表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンゼル・ホットライン ~僕のカノジョは恋の奴隷~  作者: イ尹口欠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/37

30.〈トリートメント〉-白亜side-

 カケルが剣を振る。振りながら「次元断!」と叫ぶのを聞いて、私とフェリシテちゃんは「ぷっ」と噴き出した。次元断だって! ちょっと安直すぎないそれ?


恥ずかしそうにしながら、カケルはまたも剣を振った。


「次元断!」

「「ぷっ」」


 この世界の魔法は名前を唱えることで効果を発揮する。長ったらしい詠唱や動作が必要ないから便利なのだけど、それは剣術にも同じことが言える。技名を唱えなければ発動しないわけだから、まだこの世界に存在していない技について練習する場合でも、自分で名付けた技名を唱えなければならない。オリジナルの剣術を編み出す道のりは、違った意味で険しいみたいだ。


     ◇


 フェリシテちゃんが同行を頼んでいる商隊が出発するのは、彼女と一緒に森に行った日から5日後の予定だった。


 だから数日は狩りや訓練のために時間を使える。私とカケルは新しく使えるようになった魔法スキルの習得と、剣術を編み出すつもりでいた。


 それにしても……魔法スキルの習得方法についてはもっと早く教えて欲しかった。基本魔法を唱えて適性の有無を知るという方法はフェリシテちゃんから教わったことだけど、この世界では恐らく常識の部類だと思う。〈属性魔術:水〉を習得したとき、天使さんから説明してもらったりしなかったのだろうか。


 いつでも天使さんと話が出来る割に、カケルは会話を面倒がっているフシがある。頻繁に更新されている〈エンサイクロペディア〉も必要に迫られなければ、ロクに読まないみたいだし。ウィキペディアの関連項目を延々と辿ってみるとか、したことないのかな。まあ勉強に関しては私もカケルのことをどうこう言えないけど。なんせ同じ高校、同じクラスだったから、お互いの成績は想像がつく。中学時代の偏差値は50未満だ。


 ……なんか天使さんはケチで信用ならないって言ってるから、仕方ないのかもしれないけど。


 確かにまだ若い身空のふたりを異世界に送り込むのはどうかと思う。お父さんとお母さんにはもう会えない。ファフちゃんにも……。


 ファフちゃんというのは、ウチで飼っている犬だ。犬種はバーニーズ・マウンテン・ドッグで、黒くておっきい子だ。お父さんがファフニールと名づけたけど、私とお母さんはもっぱらファフちゃんと呼んで可愛がっている。


 ……この世界でも、犬が飼えるといいなあ。


 さすがにフェリシテちゃんを犬扱いする気はないけど、耳と尻尾を撫でていると落ち着くのは確かだ。


 とはいえ犬を飼うかどうかの決定権はカケルが持っている。ズルい。


 ……私に〈契約魔術〉があればコーギーで即決なんだけど。でもやっぱり仲間にするならドラゴンとかの方がいいのかな。まだドラゴン、見たこと無いけど。それに最大MPが減るみたいだから、あんまり無節操に契約できないみたいなんだよね。


 そうそう、最大MPで思い出したけど。私の目下の悩みは最大MPが少ないことだ。


 フェリシテちゃんがMP8になって大喜びしているところ悪いけど、魔法をもっと使いたい私にとってMP31は少ないのだ。なんせ〈ウォーター・スピア〉の消費MPが3なので、10回も使ったらMP切れになる。これは厳しい。


 新しく増えた〈ファイア・ボルト〉は〈ウォーター・スピア〉と同じ消費MP3で、上位属性の〈フレイム・ランス〉〈アイス・セイバー〉は共に消費MP4とむしろ重くなる。もちろん上位属性の方が出てくる魔法が大きくて威力があるのだけど。


 使える魔法が増えるのは嬉しいけど、使える回数が増えなければ意味が無い。SPでMPを指定すれば5点も増えるようになったけど、できれば【精神】に振り続けたい。カケルがSPでMPを15点も増やせることを思うと、私がMPを増やすのは勿体無く思えるのだ。


 私がやったことのあるゲームだとどうだったかな。魔法使いをパーティに入れていたけど、大抵は戦士の「たたかう」コマンドに頼っていたと思う。もしくは魔法の効果がある道具をいちいち選んで節約していたかな。お金のある後半なら、MP回復アイテムを沢山用意して使い放題にしていた。そうでなければ……


