初回の捜査会議
ひな壇の前方に捜査1課長の大石警視、管理官である滝本警視、そして広島北署の署長が座っている。
管理官の滝本は聡介と和泉のことをよく知っており、話のわかる上司で部下からも慕われている。
まずは被害者についての情報。死亡推定時刻は七月二日、昨夜十時から翌二時の間。凶器に使用されたと思われる刃物についての特徴。
そして一番重要と思われる交友関係。
被害者は店の中でも『四天王』と呼ばれる立場に就く売れっ子ホストだった。
当然、他の同僚達からの嫉妬や羨望を集めていたに違いない。
それから、新しくオープンする他店からの引き抜きの話。今よりもいい条件で働かせてもらえるとなれば当然、そちらに移ることを考えるだろう。
鑑識員が傷口の形状から言って犯人は左利きだと限定できると発言した。
「過去の事例や、被害者の職業を鑑みて、犯人は女だと思われます!」
手を挙げて熱くそう語ったのは、広島北署刑事課の西野警部補だ。
確かに痴情のもつれという動機で考えれば一番ありうる線だろう。そして刺殺、滅多刺しと言われるやり方は意外と女性に多い。
「我々としては被害者の女性関係を徹底的に洗い出し、早期解決を目指します」
捜査指揮を執る管理官は頷いた。それから、
「高岡警部、君も同じ意見かね?」
名指しされた聡介は立ち上がって答える。
「犯人が女性だと決めつけるのは早計だと思います。男女問わず、被害者の交友関係を洗い出す方針で進めて行きます」
捜査1課長は少し驚いた顔で聡介を見つめた。
「わかった。それならそれぞれの方針に従って進めてくれ。必ずホシを挙げるんだぞ?!いいな!!」
管理官が発破をかけるとはいっ、と刑事達は大きな声で返事をする。
次の捜査会議は明日午後8時から。本日は解散ということで、捜査員達は会議室を出て行った。
「和泉警部補」今西佳織が声をかけてきた。
「うちの班長はああ言ってましたけど、私達のコンビは継続ですよね?」
目を潤ませて見上げてくる。
「残念だけど、うちの班長も言ってるんだ。名探偵高岡聡介警部の相棒は、和泉彰彦警部補しかいないんだってね。じゃ、そういう訳で」
和泉は佳織に手を振ってバイバイと言った。
それから聡介の傍に寄る。
「……ってことで、いいんですよね? 聡さん」
父は意外と感情が表に出る。
よほど西野という若い警部補と意見が合わなかったのだろう。
未だに不機嫌そうな顔で何がだ? と振り返る。
「だから、うちはうちで独自に進めるんでしょう? だとしたら僕は当然、聡さんと組むんですよね」
ついでに腕も組んでみる。
「そんなことはどうでもいい。とにかく、敦とかいうホストに話を聞きに行く!!」
どうでもいいって……和泉はちょっとがっかりしてしまった。
それにしても、あの聡介をここまで熱くさせる西野という警部補はなかなかの人物なのかもしれない。
「あと、友永と三枝、それから葵と日下部、お前達は引き続き現場周辺の聞き込み!」
なんだかやけっぱちになっている。
「それと葵! お前、俺との約束忘れるなよ?」
「承知しています」
約束ってなんだろう?
聞きたかったが、そんな雰囲気ではなさそうだ。




