タントの町で2
「ここが宿ね」
店先で掃除をしている女性がこちらに気づく。
「あらアーニャちゃん久しぶり」
「ちゃん付けしないで」
「あらあらアーニャちゃんもそんなことをムツミおばさん悲しいわ」
案内された店も、アーニャの知り合いらしい。
「あらっアーニャちゃんが男つれてるわね」
「男だって」
「あのじゃじゃ馬が男だって」
「俺アーニャのこと、黙ってればかわいいって思ってたのに」
「残念だったな、あいつが黙るのは死ぬときぐらいじゃね」
「それ言えてるな」
宿の中から声が多く聞こえる、と言うか酒の香りも。
「でここが宿よ」
「そうか」
そもそも入り口にカタカナでヤドと書かれているのだからわかりきっているのだが、もしかしたら識字率が低いのかもしれない。とかそんなことを考えながらその女性と共に中にはいると、中は継ぎ接ぎだらけの建物だが比較的きれいな建物だ。
「あれがアーニャの男か」
「あんなひょろ男のどこがいいんだか」
「お前よりはましだろ」
「はぁっ」
中ではテーブルに冷蔵庫、カウンター、それに階段に酒を飲んでいるであろう男が何人か、服に統一感はないが腰に銃を挿している。
「でアーニャちゃんの彼氏さんなんのようなのかしら」
「用って宿を探しに」
「そうなの、なら1泊食事つき明かりなし部屋でタバコ1本ね」
「じゃあそれで1泊で」
そう言ってタバコの箱から1本抜き取り渡す。
「ありがとう、部屋は上だけどまずは食事にしましょう」
そう言われアーニャと共にテーブルに案内される。
「ようアーニャお前傭兵団の方はどうしたんだよ」
「ついにクビか」
「だよなぁアーニャだし、んってことはなんだその男が新しい雇い主」
「………………雇い主」
「うっさい」
そんなアーニャたちはほおっておき、食事を待つ。虫以外ならなんでもこいだ。さすがに虫が来たら食わずに逃げる事も考えておく。
「はいこれ」
そう思い詰めていると、黒っぽい液体と謎の小麦色のスティックが出てくる。
「えっとこれは」
「高カロリースティックと水ですよ、アーニャの彼氏さん」
「こんなやつ彼氏じゃないし、それに彼氏ならもっと」
「団長のような」
「そうそう、って」
そう言ってアーニャの顔が赤くなる。まあそれはもう本当にどうでもいいのでまずは水を口に含む。顔をしかめる。まるで土を口に含んでいるかのような感じだ。次に高カロリースティックと言っていた小麦色の棒状の食べ物を口に含むと、こちらはジャガイモペーストにピーナッツを混ぜ込んだような物で少し口がパサつくがそれなりに美味しく食べられる。そうこうしているうちにアーニャの方にも届くが、それを美味しそうに食べるのでこれが普通の食事なのかもしれない。高カロリースティックはともかく水には慣れなければならないようだ。そうして無言と言うより会話に参加できずに食事を終え、部屋へと向かう。部屋は真っ暗だったので特に内装を見ることもなく手探りでベッドを探り、そのままベッドへと飛び込んだ。