表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンゼル・ホットライン ~僕のカノジョは恋の奴隷~  作者: イ尹口欠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/37

34.立体縫製らしい

 フェリシテの言っていた通り、ラッヘラカンプからメイユシュテットまでの間には幾つかの村が存在しており、幸いにして野宿するような事態には陥いらなかった。


 予定通り3日目の夕方に到着した村は、前の2日間で泊まった村より大きかった。ちょうどこの村がふたつの街の中間地点にあるらしく、近隣の村との取引も集中しているらしい。


「あれ。ここが中間地点なのか? まだ3日目だけど、メイユシュテットまで7日だったよな」

「うむ。私も知らなかったが、どうも明日1日はここで商売と休息になるらしい。明後日の朝に出発して、やはり3日でメイユシュテットに着くのだそうだ」


 僕の疑問にフェリシテが苦笑しながら答えた。どうやらフェリシテは「7日かかる」という情報は知っていたが、この村で1日費やすということまでは知らなかったらしい。


「良かった~。実はあと4日も歩きづめになるのかーってちょっと不安だったんだよね」


 白亜が晴れ晴れとした笑顔で言った。確かにぶっ通しで6日間歩きづめはちょっとキツいから、中間地点で1日休息というのはありがたい。


 急ぐ旅路ではないから、いい機会だ。しっかり羽根を伸ばそうと思う。


     ◇


 翌日、三人で市場を見に行くことにした。商人が行き交うためか、市場はラッヘラカンプと同じかそれより大きいくらいの規模がある。少なくとも品物の種類はこの村の方が多いはずだ。


 それもそのはず。メイユシュテットからラッヘラカンプまで行かず、この村の市場で売り買いをして引き返す行商も多いらしい。同様にラッヘラカンプとこの村を往復する行商もいるそうだから、この村は交易の拠点になっているわけだ。


 にもかかわらずここが村でしかないのは、


 ……聖域が狭すぎるからだよな。


 ラッヘラカンプにはあった街壁もなく、村は柵で囲われているだけだ。その柵のギリギリ外までが聖域なので、いくら品物が溢れていてもこの村に新たに定住するのは難しそうなのである。なんといっても商人が頻繁に来るため、村の規模に比して宿の数がやたら多い。そのため新しい家を建てるスペースがないらしいのだ。またどうやら井戸の数もネックになっているらしく、村はよほどのことがない限り外部からの定住者を受け入れないとしている。


 なぜそんな話を知っているかというと、朝食を一緒にした行商人のサミュエルさんから聞かされたからだ。僕と白亜はまったく興味のない話題だったが、フェリシテはラッヘラカンプの街しか知らないため、やけに食いついていたのが印象深い。


「しかしほんとに人が多いな」


 昨日、夕方に村に入ったときには市場が終わっていたから気づかなかったが、人が多い。僕の呟きに白亜が答えた。


「ラッヘラカンプより人口密度高いよね。品物も多いみたいだし……あ!」


 白亜が布が並べられている露天を見て、声を上げた。


 なんだろうと思って見れば、どうやら女性物の下着を売っているようだ。それもラッヘラカンプじゃ見かけなかった立体的な奴を。


 この世界に来た時、実は白亜の髪飾り(バレッタ)以外に日本から持ち込めたものがある。下着だ。


 僕は天使の応接室に飛ばされるまで穿いていた柄物のトランクスだったし、白亜は普段使いらしいシンプルな上下をそのまま身に着けていた。


 ……初日に〈ウォッシュ〉を習得していなければ、天使に替えの下着を寄越せと文句を言っていただろうな。


 とはいえ毎日身に着けていれば、布地がほつれたりしていずれ駄目になる時がくる。良質なものが手に入るなら、早めに購入しておきたい。幸い、白亜の〈ストレージ〉にもまだ余裕はあるはずだ。


「白亜、僕も色々見てくるから、買い物してていいぞ」

「あ、ほんと? じゃあちょっと見てくるね。……フェリシテちゃんも一緒に見よう?」

「うん? 私もか?」


 家にしばらく厄介になったから知っているが、フェリシテの下は半ズボンみたいな形の色気のない下着で、上はつけていないようだ。なお予め断っておくと、僕は無罪である。別に着替えを覗いたとかではなく、無警戒に洗濯物として放置されているのを目撃してしまっただけなのだ。いや「変わったズボンだな」と思ってつまみ上げたところ、フェリシテから「女性の下着に興味があるのか?」と聞かれて慌てて手放したというちょっと恥ずかしい思いもしたが。あれが下着だとは思わなかった。


 そんなフェリシテは平均的な発育を遂げた12歳であるから、「そろそろ付けたほうがいいんじゃないのか?」と服の上から分かる膨らみと先端が気になるお年ごろだ。できるだけ視線を逸らして見ないようにしていたが、


 ……弓を射るのに片方だけ覆う胸当てをしているから、自由なもう片方は揺れるし服が浮くしで、やんちゃなことになってるんだよなあ。


 気づくと目を奪われているのと、怖い顔をした白亜に耳を引っ張られるのとで、最近はワンセットになっている。そろそろ耳がもげるのではないだろうかと心配になってきていたところだ。この買い物で少しは改善されることを祈りたい。


