33.ままならぬ新技たち
「カケル。実戦で使えてよかったね、〈次元断〉」
「ああ……まあな」
白亜の言葉に、僕はぎこちない笑みを返した。
フェリシテの習得している弓術〈影縫い〉と〈死点撃ち〉は、MPを消費しない。しかしながら、僕と白亜の編み出した剣術の多くはMPを消費する。
この違いはひとえに前提とするスキルが魔法かどうかによるものでもあるし、長い年月をかけて磨き抜かれた伝統の弓術との違いでもある。
伝統ある〈死点撃ち〉を真似た〈死点突き〉のみがMP消費のない剣術として編み出されたものの、魔法的な効果を持ったオリジナル剣術はことごとく燃費が悪い。
つまり何が言いたいかというと……〈次元断〉は素晴らしい威力があるものの、消費MP10点という〈ディストーション〉並みの効率の悪い趣味剣術なのであるということだ。
「でもHPがあろうがなかろうが、関係なく一刀両断なんだぞ。強いだろどう考えても」
「えー。それなら〈ディストーション〉でもいいんじゃないの?」
まったく白亜の言う通りで、相手のHPに関係なく捻じ曲げる〈ディストーション〉も即死級の威力なのだ。しかも〈次元断〉は剣で斬らねばならないため、射程の面でも負けている。
……とはいえ捻じ曲げるのと切断するのとでは違うし。なんかの役には立つと信じているんだけど。
MP効率という点では、実は白亜の剣術も似たり寄ったりだったりする。〈氷纏剣〉は〈アイス・セイバー〉と同じ消費MP4だし、〈水漣刃〉と〈炎舞〉も消費MP3で結局、攻撃魔法を使うのと大差ない。
今のところ代替魔法のない僕のオリジナル剣術〈聖光〉と〈破魔〉に期待できるくらいだが、これらも限定状況に対応できるというだけで常に役立つ類のものではない。
……そうすると唯一の成功作は〈死点突き〉か。やっぱ偉大だな先人の術技は。
先人の術技のひとつである〈影縫い〉を剣術でパクろうとする場合、〈隠密〉と〈罠設置〉が必要になるはずだ。だが矢とは違って剣を相手の足元に刺し続けるのでは意味が無い。それをどうにかしようと思えば〈属性魔術:闇〉あたりに頼ることになるのだが、それをするとMPがかかるようになる。
……もういっそ剣術に拘らず、白亜みたいに魔術を編み出した方が早そうだよな。
白亜のオリジナル魔術は、髪にツヤを出していい香りにする〈トリートメント〉と、固くなったパンを温めつつ柔らかくする〈ホット・スチーム〉がダントツで役立っている。後者は攻撃魔法を作ろうとして失敗したもので、白い蒸気に触れても「あちち」ってなるだけでがっかりしたものだった。食生活が少しだけ豊かになったから結果オーライだが。
そして白亜は〈アイス・ブリット〉という攻撃魔法も創っていた。これは小さな爆発により氷の弾丸を飛ばすというもので、わずか消費MP1で撃てる、一見すると効率のいい魔法だ。実際には小石を投げるのとそう変わらず、HPという壁の前には割りと無力だった。
とはいえノーモーションで投石できるのは悪くないし、牽制だと思えばなかなか使い勝手は良さそうな魔法である。
……結局、今回の戦いでは見てないけどな。
使わなかったということは、牽制にもならないと判断したからだろうか。
「白亜こそ。〈アイス・ブリット〉はどうだった?」
「……っ、そ、それは」
互いに「ぐぬぬ」と唸り、課題の多さに思いを馳せる。そんな僕らを横目に、フェリシテはリザードマンたちの皮を鱗ごと剥ぎ取り、胸の辺りを切り開いていた。
……そういえば亜人系の魔物からは貨幣が取れるんだっけか。
この辺もエンターテイメント性を重視した結果だろう。フェリシテがリザードマンの胸の辺りから銅貨を数枚取り出しながら「チ。銅貨か」と毒づいている光景は、シュールとしか言いようが無い。
白亜も人型の魔物を解体する勇気はないらしく、フェリシテが摘出した銅貨を〈ウォッシュ〉で綺麗にしていた。……僕も手伝うか。
