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本店と支店の対立

「……どう思った?」

「あのオーナーは少なくとも動機という点では容疑が薄いですね」

 和泉の意見に聡介も賛成のようだ。

「しかし、客の情報を得るのは難しいな……」

「そこはまぁ、なんとかなるでしょう。王子さんもいることだし」

 王子、つまり元生活安全課の三枝大和は市内のホストやキャバ嬢と全員知り合いだという。彼の力を借りれば、必要なら被害者が特に親しくしていた客の情報もなんとかなるかもしれない。


 二人は耳をつんざくような大音量のBGMを背中に店を出た。

「ところで聡さん、お腹空きません?」

 まだ夕食を摂っていないことに気付く。

「そうだな。じゃあ、葵を呼ぶか」聡介は携帯電話を取り出した。

「……もしかして、葵ちゃんとの約束って……」

「帳場が立っている間は必ず、飯は一緒に食べるって約束だ」

 なんだそれ。

「……あいつは今、ムキになって仕事をし過ぎている。そりゃな、忙しい方が余計なことを考えなくて済むのは確かだ。けど、身体を壊したら何にもならんだろう。まともに食事するかどうかも心配だからいつも見張っていようと思っている」

 随分と駿河のことを大事にしているようだ。


 和泉は聞こえないようにあっちを向いて鼻を鳴らした。

 


 昼間は閑散としていた流川も夜になると水を得た魚のように活気づいている。

 会社帰りのサラリーマンやOL、大学生の集団が、わいわい騒ぎながら道幅いっぱいに広がって歩いている。


「で、どうする?」日下部が言った。「4人揃ってぞろぞろ聞き込みに回る訳じゃないだろう? 二人一組だよな」

「じゃ、俺が駿河と組む」友永が言った。

「なんで」

「なんでも何も、班長から言われてんだよ。こいつを見張ってろって」

「班長は見張っていろとは仰いませんでした。見守れと……」

「ああもう、面倒くせぇな。ほら行くぞ」

 友永はさっさと歩き出す。

「じゃ、日下部ちゃんは僕と一緒ね。ちょうどいい機会だから、好みのキャバ嬢がいる店を教えてあげるよ」

 ほんとか?! と日下部は嬉しそうに三枝と一緒に歩き出した。


 駿河は友永の後をついていきながら、会議の始まる前の出来事を思い出していた。


 ほぼ聡介達と同じ時間に捜査本部へ戻った駿河は、上司が広島北署の西野という警部補に話しかけているのを見た。


 言い回しは違うだろうが、いったい部下にどういう教育をしているんだ、と言ったような内容だったと思う。

 めずらしいこともあるものだ。


 思わず聞き耳を立ててしまった。

「あんな、上からものを言うような質問の仕方をさせていたら、答えてくれるものもくれなくなってしまうだろう? まして、相手の職業で接し方を変えるなんて」

「何言ってるんですか。ああいう連中はこっちが下手に出ると図に乗るんですよ」

「そうかもしれない。けど、いきなりあんな聞き方では答える気にもなれないだろう。そうなると早期に解決できたかもしれない事件が、どんどん遅くなる。そうなれば人の記憶もあやふやになる……」

 西野はふふん、と鼻で笑った。

「あいつらは、嘘と虚言にまみれた世界で生きてるんですよ? 警察に本当のことなんか話す訳がない。だったら脅しをかけて、さっさと本当のことをしゃべらせればいい」

「そんなのはおかしい。刑事の仕事はそういうものじゃない」

 なんだなんだ? と、他の刑事達も集まって来る。

「ま、ここで我々があれこれ言っても始まらないでしょう。それにしても高岡警部、見事に噂通りの方なんですね」

「……噂……?」

「およそ刑事らしからぬお人好しで、各所轄の持て余しているクズの寄せ集め班を任されたって言う話は本当みたいですね。名称こそ捜査1課強行犯係かもしれませんが」

 いろいろと問題のある部下ばかり集まっているのは確かだ。

 しかし、自分もその一人なのだろうか?

「……俺の部下達をバカにするな……」

 聡介が本気で怒った顔を駿河は初めて見た。

 西野の言っていることは間違っていないと彼的には思う。しかし、

「何も知らないくせに、暴言は許さん!!」

 その一言で駿河は認識を改めた。


 確かに自分も他の仲間達のことを深い事情までは知らない。


 非番明けは必ず二日酔いで出勤してくる友永も、仕事中にキャバ嬢とメールしている三枝も、ネットサーフィンをしている日下部も、実は何かあるのかもしれない。


 和泉は……そもそも基本的に意味がわからない。


 こうして、本庁対所轄という図式が出来上がったのだった。


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