     ◇


 女性陣が下着を物色している間、僕はひとりで露天を見ながら時間を潰していた。


 見たことのない果物を試食しては、美味しいものがあれば後でふたりにも教えておこうと位置を覚えておく。もちろん美味しかったものはひとつ購入し、歩きながら食べる。


 そうやって歩いていると、子供向けの人形が並んでいる露天を見つけた。木で出来た人形で、関節は糸で繋がっているらしく可動する。小さなチョッキとズボンを身に着けているが、ほとんど木が剥き出しの簡素な造りだった。


 ……人形といえば、操り人形ってのはどうなんだろう。


 目の前の人形は糸で操るようなものではないが、例えば魔法によって自在に動く人形とか実現できないだろうか。


 【器用】を活かした魔法の開発は、今の僕の最優先課題である。魔法と剣術を編み出せることが分かった以上、そのイメージを確かなものに出来る【精神】はかなり強力な能力値だ。僕と白亜に限って言えば日本でのゲームやアニメ、映画や漫画など、元となる魔法や剣術のイメージはいくらでもある。この世界の達人が苦労して積み上げなければならない創意工夫は、僕らにとってはどっかで見たことのあるもので構わないのだ。


 だからと言って今から僕が【精神】を伸ばすかと言われると、微妙だ。能力値は高い方が強力なのだ。【器用】が3点から4点になった時点で、確実に剣の扱いがうまくなったのを実感している。これまでも上昇のたびに実感があったし、これからもそうだろう。


 ひたすら【器用】を伸ばし続けて至ることの出来る境地があるのならば、僕はそこを目指したい。別に【精神】を伸ばさなくても魔法や剣術を編み出すことはできるし、白亜が編み出した魔術を真似させてもらってもいいのだ。


 よって今は【器用】で出来ることを増やしたいのだが……そもそも操り人形って両手が塞がるものだよな。そうすると同時に剣とか使えないんじゃないだろうか。


「案ずるより産むが易しって言うし。使い方は編み出してから考えるか。……おじさん、その人形幾ら?」


 スキル〈値切り〉を意識して、露天のおじさんに声をかけた。


 〈値切り〉は買い物をしているうちに得たもので、より安く物を買うことのできるスキルだ。値段を下げるためのセリフが脳裏に浮かぶのでそのまま口にすればいいのだが、具体的にどのくらい下げられるかは様々な要因によって変動する。


 商人のそのときの気分もあるし、買う側の印象の良し悪し、原価と利益のバランス、個々の商品の状態など、実際に売り買いの場に立たなければ分からないことが多い。


「銀貨1枚だよ。ほら見てくれ、ここのとこの装飾が細かいだろ。腕や脚も動くんだ」


 ……人形ひとつ銀貨1枚? 高いな。関節に糸を使う分、人手がかかっているのか。見たところ出来は良さそうだけど、材料は大したことなさそうだし半分くらいに下げても大丈夫じゃないかな。


 とはいえ銅貨50枚にしろと言っても、おじさんは渋るだろう。なんせ硬貨がかさばるし、かといってこちらが銀貨を支払ってお釣りを寄越せというのも向こうの手間だ。


 相手の反応を見ながら脳裏に浮かぶ〈値切り〉文句を出していく。「銀貨1枚? 高いなあ。木の人形なんてせいぜい銅貨30枚くらいじゃないのか?」から入り、「でもなあ。……あれ、これ男の子と女の子があるんだね」と流れを変え、「じゃあこうしよう。男女の人形をひとつずつを銀貨1枚でどうだ? それなら買うよ」と最終的に目標の価格を提示する。オマケをつけさせるというのは商人にとっても利益を管理しやすい値下げの手段なので、食品や消耗品などを〈値切り〉するのに最適だ。


 実質半額で買わせろという僕の言葉におじさんは鼻白むが、とはいえ人形はほとんど売れていない。銀貨1枚という値段設定が高すぎるのだろう。このまま売れないのでは単純に赤字だろうし、半額でもふたつ売れるなら悪い話ではないはずだ。


 さすがに半額で売ることに抵抗があるらしいおじさんに「男女セットで銀貨1枚でなら買う」と強気で押し切った。


 そもそも売り方が悪い。人形は男女二種類があり、それぞれ分けて並べられているが、これを一組ずつにすればカップル需要も掘り起こせるのではないだろうか。子供向けにするにせよ、男女一組の方がウケはいい気がする。


「男女セットで欲しがるお客は多いと思うぞ。こうして一組にした方が、売れるんじゃないか?」


 男女の人形をひとつずつ寄り添うように並べ、僕は銀貨1枚を〈ストレージ〉から取り出し渡す。おじさんは「試してみるよ」と言いながら苦い顔をした。余計なお世話だっただろうか。


 人形を買った僕はそれを〈ストレージ〉に仕舞う。〈値切り〉の結果ふたつ買うことになったが、新魔法の実験で壊すかもしれないし無駄にはならないだろう。


 そろそろ女性陣の買い物が終わっている頃だと思い、他の露店を見るふりをしながら女性用下着売り場の様子を探る。白亜とフェリシテはいないようなので、他の露店を見て回っているようだ。


 ……どんなのを買ったのか気になるところだけど。


 宿の部屋は基本的にフェリシテも一緒なので、白亜とイチャイチャする隙はない。ラッヘラカンプからしばらくお預け状態なわけだが、……なんとかふたりきりになるチャンスはないものか。


 そんなことを考えながらふたりに合流したため、フェリシテから「カケルは何かよからぬことを考えているのではないか?」と顔をしかめられた。ううむ、そんなに鋭いなら察して欲しいのだが……フェリシテじゃ無理か。はあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