基本的に食用に向かない亜人系の魔物を解体するのは、特に面白い作業ではなかった。
◇
戦闘で体力を消耗した護衛と僕らのことを考え、商隊は休憩してから出発することになった。水で喉を潤していると、行商のサミュエルさんが感心しきりといった表情で話しかけてくる。
「助かりました。リザードマンの集団を事も無げに殲滅するとは……聞いていたよりずっとお強いようですね。なにより魔術師がふたりというのは心強いです」
曖昧に頷きを返す。ちょっと派手にやり過ぎたかもしれない、と反省はしているのだ。とはいえ手を抜いて余計な怪我をするのも馬鹿らしい。この辺のさじ加減は、未だに計りかねている。
「最初のあれは炎の魔術ですよね。ハクアさんは氷の魔術も使っておられたようですし、上位属性をふたつも扱えるとは凄いですね。炎の使い手というだけでも、冒険者でも引っ張りだこなんですが」
「そうなんですか?」
「ええ。上位属性というだけあって下位四属性の魔術より強いですし、特に炎は上位属性のなかでも使い手が多いので、戦闘で使える魔術が多く開発されているんですよ。炎属性の魔術を使える冒険者同士は、よく師弟関係を結んで魔術を教え合っているとか」
「へえ」
なるほど、白亜の5日間で3つは流石にハイペースすぎるだろうが、どうやら魔法を編み出すのは割りと一般的な行為だったらしい。〈エンサイクロペディア〉が網羅していない個人の編み出した魔法は知りたいけど、かといって安易に弟子入りすると後が面倒そうだ。僕の魔法スキルは非常識に多いからあんまり人に知られたくない。
……別に炎にこだわる理由もないし、自分にあった魔法を考えて編み出した方が良さそうだな。
魔法について頭を巡らせていると、サミュエルさんがこちらの機嫌を伺うようにして言った。
「それでですね。リザードマンの皮や装備を買い取らせて貰えればと思うのですが……」
どうやら商談をしたかったらしい。どうせ僕らが持っていても〈ストレージ〉の容量を圧迫するだけだし、現金に変えてくれるならそうした方が楽だ。
リザードマンの鱗は水属性の魔術への抵抗力を増す効果があるらしく、皮ごと加工したレザーアーマーは優秀な防具になるらしい。とはいえ軽いし薄いし鱗も硬くないため、後衛の魔術師が身に付ける軽鎧の材料に最適なのだそうだ。
そういう話を聞くと、普通のレザーアーマーを買ったばかりの僕らは早まったような気がしてならない。まあ値段も相応に跳ね上がるだろうし、そうすると今の手持ちだと厳しい。ラッヘラカンプを出るときには鎧が欲しかったわけだから、そのタイミングもあるし。次に装備を更新するときは、そういう特殊な防具も視野に入れたいところだ。
派手に焦げた皮は買い叩かれたものの、荷物になるよりマシだと思って気前よく手放した。それでも全部で銀貨6枚の稼ぎになったので、悪くない。なにより『D-』程度の魔物なら複数と遭遇しても勝てると分かったのは大きな収穫になった。
「なあカケル。街道はちゃんと聖域か?」
「急にどうしたフェリシテ?」
「いや……なんか嫌な感じがするんだ。どうもこの街道が安全だと思えない」
さすがに【感知】が高いフェリシテだ。魔法も覚えたし、魔境と聖域を感じ取れるようになったのかもしれない。
「お察しの通りだよ。虫食いみたいに魔境になってる」
「……やはりか!」
ギラリと目を光らせたフェリシテの頭を白亜が撫でる。
「フェリシテちゃんは遂に違いの分かる子になったね。見分けがつかないの、私だけになっちゃったか」
「ハクアは新しい魔術を編み出すからな。そのうち魔境と聖域を識別する魔術も開発するのではないか?」
「魔境と聖域を識別する魔術……」
白亜が「そっか魔法で識別すればいいのか」と真剣な顔をしだしたので、これはまた新しい魔術を編み出すのも時間の問題だろう。
