表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/37

7.〈エリア・マップ〉

「ねえカケル。狩猟組合ってどこにあるのかな」

「え?」


 市場を観光していると、白亜がふと思い出したように言った。

 そういえばどこにあるんだろう、狩猟組合。あと今夜の宿もそろそろ決めないと。さっきの串焼きの屋台で聞いておけばよかったなあ。


「うーん。ちょっと天使に聞いてみるから待ってて」

「え、天使さんってそんなことも教えてくれるの?」


 いや。教えてくれない可能性も十分にあるんだけどな。


 視界の右下にあるふきだしアイコンから天使を呼ぼうとしたが、ふと本のアイコンが目に留まった。そういえば〈エンサイクロペディア〉に街の地図くらいあるかもしれないな。まずこっちを試すか。〈エンサイクロペディア〉のアイコンを選択する。


 すると視界に分厚い本が現れ、パタンと開いた。見れば、いきなり『ラッヘラカンプの街』という見出しで始まるページだ。へえ。こっちが探そうとしている項目を開くとは、なかなかやるじゃないか。


 ええと、なになに。『旧王国暦1207年、魔境開拓者のリーダーであったフーゴの妻であるラッヘラの名をとり、村の名をラッヘラカンプと名づけたことから――』って歴史から始めるのかよ! いらんいらん。


 文字を無視してページを手繰る。すると何枚もめくらないうちに街の鳥瞰図が現れた。そうそう、これが欲しかったんだよ。……あれ、でもこれ。僕らの現在地も分からないし、どこに何の建物があるかも書いてない。なんだよ使えねー。


 僕は舌打ちして〈エンサイクロペディア〉を閉じ、結局〈エンゼル・ホットライン〉を使うことにした。


『ご利用ありがとうございます、天使です』

『なあ、この街の地図とかないか? 狩猟組合ってとこに行きたいんだ。あと宿の位置も教えてくれ』

『お客様。言葉が通じるのですから、街の方に聞いてみてはいかがでしょうか。現地の方々とコミュニケーションを取りませんか』


 やっぱり難色を示してきたか。この辺の冒険しろ、というスタンスはブレないらしい。


『そりゃ街の人に聞けば分かるんだろうけどさ。アプリなら地図もあって当然だろ? なんだよあの〈エンサイクロペディア〉の地図は。使いづらいぞ』

『えっ。いえ、あれは地図ではないのですが』

『はあ? じゃあただの挿し絵か?』

『ええ、まあ。街の全景を描いたものです……』

『ふうん。まあとくかく、地図がないと不便だろ。追加してくれ』

『うーん、そうですね。では冒険に差し障らない程度に周辺地図を用意させていただきます。……はあ』


 うん、そうそう。新人だからって仕事を減らそうなんて考えずに、積極的に働くべきだよ。顧客の利便性ってのを、もっと考えてくれないとさ。あと最後のため息は感じ悪いぞ。

 待ち時間なしで、ポコン、と新しいアイコンが追加された。見るからに地図って感じの立方体が並ぶアイコンだ。


『では〈エリア・マップ〉という魔法を追加しましたので、ご利用ください』

『ふうん。仕事が早いじゃないか。やれば出来るんだから、この調子で頼むよ』

『は、はい……』


 なぜか『血管マーク』の絵文字も送られてくるが、間違えたのかな? せっかく褒めたんだから、そこは別の絵文字を使えよ。


 僕はアイコンから〈エリア・マップ〉を使う。すると周辺の地図が入った円形が視界の中央に現れる。円の外に『N』という文字も見えるが、これは『北』ってことだろうな。ついでに方位も分かるのは便利だ。

 地図の入った円の下端に、四角い入力欄がある。ここに『狩猟組合』と打ち込むと、地図は縮尺を小さくしながら現在地と目的地を線で結んだ。経路まで分かるのか、完全にナビだな。


 しかし視界のど真ん中を(ふさ)ぐのは歩くのに支障が出る。少し小さくして視界の左上に常駐させておくことにした。あ、でも戦闘のときは流石に邪魔かな。その時になったら考えよう。


『そうだ天使。銀貨一枚の価値って銅貨百枚分ってことでいいのか?』

『はい、その通りです。いい機会ですので説明させていただきますと、硬貨は白金貨・金貨・銀貨・銅貨の四種類ありまして、全世界で共通です。その交換比率は1:100:1万:100万となっており、これも全世界で共通となっております』


 あれ、世界共通ってことは円とかドルとか、国ごとに通貨がないってことか。言葉が通じるのも便利だと思ったけど、なんだか不自然だ。


『おい、硬貨はどこが造ってるんだ? 普通、国ごとにデザインとか大きさが違うものだろ』

『いえいえ。硬貨は魔物の体内から採取されますので、世界共通でございます。ですから流通している硬貨は、全て魔物から採取されたものですね』


 ええ。なんじゃそりゃ。


『貨幣の流通量が増えすぎる場合は、鋳潰したりして各国で調整しています。旧王国時代には魔物を養殖して硬貨を取り出す造幣局という牧場があったのですが、現在はそのような国力を持つ国は存在しません』

『あ、じゃあもしかして強い魔物から価値の高い硬貨が出るとか?』

『いいえ。弱い魔物からも交換比率通りの確率で、白金貨が出ますよ』


 ということは、硬貨を出す魔物は100万匹ほど狩れば白金貨が出てくることがあるのか。いや銅貨で100万枚も稼げる時点で十分な気がするけど。毎日、串焼きが食べれるぞ。

 ちなみにクリスラビットは硬貨を出さない魔物らしい。硬貨を体内に持つ魔物は、基本的に亜人系が多いという話だった。


『亜人系とはゴブリンなど人の形をしているにも関わらず、人の顔をしていない――』

『おっと。白亜を待たせてるからここまでな』

『え、そうですか……。ご利用ありがとうございました』


 危ない危ない。天使は隙あらば説明を始めるからな。こいつ実は会話に飢えてるんじゃないだろうか。三百六十五日、二十四時間対応だもんなあ。僕が話しかけるまで、ずっと待っているのかもしれない。


「白亜、狩猟組合の場所が分かったぞ。これから行こう」

「あ、そうなんだ。じゃあ行こ。……あとけっこう長話だったけど。どんなお話をしてたの?」


 ……ひぃ!?


 白亜の目が心なしか冷たい。僕は正直に会話の内容を説明した。通貨の知識とか、白亜にも必要だしな。こういうのはちゃんと共有しときたいから、道すがら話す予定ではあったんだけど。


 すると白亜は別の部分が気になったようだ。


「ねえ。私が天使さんと話すのは無理だっていうのは分かるけど。その地図も私には使えないの?」

「そういえばそうだな。じゃあ試しに〈エリア・マップ〉って言ってみて」

「〈エリア・マップ〉! …………何も起こらないね」


 駄目か。


「あ、あと〈エンサイクロペディア〉も試してくれるか?」

「なにそれ。聞いてないけど」

「ごめん。これは完全に忘れてた」

「ふうん。……〈エンサイクロペディア〉! ……これも駄目みたい。ねね、これはどういう魔法なの?」

「天使がひとりで更新してるウィキペディアが見れる」

「へ、へえ……」


 白亜が軽く引いて目を逸らした。白亜も流石にこの魔法はいらないのかな。


 そうこうしているうちに、狩猟組合に辿り着いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