 ――消費MPを軽減して、沢山使えるようにした。


 これかな。私の〈ウォーター・スピア+弐之槍〉は攻撃回数を増やすことで、命中時限定とはいえ一度に2回分の効果を得ている。ある意味で節約しているようなものだ。


 実は節約という意味では消費MP1の〈クリエイト・ウォーター〉を使うことでそれができなくもない。〈水流操作〉のスキルで生み出した水――今ではなんと3リットルにもなる!――を足元にぶつけるのだ。相手は体勢を崩すだろう。


 ただこれには制限があって、そもそも攻撃魔法じゃないからHPを減らすほどの威力は出せないのだ。色々試した結果、〈水流操作〉を使っても〈クリエイト・ウォーター〉で生み出した水から刃を作ることはできないことが分かっている。


 多分〈ウォーター・スピア〉の方に「水を槍にする」という効果があって、〈水流操作〉で再利用している水にもその効果が及んでいるから〈弐之槍〉が発動しているのだと思う。ただ水を生み出す〈クリエイト・ウォーター〉はいくら操作しても、武器のように硬くなったりはしないということだ。


 ……やっぱり、消費MPが安い攻撃魔法を編み出すしかないんだよね。剣術が編み出せるなら、別に魔術が編み出せないことはないでしょ。同じ()ってついているし。天使さんはよく新しい魔法、作ってるみたいだしね。


 カケルが剣を振っているのを、視界に収めながら考える。「剣術を編み出す」と言って練習しているカケルを「そんな上手くいくわけが……いやしかし……まさか」とそわそわしているフェリシテちゃんの尻尾をナデナデしながらだ。〈ウォッシュ〉で綺麗にした尻尾は、昨日と違ってふさふさのふわふわ。惜しむらくはこの世界に良質のトリートメントがないことか。もっと毛づやがあった方が、手触りがいいのだけど。


 一応、雑貨屋に香油があったので購入していたけど、質は満足のいくものではなかった。〈ウォッシュ〉で綺麗にした後に塗ると、髪にツヤが出るのでひとまず使っているけど、香りが好みじゃない。


 量も多くはないので、フェリシテちゃんの耳と尻尾に使うとあっという間に無くなってしまうだろう。銅貨50枚もした高いヤツだから、いくらなんでも勿体(もったい)無い。それでもフェリシテちゃんの尻尾のために投入するべきか。でも装備も買いたいんだよね。香油ばかりにお金は使えない。


 ……天使さん、ポーションじゃなくてトリートメントが欲しかったです。いやそれとも新しい魔法、まずはこっちを編み出すべき?


 魔法はイメージが重要だ。新しい魔法ともなれば、自分の中にしっかりしたイメージがなければ生み出せない。〈弐之槍〉のときもそうだった。〈ウォーター・スピア〉の掻き消えようとしている余った水を、まだ刃にできるという確信にも似た感覚。それがあった。


 【精神】はイメージをするのに必要な能力値だと思う。新しい魔法を作るのに必要なものだ。結果的に私は魔法使いに一番必要な能力値を伸ばしているのだから、活かさなければ損じゃないだろうか。


 思いだせ。特に思いれもないけど不満もなかった美容院で勧められるがままに使い続けていたトリートメントの液体。チューブを押すと吐き出されるボテっとした乳白色の塊。あれ、液体じゃない? ううん別に液体かどうかは重要じゃない。とにかくあの香り。そして髪のツヤ。結果としてそれが再現されれば過程はどうでもいい。〈ウォッシュ〉が水属性なんだから、水属性だけで再現できるはず。


 カっと目を見開き、尻尾を撫でていた手に【精神】を集中させる。そして唱えた。


「〈トリートメント〉!!」

「「!?」」


 手元から出た乳白色の液体が尻尾を包み込み、全体をまんべんなく潤して消えた。するとどうでしょう、フェリシテちゃんの黒みがかった茶色い毛並みにツヤが!


 ふさふさでふわふわで、そしてつやつやになった! 完璧だ!


 思わずニヤニヤして尻尾を撫でまわしていると、フェリシテちゃんが「おおーなんか知らないけど凄くいい匂いがする!」と喜んでくれた。


 カケルが唖然としながら、言った。


「白亜。今のは、なんだ?」

「新しい魔法、〈トリートメント〉だよ」

「「!?」」


 「新しい魔法」という言葉に、フェリシテが信じられないものを見るような目で私を見上げた。カケルも「なぜそんな……いや確かに有用そうだけど……」と困惑を隠しきれずに呟いた。


 ふっふーん。なんか勝った気分。これで今日から私の髪もツヤが増していい匂いがするようになるね。女として美容に妥協してはならないのだ。


 よおし、この調子で消費の安い攻撃魔法も編み出すぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