僕もそろそろ魔法を編み出したいところだが、適性の高い属性が光と闇で、あとは〈契約魔術〉というのがイメージし辛い。別に他の属性でも良い気がするのだが、なんとなくやる前から成功率が違う気がする。
……もっとも白亜のギフトのおかげで適性のない魔法も編み出せそうな気はするけど。でも得意属性の方が効率はいいはずなんだよなあ。
僕が重点的に鍛えているのは適性のある光・闇・契約魔術と、パーティ内で他に使い手のいない空間魔術・情報魔術・神聖魔術・結界魔術・時間魔術だ。やることが多すぎて正直MPがもたないが、特に空間・時間と情報については明らかに有用かつ使い手が希少なはずで、そうすると放っておく手はない。そもそも〈ディストーション〉を極めて強敵を捻じり殺すのが当初の僕の魔法に関する方針だったのだから、これを鍛えるのは当然のことだ。
休憩の間に〈マイ・ステータス〉を確認しておく。リザードマンの群れはなかなかの強敵だった。案の定、SPを得ていた。殺したときに近くにいればいるほど、魔物の魂を得る割合が大きいらしい。戦場で戦っていた僕と白亜がSPを増やすのは当然だ。とはいえこの調子だと、行商をしているサミュエルさんは結構能力値が高いのではないだろうか。
『名前:マツダ・カケル
種族:人間 年齢:15 性別:男
HP:21/21
MP:43/61
筋力:- 器用:3 敏捷:- 知力:- 精神:- 感知:-
ギフト:〈永遠に変わらない愛〉
スキル:〈性技〉〈剣技〉〈属性魔術:水〉〈空間魔術〉〈情報魔術〉〈神聖魔術:エルミーユ〉〈剣技指南〉〈生物解体〉〈値切り〉〈属性魔術:光〉〈属性魔術:闇〉〈契約魔術〉〈属性魔術:地〉〈属性魔術:火〉〈属性魔術:風〉〈属性魔術:炎〉〈属性魔術:氷〉〈属性魔術:雷〉〈結界魔術〉〈時間魔術〉〈暗視〉〈望遠〉
魔術:〈エンゼル・ホットライン〉〈ストレージ〉〈エンサイクロペディア〉〈マイ・ステータス〉〈エリア・マップ〉〈ウォッシュ〉〈クリエイト・ウォーター〉〈ウォーター・スピア〉〈ホワイト・ノート〉〈ヒール〉〈ディストーション〉〈ライト〉〈シェイド〉〈コントラクト〉〈ドロップ・サンド〉〈ティンダー〉〈ブリーズ〉〈フレイム・ランス〉〈アイス・セイバー〉〈サンダー・アロー〉〈アラーム〉〈ストーン・ハンマー〉〈ファイア・ボルト〉〈ウィンド・ブレイド〉〈アワーグラス〉〈サンダイアル〉
剣術:〈次元断〉〈死点突き〉〈聖光〉〈破魔〉』
『名前:イチジョウ・ハクア
種族:人間 年齢:15 性別:女
HP:16/18
MP:28/36
筋力:- 器用:- 敏捷:- 知力:- 精神:3 感知:-
ギフト:〈期待する瞳〉
スキル:〈属性魔術:水〉〈剣技〉〈水流操作〉〈属性魔術:火〉〈属性魔術:炎〉〈属性魔術:氷〉〈温度操作〉
魔術:〈ストレージ〉〈マイ・ステータス〉〈ウォッシュ〉〈クリエイト・ウォーター〉〈ウォーター・スピア+弐之槍〉〈ティンダー〉〈フレイム・ランス〉〈アイス・セイバー〉〈ファイア・ボルト〉〈トリートメント〉〈アイス・ブリット〉〈ホット・スチーム〉〈ウォーター・コート〉
剣術:〈水漣刃〉〈炎舞〉〈氷纏剣〉』
これだけ魔法ばかり増えているとMPか【精神】に振りたくなる。とはいえMPはいくらあっても不足を感じるだろうし、今更【精神】を伸ばし始めるのは業腹だ。逆に考えよう。【器用】を活かせる魔法を編み出せばいい、と。
……あれ、意外と名案なんじゃなかこれ。
指先に連動して操作できるような魔法があれば、それは【器用】を活かした魔法ということになるだろう。あくまで肉体を上手く使えるようになるのが【器用】の特性だから、別に足でも腕でもなんでもいいのだが。
なんとなく光明を得た思いがしたので、この方針を少し深めてみることにする。SPは変わらず【器用】に振って、新しい魔法の構想にとりかかった。




