙しくてな……」
「今から来て!」
「えっ、今から……?」
「そう、今すごいお客さんが来てるんだから」
少女は友永の手を引っ張ってどんどん歩いて行く。駿河は頭の中で素早く計算した。
現場からどれぐらい離れているだろう? もしかしたら客の見送りなどの際に、不審者を見かけていたりしないだろうか。
「お店はどちらですか?」
駿河に話しかけられた少女はびっくりした顔で振り返る。
「……びっくりした、機械がしゃべったのかと思った」よく言われる。
あそこよ、と指さした場所は遺体発見現場からほど近い。
「行きましょう、友永さん」
「え、お前……勤務中だろう?」
「そうです。現場からほど近い場所なので聞き込みです」
なんだ、そういうことか友永は呟いた。
ディスコードと看板のかかった店は三階建てビルの最上階にあった。
重厚な扉は一見しただけでは何の店だかわからない。おそらく会員制だろう。誰でも気軽に入れる雰囲気ではない。
いらっしゃいませ、と和服姿の女性が出迎えてくれる。一目で客ではないと見てとったのか、女性はごゆっくりとだけ言い残して去って行こうとする。
「警察です、少しお話を伺えますか」
おそらくママだろう。彼女は眉を微かに動かし、それでも警察に協力する方が得策だと判断したようだ。
だが席に案内するでなくその場で立ち話のようだ。
「昨夜、この近辺で殺人事件があったのをご存じですか?」
「……さぁ? ニュースも特に見ていません」
「何か大きな音や、争うような声は?」
ママはふっと笑うと、
「この辺りは毎晩のように、酔ったお客様同志のトラブルがありますから。いちいち気にしてはいられません。志乃ちゃん、貴女知ってる?」
すると友永の知人と思われるホステスは、
「これから刑事さん達とその話をするんです」
そう言って志乃は二人を奥の方に連れて行く。
店内はイメージ通りの造りだ。めったに見ないテレビで見た、薄暗くて、妙にキラキラしている。
白いソファーに色欲の強そうな中年男性が、両手にホステスを侍らせて鼻の下を伸ばしている。
そして駿河は通りがかりに思いがけない顔を見つけた。




